『粘菌の観察』
警告。面白いか面白くないか、わかりかねます。
その部屋は一つのモノしか存在していなかった。うじゅるうじゅると床を這いずっている人型のモノ。少女のようであるがその身体は透明で、彼女は所謂粘菌族≪スライム≫であった。
「あのぉー。ここってどこなんでしょうかねぇ」
相変わらず、草原を徘徊していたところまでは覚えているのだが途中で気を失ったようだ。
床、壁、天井は白であり彼女の歩いた後は粘菌族特有の分泌物で汚れていた。
「もしかしてわたし軟禁されてるんですか!? え、粘菌が監禁? なんちゃってー!」
ふぅ。ため息をついた。無理してテンションを上げたのが間違いだったと後悔する。彼女は部屋をもう一度観察した。
そこまでは広くはない部屋だからいかんせん見るものがない。そして気づいた。
「あれ、監視カメラですかねー?」
天井の角、二機のカメラがあった。集音マイクも備えてあるタイプで、明らかに動いていた。彼女は話しかけてみた。
「すいませーん。わたしって絶賛監禁中なんでしょうかー?」
レスポンスはなかった。ただ、うじゅるうじゅると彼女の動く音がしている。
「もー。なんなんですかぁ、まったく」
彼女はスライムである。体力も高くはない。しかし、彼女はスライムである。
思考の単純化。体細胞の進化が行きついた先。ただ一つで個を形成する群れなき者。足りないものはない。
「まったくですよ。私ったらただのスライムなんですから!」
ヒットポイントなんて五しかないんですよ、とつぶやきながら彼女は眠りについた。