あの日の記憶
私の好きな人は、海のような人で、私はその人の瞳に恋をした。
緋色の瞳は、獣獲たような野生のモノで優しくない、その瞳に恋をしたのだろう。
「昊!!勝負なッ」
「何回めだよ!テメぇ毎回負けてるくせに」
そう言うのはハチミツ色のさらさらな髪を持っている昊で、私の好きな人だ。
「今回は勝つもんッ先にスリーポイントシュート三回決めたら勝ちね♪」
「碧バスケ部だし、勝たなきゃメンツ潰ししな」
と、笑う昊に私は勝ったことがない。
毎回、1on1やフリースローで負けて、罰ゲームで生き恥をさらすようなことをさせられて来た。
ダム、ダムとバスケットボールを床に打ち付ける音が体育館内に響く。
「じゃあ、今回は…」
そうやって笑う昊は楽しそうに準備運動をする。
「好きな人に告白する、で♪」と言う。
知っている。
コイツに負けたら告白しなきゃいけないのも計算済みだ。
この勝負に負けるのはアイツだった。
シュートを打つ準備を始めるときに話しかける。
「誰に告白するの…?」
「はぁ…?、チッ外した。」
ほら、好きな人の話をすると動揺して外しやすくやってる。
「なぁ、」
「ん?」
アイツが打ったボールは弧を描いているが僅かにずれてゴールを外す。
「俺、薫に告白された。」
「え…、そうなんだ」
動揺が隠せないのがいらつく。
「うん、どう思う?」
どうなんて、知らないよ…。
そんなの聞かないで…、だって、いいんじゃないと答えれば付き合うんでしょ…?
「…分かんないや、薫って綺麗だし、付き合っちゃえばぁ?」
そんなの思ってなんかいないよ…!!
でも、声に出して言ってはいけないと直感で感じた。
「…いいのかよ」
小さな声で呟いて、機嫌が悪くなる昊。
「え…、あっ入った、また昊の勝ちか…、」
予想は外れた。
あんなこと言うからだ。
「一週間以内に告れよ。連絡しろよな。」
そう言って帰って行った。
そして、二日後、昊と薫が付き合っていると言う噂が広まった。
「ねぇ!」
声を荒らげて私に近づいたのは昊と付き合うことになった薫だった。
「あのさぁー…昊くんに何したの?」
「え…、何を?」
「私、告白したの、でも断られた『碧が好きだから』って言われて、」
え…、嘘。
初耳なんだけど。
「でも引き下がれなかった。だから、言ったの『フられたら私と付き合って』って」
「ちょっと待って!!私、フってもいないし、ましてや告白されてないから!」
「気付いてないの?!」
何で…?
分からない、いつ…?
「あっ…」
ー付き合っちゃえば?ー
その言葉が酷く重く突き刺さった。
その瞬間私は走った。
アイツのいる体育館に、全力疾走して。
息の切れるくらい。
先生に怒られるくらいに。
「昊ッ!」
「んー…?」
息を整えて、大きく息を吸ってから小さく言葉を空に放つ。
「好きだよ…薫に負けないくらいに、大好きだよ」
そう言ったときになぜか涙がこぼれ落ちた。
「俺も、好きだった」
その言葉が酷く重く、悲しく響く。
「今は…」
「…うん、薫のもとに言って来なよ♪」
「悪ぃ、」
そう言って走り去っていく昊が消え、涙が溢れ嗚咽を堪えきれずに名前を呼びながら泣いた。
「そ、…昊、昊ッ」
私はあの二つの背中を見つめて生きて行くのだろう。
泣きながら私はこの想いに別れを告げて。
二人の幸せを願いながら。
一歩、また一歩と歩き続ける。
笑って、二人を見届けられる日を、今も夢に見ている。
団体・個人名は架空のものであり。
この物語はフィクションです。