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第六章:雨の光と

端っこから誰かが見えた。

誰ですか?

私はここにいるよ?

真っ直ぐみつめた雨は、白かった。

私のようで怖かった。

震えるからだと光。

涙なんて知らない。

知らないものなんてきっといらなんだよね。

ねぇ――――そうだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お姫さまは病気にかかってしまったのです。

その病気は言いつけを破ったものにかせられる重いものなのです。

すぐに死んでしまう病気なのです。

少年はお姫さまを抱いてお城に戻りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

明け方の6時。

6月だということでまだ朝は肌寒い感触はあった。

しかし、そろそろ7月。

もうあと数時間で暑い陽射しがでてくる。

そんな空の下の病院にはまだあの二人がいた。

看護婦達が心配そうに二人を眺める。

「俺がしっかりしなきゃ・・ならなんですよね?」

何度も聞いたことのありそうな言葉。

「できればね。彼女のことを守りたいならなおさらお願いしたいんだよ。」

井上がはっきりといった。

冷房がかかった音がした。

ひんやりした空気とだんだんと大きくなる周りの音。

「それは勿論。あたりまえじゃないですか。ことりのためなんですから。」

――――――――空が嫌いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポツポツ。

窓が呼びかけてきた。

コンコン。

雨が話しかけてきた。

なにか。

なんだろう。

私に何をいいたいんだろう。

暗い視界から雫が滴れ落ちた。

―――冷たかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん・・」

薄い光の中に、少女が目を覚ましたのは真昼間だった。

窓から流れてくる温い風が頬にはりつく。

乾いた皮膚が起こした。

温かい陽射しとぬくもり。

少し湿った手のひらが目にとまった。

伸びた爪が印象的な自分の指。

重なる大きな手。

「…ん?起きたか?」

ちょっと寝ぼけたようだけど、懐かしい声。

「お前、ずっと寝てたんだぞ?」

わからない。

なにもかもが。

誰?

「んあ〜…俺、ちょっと顔洗ってくるよ。」

重たい腰を持ち上げて、誰かが病室をでた。

誰かが自分の目の前からでていった。

誰なんだろう。

ただわからないまま、目を閉じた。

 

 

 

 

 

お姫さまはお城の人にとられて少年は牢屋にいれられてしまいました。

暗い部屋の中で少年は、ずっとお姫さまのことを想っていました。

でも、願いは届きそうにありませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

空には白い曲線が見えた。

ちょっと肌寒い風。

水のような感触と温まるような言葉。

「きっと」なんて言葉は、もう懲り懲り。

「きっと」なんてイラナイノモ。

 

 

 

 

 

赤い光が窓に反射して手の平に黒い影をつくった。

「ことり。なんか食うか?」

知らない声。

誰?私を呼ぶ声は?

「ってか、俺が腹減ってんだけどな。」

思い出せない。

何も。全てが真っ白に消えてる。

「ことり。これ。」

すっと渡された3冊の大学ノート。

パラパラとめくってみた。

「あ、俺それはみてないからな。」

どんどん復元されていく感じ。

肩の震えが止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「…水希?…水希でしょ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

すべてがわかった。

っというような話をしてくることり。

「私…私、なにもわかっていなかった…」

残念そうにすることりと裏腹に、水希が笑って答えた。

「そういうことだってあるさ。俺だってど忘れだってあるよ。」

「あ、あのさ!」

「ん?なんだ、ことり?」

重くなる空気。

「私ってもうダメなのかな?」

ナイフで胸を抉られたような言葉。

「お前…なにいって」

「ダメなんでしょ?私、もう死ぬんでしょ?」

「そんなこと…」

「嘘。井上先生と話してたでしょ?私の身寄りがないから水希に。」

水希から目を離して、

「私が死んでも誰も悲しくなんてないから。きっと水希ならわかってくれるから…」

「ふざけんなっ!!」

「…!」

ビックリしてガタッと揺れた。

「誰もかなしまないだと?確かに俺はお前がいなくなったら悲しいさ。でもな、悲しいのは俺だけじゃない。皆なんだ。」

「間違ってるよっ!それは水希の勝手な想像だよっ!」

「違う!間違ってるなんてないんだ!」

「水希は何もわからないんだよっ!何も…何も!」

「わかってるさ!俺はお前のすべてを!」

「わからないよっ!私の気持ちなんて知らないんだよっ!」

「…っ!」

水希の勢いが止まった。

個室だけの沈黙と、凍りつく廊下。

入りづらそうな看護婦達。

「出て行ってよっ!」

そっぽを向いて水希に向かって枕を投げたのだが、むなしく床に落ちた。

「・・・・」

水希は無言で白い枕を拾い上げ、ことりの足元に置いて、出て行った。

靴を引きずる音が徐々に聞こえなくなっていった。

息を殺して涙することり。

壁に寄りかかって悔しがる水希。

二人が初めて崩れた日。

―――その日も病院は慌てていた―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

二人はいつも手を繋ぐ。

離さないように。

逃げないように。

ぎゅっと掴んでた。

でも、その日だけ。

二人は背中合わせ。

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