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第四章:ながぐつ

こっちはザァザァ。

あっちはポツポツと。

寝返りをすれば変わる雨音がした。

そしてコチコチと時計の針も一緒に。

だんだんと薄い光りが地面を照らしてきた。

でもまだザァザァ雨。

おひさまは輝いているのに、雲は機嫌が悪そうな雨。

こういうときは、足をあげて。

靴を飛ばす。

立つかな?裏返るかな?または横かな?

クルクルと回る靴。

今日の天気は?

――――晴れです。

 

 

 

 

 

 

 

時計は逆L字の形をしていたころだと思う。

昨日のどしゃぶりになりかけていた雨は、何事もなかったように快晴な天気だった。

そして照りつける暑い熱。

6月の終わりなのか、長袖を捲り上げるほどのこの暑さ。

ムシムシと嫌な聞こえない音が耳にはいってくるようで、なにが無性に気分が悪い。

「あ〜・・あづい。」

水希は重い足取りで病院へ向かう。

そう、今日はことりと街へ行く日なのである。

ほぼ毎日雨な天気だったのだが、今日に限って快晴という日和であった。

心地よい風が流れる中、太陽だけはしっかりと熱を放射していた。

今日は少し膨れた財布を持ち、ちょっといつもより装飾品を多めにして病院へ。

なんだって今日はことりとの――――デート、みたいなものだから。

「なんだかなぁ。ヤバ・・なんか緊張してきた。」

水希は手のひらに汗が大量に出てることに気が付かず、何気に早歩きに。

そして、つくのはいつもの駐車場とちょっと汚れた病院。

待ち合わせの時間は10時。

あと20分ぐらいである。

水希は落ち着かない様子で財布の中身を何度も確認したり、こまめに手鏡で髪型を整えたり、普通ことりと会うよりもかなりてをこんでいる。

「あぁ〜・・・なんか怖ぇよ。大丈夫かな・・」

不安感。

人の感情である“怖さ”が落ち着きのない状態や、緊張のときによく使いそうな言葉である。

不安感を漂わす水希の空気が重くののしかかっていた。

待ち合わせはあの駐車場。

いつも車でたくさんなのだが、待ち合わせ場所はその裏通り。

ことりが車イスで空を眺めていた場所。

ちょっと薄暗いけど空はよく見える。

そこでまちぼうけ。

重い空気が未だに漂う待ち合わせ場所。

時間はそろそろ10時になりかけていた。

変に言えば水希がことりの病室までいけばいいということなのが。

ことりはちゃんとしたデートがしたいといったからなのである。

「けど…あいつ車イスなんじゃ‥?」

ふと気付いた。

だが、約束は約束。

「ま、ことりがそういったんだから待っとくか。」

そう、虚しい独り言が響いてから20分程のこと。

なにか誰かがやってくる影がみえた。

妙に身長が低いのがわかり、水希はその影に向かって歩いていった。

「みーずーきっ!」

初めてみただろう、満面の笑みとはしゃぐかわいらしい声は。

ことりは長めの赤いツインリボンをつけ、いつもはストレート髪なのだが、今日に限ってツインにしていた。

パジャマじゃなくて簡単な服装だが、白いキャミソールに薄く青いフリルの上着と黒のスカートであった。

フリルがたくさんある服が好みなのだろうか。

それに薄く化粧がしてあった。

その証拠にピンクの口紅が綺麗に、ことりの色にぴったりだった。

そしてかわいく頬を染める。

「…なんか、いいな。」

「何が?何がいいの水希?」

頭をポリポリと右手で掻き分けてそっぽを向いて、言った。

「いやぁ、そのぅ…かわいいなって。」

水希もことりと同様、頬を赤く染めた。

「ほんとっ!?…恥ずかしいけど、水希がそう言ってもらうと…う、うれしいっす…」

さらに赤面することり。

その反応に緊張して、力なく笑った。

「は、はは…。逆に恥ずかしいな。ま、まぁ!街にいこうぜ!」

ギクシャクした状態で水希は、ことりの車イスの後ろに立って言った。

ことりは妙にかしこまる感じで両手を膝に置き、少し縮こまった。

「う、うぃす!いくっす!」

ギクシャクしたデートがここから始まった。

 

 

 

 

 

 

 

お姫さまはくるくると雨の中軽やかに舞う。

暗い暗い空の下、お姫さまの舞う姿は晴れを誘う踊り。

くるくる。

パシャパシャ。

大きくなった水溜まりに泥をつけて舞うお姫さま。

すると、汚らしい少年は暗くなった空を見上げてみると、明るくなったような気がした。

それは、彼だけなのかもしれない…。 





話題が無くて沈黙が続くとは、こういうことだと思えた。

歩き出して10分。

互いに意識しているのか、話題が出ず沈黙が続く。

今日は快晴。

雲は・・あるが薄く消えかかってるほど。

陽射しは厳しいが風は時折吹いてくる。

肌を触る風が吹く。

眩しくそして、気持ちいい今日。

そんな都合のいい状態だが、あの二人は沈黙が好きなようだ。

どちらが話すと相槌で終わってしまう。

「あのさ・・」

水希がことりに話し掛ける。

「・・・うん。そうだよ。」

ことりの返答だけで終わってしまう。

「(なにか話題を・・・)」

「(なにかないのかなぁ・・・)」

二人とも緊張してよくわからないようであった。

初めてのデートということで、特に変わったことをしなくてもいいのにそれがわかならい若い二人だったのである。

そんな二人の目にあるものが入ってきた。

「・・・あのさ!水希!」

ことりが少し大きめな声でいった。

頭を下に向け、両手をギュッと握り締めて言った。

「なんか水希に買ってもらいたいのっ!」

「・・・はい?」

水希は目を丸くして答えた。

「いやぁ・・なにを言い出すのかと思えば・・」

「それっていけないことなの!?」

「い、いや。そうじゃなくて。」

「どういうことよっ!」

半ば逆ギレのような言葉に対し、水希の言葉は優しかった。

「頼まなくたってよかったのに・・・」

「え・・・えぇ!?」

水希がそっぽを向き、ことりはア然とした。

しばらくの沈黙。

“頼まなくてもよかったのに”だって。

ことりの頭に響く言葉。

嬉しさでいっぱいであった。

「ほ、ほんと、水希?」

「あぁ・・まあな。で、でもな!あまり高いものはだめだぞっ!」

意地悪そうに薄い財布を見せ付けた。

ことりはだんだんと顔色が明るくなった。

「うん!水希!大好き!!」

ことりが道の真ん中で叫んだ。

「おぉ!?ちょ、ちょっとまてよ。恥ずかしいから叫ぶのはやめてくれ・・。それはそうと、お前はなにか欲しい物はないのか?俺はさ、」

いっぱいに空気を吸って、

「女の子の欲しがるものなんて知らないからなにを買ってやれば喜ぶかなって。わかんないんだよな。」

「水希は、他の女の子には何か買ってあげてるの?」

「いや。遊んだことはあるが、特になにも買ってあげてないんだな、これがな。」

「へぇ〜以外だなぁ。」

「なにがだよ?何が以外なんだ?」

水希が車イスをゆっくり押していく。

「水希ってカッコイイのにさ。なんで女の子と付き合ってないのかなって。」

「俺・・カッコイイのか?わかんねぇよ。」

「カッコイイよ。私の目に狂いはないんですよ。」

「そうなんかなぁ・・。まぁ、別にいいけどさ〜」

水希はある店の前で止まった。

「あれ…ここって確か。」

水希が車イスから手を離した。

「水希?ここ、なにかあるの?」

店の看板には“Original Blue”と書かれていた。

ちょっと古ぼけけた店。

誰も入ってないようで、そこだけが違う世界にいるようだった。

「ここは確か、俺が初めて雨具を買ったとこなんだよな。」

「は?雨具?なんで?」

「いやな。俺、小学生のころさ。親がいつも帰りが遅いからさ家に入れなかったんだよ。だから雨の日でも大丈夫のように、ね。」

「そっか…水希も大変だったんだね。」

「そうでもないさ。今、こうして元気に馬鹿らしく生きてることに、なにも大変だったってことわかんないし。今更、振り返ることはしたくない。それが、俺流。」

水希はニッコリと笑ってみせた。

今日、初めての笑顔だった。

ことりがポケーッと水希を眺めた。

「・・・やっぱり水希はカッコイイよ。うん。そう。」

「嬉しく・・・嬉しいな。ことりにいってもらえると。」

二人とも向き合って笑った。






お姫様は泥のついた洋服を脱いで、湖で体を洗っていた。

少年は湖にいってしまい、そこでお姫様を見たのですが。

それは、知らなくていい水の色でした。






「で、さ。ここには何があるのよ?」

ことりがキョロキョロと店内を見渡した。

明らかに閉まってるような感じな雰囲気を漂わしていた。

なにかかび臭い匂いと、ほこりまう風景。

商品もあまりなくて、そこには年代が10年以上の品も見つかった。

「…水希」

「はい。あなたが言いたいことはよぉ〜くわかります。」

水希が残念そうに、いや、申し訳なさそうに答えた。

「で、水希はなにを買いにきたわけ?」

「う〜んとね…あ、あったあった。」

ほこり被った真新しい箱を取り出した。

「これ?」

「そう、だけど?」

「それってなんなの?」

「これか?ふふふ…驚くなよことり!」

珍しく水希が怪しげに笑った。

「あーどうせきっと“俺が見つけた一番の品”とかなんとかいっちゃうんでしょ?」

ことりはやれやれと頭を振っていた。

当然、水希はがっくりきていた。

せっかくのカッコイイ台詞だったのにあっさりバレてしまった。

「あー…あれだ。ことり。お前はなんでいつもオレの言いたいことを知ってるのだ?」

「だって。水希の言いたいことっていつも、単純なんだもん。そりゃ誰でもわかるわよ。」

「オレってそんなに単純な人間だったのか・・」

真新しい箱を抱いたまま、がっくりと頭を落とした。

すると、ことりが言った。

「で、その“俺が見つけた一番の品”ってなんなの?」

愕然とする水希に尋ねた。

「これはな。俺がちっちゃいころの、長靴なんだよ。」

「は?長靴?なんでまた?」

水希は箱を下に置き、ことりに言った。

「ほら。お前今、足腰悪いだろ?だから今、がんばって立てるようにしてるわけだから、それに最近は雨続きだからさ、普通の靴だと濡れていやだろ?だから長靴のほうがいいかなぁ〜って思ったんだよ。」

「それって…私のためなの?」

おそるおそるした声。

恥ずかしさと嬉しさの交差。

「まぁ…そんなとこかな。悪いな。なんかいいものって思ったんだが、お前にばっか聞いてたら申し訳なくてさ・・だから俺が選んだ一番いいものなんだよ…っていやだったか?」

水希が言い終わるときにはことりは目に大きな粒を溜めていた。

水希は焦って、とりあえずことりに向かって、

「わ、わりぃ!俺も無責任だよな!ははっ!そうだ俺が悪い!街まできて長靴っていやだもんなっ!俺が買ってきてお前にやればいいものの、ここまで来てってのはさすがに誰でもいやだよ。うん!そうだ、いやだなっ!悪い!」

何いってるかさえわからないような口調で水希は困りながらも頭を下げた。

すると、

「違う・・違うの!水希は悪くなんてないよっ!むしろ嬉しいくらいだよっ!」

「へ?どう・・して?」

「だって私のためなんでしょ?それでいやだなんて失礼だし、水希に悪いもんっ!逆に悪いの私のほうだよ。」

「いや・・そんなに改まっていわれても、俺もどうすればいいかわかないんですが…」

そして、いつもの沈黙。

なにげなく店に風が入り込んだ。






水は青い。

青く、青い。

青。

涙と一緒。

青。

悲しみの色。







結局。

あの長靴を買った。

以外にも、値段がはっていた。

水希の財布の形はさっきよりも薄っぺらくなった。

「(うぅ・・これで来月のこずかいもつかっちまったきだよ…)」

「水希ありがとっ!」

水希は、苦笑いして。

ことりは、いっぱいの笑顔。

「さて・・どこいきますかなことりさん?」

「ん〜、言ってしまえばどこでもいいんだけど、なんかお腹すいたからどっかいこっ」

ことりが言った瞬間。

笑顔がひきつった。

「おっけ〜。じゃあ、ウマイ店に連れってやるぜ!」

「…ホント!?期待しちゃいますがいいのですか?」

がまんして言った。

「まっかせなさい!」

「やった〜…水・・希ってやっぱ・・り。優し…いね!」

ことりは咳払いしながらいった。

水希はそれに気づかずに、辺りをキョロキョロ。

でも、ことりは笑って言った。

それも、ひきつく笑顔でなくちゃんとした笑顔。

笑顔。

いつまでもっていられるかの笑顔。






青が白くなった。

白く、白い。

白。

間違いなく、誰かの白。

白。

死にかけの色。








―――笑っていた。

倒れた。

―――声をかけた。

誰かが泣いた。

―――電話をした。

泣いていた。

―――誰かの体を揺さぶった。

涙が零れた。

―――泣いた。

薄く笑った。



―――誰かと誰かが泣いた―――

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