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第三章:涙味

コンコン。

雨が窓を叩く。

カタカタ。

風が窓を揺らす。

外はこんなにも音をたて、生きてるのだが。

中は熱く、苦しいぐらいにきつかった。

ガタガタと。

雨でもない風でもない。

壊れた人形のように地に落ちる。

苦しい。

なぜ?

なぜ叫べないの?

こんなにも苦しいのになぜなの?

叫びたい。

真っ暗な画面に向かって。

苦しいんだよって。

わかってほしいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

今日もまた面倒なことに雨が降ってる。

車が道を走る。

その音はなんだかリズムをとり、雨だけの演奏。

だが、彼には嫌になる演奏会。

そして、目線を下げれば

「今日もきてね。」

と呼び出し。

「あ〜…なんでいつも呼ぶんだろうか。俺なんかを…」

嫌なのだが、どうもことりの呼び出しとなれば自然と体が動くのだ。

そして、いつものように淋しい独り言を。

そんな独り言も最近は自分に疑問を投げ掛けるという、ひきこもり並のとこまできているのだ。

だが、最近のことりはどうもなにかおかしいことは本当だ。

ここ1週間ずっと水希を呼んでいる。

普通なら3日に一度、というぐらいがちょうどいいのだが。

ことりは毎日、朝から消灯時間まで水希と話してる。

「……物好き?」

虚しく空振りした独り言。

傘を取出し外へでた。

いつもとかわらないこの風景がなんだか違うように見えた。

家から病院まではおよそ20分程度。

走れば10分ぐらいなのだ。

まだ車の行き交う演奏会は続いてる。

軽く足元が濡れるごろには病院に着くのだ。

いつものように傘についた水を払い、いつものようにききすぎた冷房の病室に入る。

いつものように、いつものように。

水希はなんだか胸が痛んだきがした。

痛くて目を閉じあけるとそこはいつもの病室。

「ま、いっか。」

ノブを回した。

いつもは手を振って笑顔で名前を呼んでくれる彼女には…知らない男と女。

ノブを回し一歩入ったものの踏み出した足は後ろに戻りかけていた。

そんな不審者みないな水希を見つけたことりは焦ったように言った。

「…!ま、まって水希!!」

体の半分以上が外に出ていたのだが、ことりの叫びに反応してまた足が中に入った。

その二人の男女はもちろん振り返り水希を見た。

やはりというのだろうか。

思ったよりも低い声で水希に向かって言った。

「…誰だね君は?」

病室は少しばかり暗かった。

二人。

縦に横に長い男と、縦だけが高く細い腕と足の女。

「いや…俺はその…」

口が重くて開かない。

寒くもないのになぜ震える?

なにかこの二人の強大な何かが水希にのしかかってるように。

重く、そして冷たい視線と言葉

「誰だと聞いているのだが?聞こえないのか?」

「あ、あのね!」

ことりがその男に向かっていつもとは違う大きな声…罵声ぐらいの大きさで言った。

「その人は私の友達なの。ただそれだけなの。」

「また友達か…ことり。君は何か勘違いしているな。」

男と女が話すことを交換した。

そう、冷たい言葉で。

「そうよ。ことり。あなたに友達なんて作れないのよ?わかってるの?」

「…っ。なんでよ…なんでよ!!」

女はことりに向いたまま表情ひとつ変えず言った。

「あなた…自分のことわかってるの?あぁ…ムカつくわ。あなたの母親もそう。何もわかってないのね。似りすぎだわ。」

「…なんで。なんでお母さんのこというのよ!わかってないのはあなたのほうじゃないの!?」

「ほら…その口もかわらずムカつくわ。いいわけ?友達を作っても傷つくのあなたではなくてその友達なのよ?」

「そんな…こ‥てなん…て」

ことりの声に力がなくなってきた。

水希は硬直したままことりを見ていた。

「(なにが恐いんだ俺。ことりが苦しそうなのになんでなにもできないんだ!?)」

心臓の音がおさまらない。

「あなたにはっ…関係な…い…ゴホッ…でしょ!?」

だんだんと声が低くなることり。

そして明らかに顔色が悪い。

ことりの表情をみて水希はハッとした。

「(なんのために俺がいるんだよ…男だろ!月下水希!勇気をだせ!)」

半ば腰をぬかしていた水希が立ち上がってことりのそばまで走った。

すかさずことりの背中をさする。

「大丈夫か!?また顔色悪いぞ!」

「大丈…夫だから」

「強がるんじゃねぇよ!…ほら!少し熱があるじゃねぇか。」

水希は右手をことりの額にあてた。

軽く熱が伝わった。

少し汗もでてきていた。

「先生、よぶからな。」

壁にぶらさがったボタンを押した。

ことりを腕にいれた。

左腕にことりを感じていた。

すると女が何かボソボソと言ったあと水希に視線を落とした。

「あなたは…ことりの何なの?」

冷たい。

少し睨めつけるように水希を見た。

水希はまだ震える腕に負けず睨めかえした。

「別になんだっていいじゃないですか。ことりと一緒にいて何か悪いことがあるんですか?」

左腕にはことりが。

「俺は何も悪いことなんてありませでしたよ?…むしろ嬉しいだけです。」

「…馬鹿ね。そんな子と一緒にいても嬉しいことも楽しいことなんてない。最初から決まってるのよ。」

未だ冷たい言葉が水希を刺す。

「まったくだ。君わわかっていない。事の事情も。ことりのことを。」

二人の言葉はなによりも冷たさだけ持っていて力がないように聞こえた。

「まったくだわ…帰りましょう。…これ以上いたら本当にムカつくわ。」

その言葉に同意した男は頷いた。

そして扉から出る間際に、

「…そっちがわかっていないんだよ。」

水希が言った。

二人は反応するように首だけ水希に向けた。

ガチガチに緊張した水希の唇から言葉がでた。

「何もわかってないのはそっちです。俺は…ことりのことを知りません。だけど俺はことりの趣味とか好きな本とか…いろんなことを知っています。」

続けて、

「親のことや…本音とか。隠していたことを見知らぬ俺にいってくれました。」

「それは知ってるってことには…」

女の言った言葉に水希の言葉が上書きした。

「じゃあ、あなたがたはことりの何を知ってるんですか?明らかに俺が言ったことは知りませんよね?」

「…おい!君!口に気を付けろ!」

「答え…はそれだけですか?ことりが何の病気や何の事情をもってるか知りませんが…俺は彼女の傍にいることができます。」

冷や汗なような汗が耐えず流れてきている。

「今日は…もう帰ってください。ことり…熱がでてるんで。」

グッと水希の左腕に寄り掛かることりの腕を握った。

水希の目は瞬きせず真っすぐ二人をみていた。

「…帰りましょう。」

「そ、そうだな。愚かな奴の近くにいると頭がどうかなってしまう。」

二人が外にでた。

だが、女が出る間際に言った。

「本当に馬鹿…」

冷たさはあるももの何かそこまで重くない言葉だった。

バタンと閉まった扉の音とともに水希が崩れ落ちた。

「うぇ〜…怖かった…。」

また変な汗がたっぷりと流れた。

まだ震える手でことりの髪を撫でた。

「…ん?気がついてたのか?ことり?」

なにか頬が赤くなっていたことりだかさらに赤くなっていた。

そして一度水希の顔を見ると、寄り掛かっている腕に顔を向けてうずくまった。

熱い頬が感じられたが、少しぬるいなにかがあたった。

「…ありがと。水希。」

そう、ことりがいった。

暖かくて、でも何か悲しい言葉。

「…いえいえ。どういたしまして。お嬢さま…」

少しからかうように言い、医者がくるまでことりの頭を撫でていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから少しした時間。 病室の近くのイスに座っていた。

二人の看護婦を連れて医者がやってきた。

するとのんびりする水希のもとに三人がやってきた。

「君…かな?月下水希君って言う子は…?」

優しげな雰囲気の医者であった。

「え?あ、そ、そうですが…あの、何か?」

軽く眼鏡をあげて、

「君には感謝しているよ。ことりちゃんがいつもお世話になっていてね。いつかは挨拶しようと思って。」

「い、いえ!とんでもありません!ただことりがいつも呼んでくるので仕方なくってこともありますが、ことりと話すと楽しいので…」

「そうか。よかった…いや、ことりちゃんはね友達がいなくてね。あ、まったくじゃないよ?いるにはいるけど月に一度なんだよ…」

医者は横に座った。

そしてアイコンタクトていうやつか二人の看護婦が頷き離れていった。

「え…そうなんですか?」

「うん…僕もどうかしなきゃって思ってね。すると君が来たわけだ。」

「はぁ…。」

「いや、本当にありがとう。実はね。ことりちゃんは…難しい病気でね。医学面では問題ないんだがどうも治らないのは精神面だと…だから彼女には楽しい思い出をっとね。」

「なるほど…ってそれじゃことりの病気が治らないみたいじゃないですか。」

半ば冗談のように言ったのだが、医者の表情を痛いくらいに伝わってきた。

「…そうだ!これも何かの縁だ。僕の電話を教えよう。ことりちゃんもかなり回復してるから街に出れるから遊んできてね。だから、何かあったら電話ってことで、ね?」

医者は内ポケットから名刺をだした。

「僕は井上 慎二(いのうえ しんじ)って言うんだ。…おっとそろそろおいとまするよ。またね水希君。」

井上が立ち上がって笑顔で言った。

思わず水希も立ち上がっていた。

「あ、はい!では俺はことりに挨拶してから帰ります。また今度。」

井上は笑ってどこかの部屋に入っていった。

水希は名刺をポケットにいれてことりの部屋に急いだ。

ノブを回しいつものように挨拶。

「よっ。ことり大丈夫か?」

待っていたかのようにことりの顔が変わった。

「水希!はやくはやく!こっちに来て!」

いつものようにイスに腰を落とす。

「あのね…さっきのことなんだけどさ…」

「さっき?さっきってあの二人がいた時か?」

「うん。でさ、水希が言ったこと…信用してもいいのかなって…」

顔が真っ赤になることり。

「えっと…って。あ…」

やっと思い出した水希も真っ赤になった。

しばらくの沈黙。

先に口が開いたのは水希。

「あー…あれだ。お、俺は本気だぞ?」

「本当…?」

「あぁ!武士に二言はない!!」

「プ…水希は武士っていうより…クク…あっはは〜」

「なっ!な、なんだよ!何がいいたんだ、ことり!」

沈黙もとまって、和やかになった。

「そうだ!ことり。明日、雨が降っていなかったら街にいかないか?」

「本当!?いくいく!雨でも行くよ!絶対いく!」

「雨は勘弁してくれ〜」

 

 

 

 

 

 

 

お姫さまは少年といるうちに少年を好きになってしまったのです。

それは雨の日。

二人は愛し合いました。

禁じられたとわかっていても二人は…。

 

 

 

 

 

 

負けないように。

腕を抱き締めてみて。

そっと舐めてみて。

夢を重ねたような夢。

あの味は忘れられない。

しょっぱい味は。


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