第一章:空の白さ
晴れた空には気持ちの良い風が流れる。
涼しく、時には暑い風もしばしばある。
太陽と月。
それは空に映し出される一つの幻想であるのではないのか。
こう思うのは彼女だけもしれない。
例えば、人は死んだときには、星になると。
すべてを知り尽くすのは風の中にある。
只今、午前11時。
とある病院前で悩む少年がいた。
まぁ、水希なんであるが。
昨日、水希はことりと約束をしたのであった。
といってもことりの強制であったが。
「ってことりさ〜・・・俺この病院の中にはいれないんですけど・・・」
御尤もな意見である。
最近、ことりはこの病院の要注意人物リスト(ブラックリスト)に記載されているらしく、少し目を離せばどっかに行ってるのである。
なので、面会も身内だけらしい。
「ったく・・ことりもそこら考えろよな・・」
そんなことを言っても無駄なのである。
水希は初めて出合ったあの駐車場のとこで座っていた。
とりあえず、携帯を取り出してメールを打っていた。
すると病院の入り口で女の子達4〜5人が入ろうとしていた。
水希はもしかすると、と考えその子達の後ろを追った。
「的中!!」
水希はグッと拳をグーにしていて、内心嬉しがっていた。
あの女の子達はことりの友達らしく看護婦はなぜか了承していた、水希には完全拒否だったのにもかかわらずに。
そんなことより、病室は3階の右端。
個室らしい。
とりあえず、水希は病室の前の壁に寄りかかっていた。
寄りかかること20分・・・
病室からからいらしい声が聞こえた。
「ことり!外にいこうよ!」
水希はふと考えた。
「(俺・・ここにきた意味ないじゃんかよ・・)」
はぁ、とひとつため息。
「(まぁ、今日は友達来てるから顔だけ出すだけするか。明日辺りまたくればいいか)」
水希はドアをノックしてノブを回した。
「よ。元気にしてるか?ってかお前、病室を教えろよな。かなり迷ったんだぞ。」
言いたいことは一気に吐き出すとしばらくの沈黙。
「・・あのどちら様でしょうか・・?」
ロングの女の子が言った。
返答は水希ではなくことり。
「えっとね。昨日知り合った人なの。月下水希だよ」
「なんで呼び捨てなんだよ。・・まぁ、いいや。」
「えーー!ことり、なんで言わなかったのよ!!」
「だって、別に言わなくてもいいかと・・」
ことりの周りで紛争が・・いや、内乱が起こっていた。
水希は一人ポツーンと少し小さめの椅子に座った。
・・寂しい人間が一人。
内乱が始まって5分。
突然ことりが喋った。
「あぅぅ・・水希!外に行こうっ!」
「は?っておい待てよ!お前足腰悪いんだろうがっ!」
案の定、水希が感じていたことと一致したが起こった。
ズベチーン!
見事なこけようだった。
ベットから仰向けの状態で大の字でこけた。
水希は笑っていた・・ではなくことりを抱き上げた。
夢のお姫様だっこで。
「ったく・・・この前の二の舞じゃないか。気をつけろよな」
「あぅぅ・・ごめん。」
水希の腕の中で真っ赤になることり。
もう蒸し暑い風が流れている。
梅雨といってもすでに夏の時期であるのだ。
雨雲は昨日を通り過ぎて今日に持ち越された。
限りなく続く空の果てから冷たい冷気とともに水が滴れ始めた。
そしてあの場所で。
「うぁ!雨だ!って傘ないよ〜」
ことりの友達は言う。
「俺のでよかったら使うか?」
水希は黒く短めの傘を渡した。
「いいんですか?でも、月下さんが…」
「いいってことよ。どうせこいつを病室に送るから雨宿りでもしとくさ。ほら、雨足が強くならないように、な?」
水希はことりを抱いたままで言った。
「はい!わかりました!先輩!これは絶対綺麗にしてお返しします!」
水希が言ったとおりに雨足が強くなった。
ことりの友達は走ってその場から帰っていった。
ここはまだあの駐車場。
「…なぁ、ことり。ひとついいか?」
「なぁに…?」
身震いをすることり。
言いづらい顔をした水希。
「変なこというが、ことりって両親とかくんのか?」
一瞬ビクッとしたことり。
「いや、いたら挨拶とかしないといけないしな。だからだよ。」
「…ない。」
「聞こえん。もっかい。」
「私、両親はこないの。だから安心していいよ。」
精一杯の笑顔。
泣きたくなるような笑顔。
「…あ〜あれだ。すまんかった!俺が変なこときいてしまって!」
「別に大丈夫だよ。今は水希が傍にいるから。それだけでとっても幸せだよ。本当に。」
確実な笑顔を彼女に。
嬉しい笑顔をもっと見たい。
前向きではなくて。
空を見るように、そっと笑いかけてニッコリと笑って?
冷たい雨の雫が頬を舐めるように伝っていく・
そして雨は上がって白くなった世界に少しだけ近づけるように。
今、両手をかざして。
ギュッと抱き締めて。
願いを叶えて。
「あなただけ」
そう、呟いて。
明日はまた雨が降るから。
そしたら晴れるかな?
雲をもっていくようにしてくれるかな?
たったそれだけの願い。
だけど、そんなちっぽけな願いが好きと、彼女は笑った。




