表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

エピローグ:駐車場

回る回る空の中。

晴る日にはニッコリと笑って。

雨の日にはもっと笑って。

何度も何度も想った。

雨の中の恋って。

二人ならきっと寄り添える傘の中。

ずっと、くっついていたい。

離れたくない。

ずっと、抱きしめていて。

 

 

 

 

 


 

 

 

「はい。では、こちらの原稿ですね。わかりました。では、およそ…そうですねぇ。1ヶ月ほどで出版されますのでその時は、ご連絡致しますので。」

「わかりました。どうも、ありがとうございます。」

キィとドアが閉まる音がした。

蝉が煩いぐらいに鳴いている。

外は暑い空気が流れる、部屋は寒いぐらいの冷たい空気が流れる。

沢山、難しそうな本が山ほどあるこの部屋。

シャーペンやら、多種多彩のペンが机の上に転がっている。

机の上にはペンは勿論、写真が飾られていた。

懐かしそうにその写真を持ち上げる男。

すると、一度ドアは閉まったのだが荒々しくドアがまた開いた。

「先生!ちょっとまってくださいよ!」

「なんですか…?騒々しいですね。」

「ここ!ここですよ!最後に名前のとこがありませんよ!?」

「あー…適当にかいちゃってください。」

「適当にって…ダメですよ!本人が書いてもらわなきゃ!こちらが困っちゃうんですよ!?」

「あー…わかりましたよ。もうちょっとボリュームを下げてもらえませんか?」

面倒くさそうにペンを握った。

サラサラを名前を書く。

達筆な字で『月下ことり』と書いた。

声の大きさを調整できない男が横にはいりこんだ。

「そういえば、月下さん。なんで名前がことりなんですか?なんか女の子って感じな名前ですけど…?」

「ふふ…。そうですね。確かに、女の子って感じですね。でもですね、これは私の大切な思い出の名前なんですよ。」

「そうなんですか?」

「はい。でも、悲しい名前ですね。」

「あ…なんかいけないこと聞いたような…。」

「いえいえ。大丈夫ですよ。もう、それは思い出になりましたから。」

水希…月下ことりはにっこりと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ことりは7月25日に、息をしなくなった。

倒れたのも25日。

水希だけはその真実のことを知らなかった。

でも、井上の言葉でハッキリとわかった。

「元気ですか?」と聞けば「まだわからないね」と。

2回も聞けば、大体は見当がつく。

だからあの日から水希はいつも病院の前。

真実を知っていても。

誰かが笑うのを待っていた。

雨が降るのを待っていた。

泣き虫な水希は、ことりに黙ってながぐつを自分よいに買ったのだ。

でも、もう用済みになった。

だから水の中。

忘れるためか、それとも悔やんでいるのか。

ただ、おそろいのながぐつだけは、水の中。

きっと届くと思った、ながぐつの光。

雨の日を待っていたくて、真実に背を向けた。

ずっと待っていた。

25日。

その日は突然の雨だった。

小雨でこの季節には気持ちいいほどの冷たさ。

水希は、雨が降るのを確認したらゆっくりと立ちあがった。

涙と一緒に雨が頬を流れる。

あの日から泣かなかった水希。

雨の日だけに泣こうと決めた。

そう、こんな風に声を出して泣いてみることを。

ことりの病室からは無音と微かなぬくもり。

病室の下にはあの駐車場。

そこには花束が置かれている。

あれは井上が置いたもののようだ。

誰が泣くのか、誰が笑うのか。

ことりの死には誰が喜ぶのか?

誰も笑顔がでないはずだ。

井上も看護婦もあの親戚も、絶対。

そして、水希も。

でも、今だけは笑っていたい気がする。

だってこうして、雨が降ってるんだから。

 

 

 


 

 

 

「雨の日は嬉しいはずだろ、ことり?」

 

 

 

 

 

「今度からはちゃんと傘を持って空を見ろよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

―――想いが破裂したように、泣きながら笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

『見事!新人絵本大賞を取った「月下ことり」さんです!!』

『そして、月下さんが書いた詩がなんと!曲になり、高い評価をもらっているんですよ!』

『さらに!小説も大賞を見事、とられています!』

 

 

水希は言う。

「大賞よりも、この文章や詩を見て、わかってくるだけでいいんです。儚い人間の死のことを理解してくれれば本望です。そして、真実と向き合うことも大切ですが、背を向けて自分の信念を貫いていく。そういう心を持ってほしんです。どうか、嘘でもないこの物語を見てください。彼女のことをわかってください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いつかそっと。

淡く輝いたモノを見つめて。

締め付けるこの想い。

気付いて。

例えどんなに離れていても。

奏でる笑い声は届くだろう。

切ないこの優しさに抱いてもらいたい。

もう二度と触れない宝物。

泣きつかれた顔。

それが愛しさに変わるまで。

泣き続けるよ。

君が永遠に望む顔なら。

それを果たしてみせるよ。

月を眺めることを繰り返した。

さよならは切なくて。

約束は守りたくて。

でも記憶が思い出せなくて。

幾千の夢を見ながら待ち続けた。

微笑みの涙の後。

空も泣きつかれて。

雨上がりの空の中に。

君が微笑んでいることを。

きっとずっと願うよ。

 

 

 

 

 

 

――きっとずっとだよ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ