初動
「ちょっと落ち着いて、まず聞くだけ聞いてくれよ?質問があったら後から言ってくれ、な?」
説き伏せるようにショウはゲンに話し、タバコを地面のコンクリートに擦り付けて消した。
「ちょっといいか?」
いきなりゲンは質問する。
「いや、だからまず聞いてくれって!」
今度はショウが急かす。
「いや、タバコ吸ってもいい?」
冷静にゲンが言う。
「・・・吸えよ、それぐらい勝手に・・・。」
呆れがちにショウはその仕草を見つめている。
ゲンが一息大きくタバコを吹かしたのを見届けて、ショウは口を開いた。
「今から5・6分後に警察がここに来る。俺を迎えに・・・。」
事をスムーズに運ぶために敢えて、時間についてはあえて嘘をついた。
「はぁ??なんで?」
驚いてゲンはいきなり疑問を投げかけた。
ショウンは人差し指を口に当て、子供に言い聞かせるように「シーッ」っというポーズを取った。
「ッチ」
舌打ちしながら、ゲンはバカにされたと拗ねた表情を浮かべる。
「マコトはたぶん疑いを掛けられて、警察に連れられているだけだ、
アイツ自身も「なぜか警察と一緒」と言っていたからな。」
頭を掻きながら、ショウは先程のやりとりを思い返している。
「で、電話を掛けた俺は共犯者だと思われている。だから警察は俺を迎えに来る。
俺はそのまま警察に行って疑いを晴らしてくる。 マコトは何もしてないだろう。」
ゲンは黙ってうなずいている。
その表情を見てショウはゲンの隣にまた腰掛けた。
「問題はここからだな。」
強い口調でショウは言い放った。
「警察に行くのは俺一人でいいが、お前はジュンヤを助けてやって欲しいんだ。」
「?!」
ゲンは困惑の表情を浮かべている。
「あいつは・・・ジュンヤは、たぶん何かやらかしてるには違いない・・・。」
「でもな、ひったくりの前科はあっても今回はやってないと思うんだ。」
「どうだ?ここまでで、何かある?」
やさしい口調で、ショウは問う。
「・・・うーん、助けろって言われても・・・匿えってことか?」
ゲンはどうも乗り気がしない様子だ。
「いや、まずはアイツが何をやらかしたかを知る必要がある。 それ次第だ。」
そういいながら、ショウは再びジュンヤに電話を掛け始めた。
「ショウ!ちょっといいか?」
今度はゲンが強い口調で言う
「ジュンヤは何やらかしたと思う?」
共に悪事を働いたゲンだからだろう、不安気な表情を浮かべている。
「あの言い方だと、大方「万引き」だろうな、チラっと盗ったって言ってたわ・・・・・・・・でもな」
「でも?」
「たぶん他にも何かしらあるはずだ・・・たぶん・・・。 だからそれを聞くんだ。」
ショウもゲンを信頼しきれていない様子だった。
「じゃ・・・助けるかどうかは、その内容次第ってことでいいか?」
ゲンはジュンヤと一線を引きたがっているのだろうか。
「あと一つ!」
ゲンはさっきよりさらに強い口調で言った。
「なんだよ?」
「真犯人どうすんだよ?!」
ゲンの怒りはそこに集中しているようだ。
「・・・それだ。 特にマコトは黙っていられないだろうな・・・。」
ショウの頭の片隅にも今回の一件の加害者に対するイラ立ちはあった。
さらにマコトの心情や状況を考えると、真犯人を見つけ出そうとか言いかねない。
「とにかく、そいつは後回しだ、今は無実を証明することが大事だ。 そうだろ?」
時間の縛りもある、そこを考えている余裕は無い。
「そこんとこしっかりしないとよ・・・。俺も踏ん切りつかねぇよ。」
煮え切らない表情のままゲンはコブシを握り締めた。
「まあ、しゃーないわな・・・。もう2・3分で警察が来るし時間が無い、ジュンヤに電話するぞ。」
そういって電話を掛けた。
時計は18時45分・・・後10分