表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地元  作者: 馬
4/12

疑惑と誤解

「お・・・おいっ、ジュンヤの奴逃げてったぜ・・・。」


今回の主催者でもあるショウが不安げな表情で、ジュンヤの逃げ込んだ先を見つめていた。


「っへ、どうせまたくだらんモノでも持ってたんじゃねぇの?」

ゲンがツバを吐き捨てながらつぶやいた。


「・・・まだあいつパクリやってんのか?シンナーもか?」

ショウは頭を掻きながら、まだジュンヤが逃げ込んだ方を見つめている。



「シンナーはもうやってねぇよ、タケシくんに睨まれてっからなアイツ・・・。 だけどパクリはやめてねえだろ?

 アイツ無職のまんまだし、金無いに決まってるわ。」

ゲンもまだ同じ方向を見下すように見据えたまま、笑いを含んだ言い方をした。




「でも追われるってことは結構なもんじゃねぇの?ちゃんと逃げたんだろか・・・。」

ショウはいつだってやさしい。

常に皆が見えているのはショウだろう。

ショウ自身の性格も穏やかで周りを気にしガチな所もある。

本人はそれを冷静と捉えて、常に頭を冷やしているが、

周囲には押しが弱いと思われることもしばしば。




リーダーシップを発揮するのはいつもマコトだが、参謀的な存在がショウ。

いつもサッパリとして、ぶっきら棒なのがゲンだ。

お調子者でムードメーカーだが、トラブルメーカーでもあるのがジュンヤである。


そのショウとゲンのところにも警察官が歩み寄ってきた。

「君たちはさっきの子の知り合いかね?」


ガチャガチャとなる警棒やら拳銃の音がショウ達を威嚇しているようにも聞こえる。


「はぁ? だれ?おっさん?」

その威嚇に反応したゲンが即座に言う。



ショウがゲンを片手で制して収めながらこう問い返す。

「さっきの子っていうのは、お巡りさんが追いかけていった子のことですか?」


「ん? あぁ、そうだ。 君たちと同じ年ぐらいだろう?」

ショウの素直な対応に一瞬気を緩めて警察官はさらに問いただす。


「んーーー・・・。知らないってわけでもなさそうだけど、遠かったからなぁ・・・

 この公園色んな奴らがいるし・・・。 全く知らないってことはないと思うけど・・・」

困惑を浮かべながらショウは答えている。


「そうか、じゃあ君たちの名前と住所を書いてもらえるかな?一応連絡先も」

そう言って、警官はガチャガチャと音を立てながら、パトカーくるよう手招きをする。


「っけ・・・メンドクせぇ・・・・ショウ! 俺の書いといて」

完全にゲンは不機嫌になった。


「でも何かあったんですか?」

警官の後ろを歩きながら、ショウは何気なく聞いてみた。


「あぁ・・・。 連続ひったくり事件があってね・・・。」

そう言いながら助手席側に回ると、真っ白な紙とボールペンを取り出した。

「!!!」

ショウは一瞬固まって、頭がその紙のように真っ白になった・・・まさかと思いながら。


「犯人の一人は捕まったんだが、仲間が逃走しているらしく、ここに現れるって供述があったもんだからね。」

警察官はボールペンのフタを空け、紙にクシャクシャと試し書きをした。


「なんかこないだも、ありましたねぇ・・・。 性質の悪いヤツが多いなぁ・・・・」

ショウはそう呟きながら、頭の中がクシャクシャにならぬよう、整理していた。

逃げていったジュンヤの交友関係と、今日彼が何をしていたか・・・。


ジュンヤは無職だ。

中学卒業後、一旦私立の大京高校へいったものの、通学の面倒さと、

悪い友人の付き合いもあって、たった半年で退学してしまったのだ。


その大京高校のツレ連中にろくな奴はいないとショウは考えていた。

シンナー・窃盗・クスリなど、ジュンヤに教え込んだのはその連中だった。


その連中は同じ市内でも北側に位置する 高寺地区の面々だった。

高寺地区はS達が住んでいる南側の大川地区と違って、治安も悪く、不良や暴走族と呼ばれる連中や、

チンピラまがいの青年、チーマーなどが多くいる。


中でもジュンヤの元同級生である高寺のダイゴは有名だった。

圧倒的な喧嘩の強さと性質の悪さで名が通っており、人を刺しただの、ヤクザの事務所に乗り込んだことがあるだの、

覚せい剤の密売人であるだの、色んな噂が立っていた。


そんな高寺の連中に悪い遊びを染み込まれ、ジュンヤはあっというまにダメな人間になってしまったのだ。

16歳当時のジュンヤは常にジャージ姿で町をうろつき、定職にもつかず、派遣の現場仕事で小遣いを稼いでは、

シンナーやクスリを購入し、そこらで一人で使用していたり、高寺へ行って連中と使用していた。


小学校からの幼馴染であった4人にとって、特にショウにとってはそんな彼の姿は痛々しく映っていた。

ショウはマコトに相談を持ちかけ、二人で高寺に乗り込み、ジュンヤを連中から連れ戻しにいったことがあった。


唐突な連れ戻し方に高寺の連中の怒りに触れてしまい、一騒動起こるかと思われたが、

大川のOBでもあり、大川の顔ともいえるタケシの仲介によって、事なきを得ている。


そんなタケシはショウ達にとって兄貴分のような存在だ。

タケシはショウ達の2コ上で、クミ(ゲンの姉)の彼氏にあたる。

タケシはその後もジュンヤが道を踏み外さないよう監視している、という状況でもある。


(そんなジュンヤがまさか・・・・)

悪い予感はしている。

ゲンと二人分の住所、氏名、自宅連絡先を嘘も交えてに記入し、

ペンを返すと警察官達はその場を去っていった。


ショウは警察官が居なくなって直ぐに携帯を手にとって電話をした。


トゥルルルルル・・・

トゥルルルルル・・・

ガチャ


「もしもし?ジュンヤ?」


「おぉ・・・ショウ・・・どうなった?そっち?」

 ジュンヤの息は軽く弾んでいる。


「どうなったじゃねぇだろ?なにしたんだ、おまえ!?」

 ショウも若干興奮気味で問いただす。

「ちょっと魔が刺したっていうか・・・でも・・・」

小声になってジュンヤが呟いた。


「魔が刺したじゃねえだろ!えらいことになるぞ!!」

ショウは最悪のケースを想定していた。

ひったくり犯としてジュンヤが逮捕され、鑑別所及び少年院送りの可能性があると考えていたのだ。

ジュンヤは困惑して答える。


「いや・・・そんな大袈裟だろ?チラっと盗っただけだぜ??」

周りに視線を配りながら、ジュンヤは必死の弁解をする。


「・・・・もういい。 とりあえず警察行けお前。 捕まるのも時間の問題だ。」

頭を強く掻きながら、ショウはベンチに向かって歩いていった。


「そんなアホな?! 誤って終いにするよ・・・」

大きな声を出しては、周りを見渡し、小声になるジュンヤ。


「アホはどっちだ?!誤って済む問題じゃねーわ!!!」



プッ  ツーツーツー

ショウは電話を一方的に切った。

そしてそのままベンチに座り込んだ。


「まじか・・・アイツまだやらかしてんの?」

後ろから歩いてきたゲンもさすがに呆れている。

「もう今回はいい加減に頭くるわ、捕まって終わりだな・・・」

さっきジュンヤが逃げていった方向を遠い目で見つめながら、怒りを抑えていった。



「そうか・・・しゃーないな、半年ぐらいだろ?」

ショウの怒っている様子に自らの言葉を無くして、ゲンはショウに同調した。




「おれ、マコトに電話するわ・・・今日中止だ」

頭を掻きながら落胆した表情で、ショウはまた携帯をかけた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ