逮捕
マコトは高校に通わず、大工として働く17歳。
地元では結構有名なヤンチャもの。
中学生時代から地域で名の知れた存在であった彼だが、
ケンカ、たばこ、酒以外の悪いことはしないという立派なポリシーある不良だ。
小学校時代は少年野球に汗を流し、4番ピッチャーを務めた。
中学になり野球を続けることはなかったが、
音楽に興味を持ち、邦楽から洋楽へ、そして今はレゲエをこよなく愛している。
そんな彼のトレードマークは長髪のドレッドヘアーだ。
現場仕事で鍛え上げられた褐色の肉体に、ドレッドヘアーを翻す姿は、
日本人だとしても格闘家のように見える。
そんな彼は仕事に向かう移動手段にスクーターを使っている。
180を超える恵まれた体格にスクーターは不向きだ。
運転そのものは好きだが、決して得意ではない。
いつものように仕事を終えて疲れたMは、スクーターに乗って岐路についた。
面倒とは思いながらヘルメットを被り、タバコを吹かしながら・・・・。
その日は特別な日だった。
地元の友人ゲン(18歳)が車の免許を取って初の公道デビューの日。
皆で集まってドライブに行こう! そう決めていた。
しかしながら、そんな日に決まって信号運が悪い。
ちょいちょい赤信号に引っかかっている。
内心悪いと思いながらも、彼はショートカットを試みることにした。
赤信号の交差点、その角にあるコンビニの駐車場を使って左折することで、
信号を飛ばそうというのだ。
生真面目な彼であったが、はやる気持ちを抑えきれずに吸っていたタバコを投げ捨て、ショートカットを決行した。
そのお陰もあってか、その後はスイスイ。
鼻歌まじりで順調に自宅へと走っていく。
家に帰ったらドライブようのCDを何にしようかと浮かれていた。
その時だった。
Whuuuuu----!!!
パトカーだ!
自分の鼻歌に突然紛れ込んできたサイレンに彼は一瞬焦った。
でも自分に落ち度はないと確信していた彼は自宅が近いこともあり、スイスイと裏路地へ。
パトカーは来ない。
「・・・おれじゃなかったな・・・よかった」と安心したのも束の間、
バタバタバタバタバタバタバタバタバタッ!!!!
ヘリコプター?!
彼の頭上にヘリコプターが空中待機している・・・。
彼は一瞬昔テレビで見た特攻野郎Aチームを思い出したが、
今はそんなことはどうでもいい。
さらに・・・
Whuuuuu----!!!
さっきのパトカーも追ってきた。
「なんじゃぁぁ!!」
とっさの判断で逃走を試みた。
スクーターを翻し、長髪を靡かせて裏路地を走る。
コーナーを曲がる度にガリガリとスクーターの腹が地面を摺る音が聞こえた。
地元である彼にとって、脇道を使えばパトカーは振り切れる。
住宅街、歩道、地下道を使って。
しかし、ヘリコプターもしつこくついてくる。
「もう逃げられんぞ! 止まれ!!」
パトカーのスピーカーから彼を制止する怒号が響く。
「逃げられねぇ・・・いや、そもそもなんで逃げるんだ・・・、もういいやw」
観念してスクーターを止める。
さっきの運転で摺ってしまったスクーターの腹を気にするように、スタンドを立てた。
若い警察官と熟年の警察官が二人、パトカーから大急ぎで降りてこちらへと走ってくる。
マコトは髪型も気にするようにヘルメットを脱いだ。
相手が警察官でなければ、そのまま大立ち回りへと移行するが、
そんなことをする必要はない。
「なんなんだよ!一体?!」
不満気な言い草で警察官二人に向かって問いかける。
若い警察官は表情も回答もよこさないまま、ターミネーター2のT-1000のごとく、
突っ込んできた。
彼は取り押さえられた。
こういう訓練を受けてますよ、と言わんばかりに後ろに回り、
腕を取り、顔を地面に押さえつけた。
「痛っ イタタタっ ってか何だ? 何でそこまでするんだ?」
「うるさい!だまれ!」
若い警察官が強張った表情と甲高い声で怒鳴る。
「仲間はどこいった!?」
もう一人の中年警察官が息を弾ませながら彼に聞く。
「はぁ? 公園で待ち合わせだけど・・・関係ねえだろ?!」
彼の表情は不思議そのものを表していた。
「どこの公園だ!? 言ってみろ」
若い警察官の声は殺気立ってきた。
ギリギリと彼の腕を締め上げる。
「イタイイタイイタイ!! なんでそんなこといちいち聞くんだ?!! 」
「いいから言え!!」
若い警察官の怒りは既にピークに達している。
「天濃町のグラウンドだって、そこに皆来ることになってるけど、、、可笑しくないか?これ??」
あまりの状況に少し笑いすら込み上げてきた。
「ガーーーーッ ガーーーッ 天濃町グラウンドに犯人グループが集まる模様、急行願います。」
無線で中年の警察官が応援を要請している。
乾いたアスファルト上の小石や砂が頬にへばり付く感触が、さらにマコトの気分を悪くさせていた。