車中で一人
日も暮れ始めた19時過ぎ。
ショウはその頃パトカーで移動中だった。
運転席周りには無線や計器の類がならび、
シートは皮製。
ほとんど黒ばかりの車内に居心地の悪さを感じた。
若い警察官二人は無愛想で、全く声も掛けず職務に徹している。
本来ならば、皆でドライブするはずだった今日に、
こんな所にいるなんて・・・・。
運転席にはゲンがいて、
たぶん助手席にはテンションが高いジュンヤ。
マコトは後ろから、この音楽をかけろだの、そこを曲がれだの言ってただろう・・・。
そんなやりとりを想像して、ショウは少し笑った。
その後の時間はパトカーから見える景色を楽しむ時間となった。
警察の行動を、運転を、見える景色を。
ゲンが免許を取った今は、皆で見れる、見にいける景色ばかりだ。
今日楽しむはずだった皆で見る景色を想像しながら、外を眺めていた。
そうやって外を眺めていると、周りの視線も突き刺さってくるのが良く判った。
(あの子、何か犯罪をしたんだ・・・)
信号待ちで隣に止まった車からの視線が特に痛かった。
そんな視線が途中で嫌になり、ショウはただ前だけを見据えたまま、最低なドライブを続けた。
パトカーの前を自転車で二人乗りをした男子高生が通り抜けた。
部活帰りだろうか、スポーツバックを肩から下げている。
警察官と目が合ったためか、そそくさと走っていく。
助手席に座る警察官が黒塗りの計器類の中から無線機を手に取り、
無機質な声を上げた。
「そこの二人乗り、降りなさい」
後ろの男が、チラりと振り返るだけで降りる事はなかった。
しかし、警察官もそれ以上の行動は無かった。
むしろ一言発しただけで、視線も無線機も二人からは外れていた。
その一部始終を見て、ショウは無性に腹が立った。
「そんなんだから、間違えて逮捕するんだ!」
と、怒鳴りつけてやりたい気分だった。
ショウは自分を正義だと思わなかった。
そもそも本当の正義なんていないと思っていた。
警察官の正義と書いてある顔が嘘にしか見えなかった。
ショウは自分が自信を持って正義と言えなくては、警察官は務まらないと考える。
その度合いが低いヤツらが警察官になっていくだけのこと・・・。
人は過ちを犯す生き物であって、その可能性や過去があるから、
人にやさしくできるし、下手にだって出れる。
それができないヤツは鈍いヤツか、
自分の事は棚に上げるヤツか、
完璧な人間でしかない。
3つともろくなヤツらじゃないことだけは、自信を持って言えた。
警察署に到着し、自分たちの無罪が証明されたら、
どんな顔で謝ってくれるのか、
どんな皮肉を言ってやろうか、
そんな事ばかり考えていた。
警察署は街の中心、大川と高寺のちょうど中間地点にある。
15分程度のドライブだったが、ショウにとってはそれが非常に長く感じられた。
この長い時間をマコトがどうやって我慢しながら乗り続けられようか・・・。
あの様子だったら下手をすれば、暴れてるかもしれないし・・・。
そう考えると、ジュンヤとマコトの事を考えると、
またショウの中の正義が薄れていくのが分かった。