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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。

モラトリアムは甘やかに

作者: 卵野ひよこ
掲載日:2026/06/03

 今日もまた、小さなお客さまのお出ましだ。


「おじゃましまーす!」

「いらっしゃい、つむぎちゃん。相変わらずよく来てくれるわねぇ」

「えへへ、暇だもん」


 家が一気に騒がしくなったことに苦笑しながら、再びわたしは手のひらの本に目を落とす。けれど、途切れてしまった集中力がなかなか戻らなかったので、仕方なく本を置いてベッドに寝転んだ。

 空調のよく効いた一人部屋で、誰にも見られていないのをいいことに、格好をだらしなく崩す。なんとも弛んだ夏休みだ。


 かと思ったら、そんな空気を打ち破るかのように、勢いよく階段を駆け上ってこちらに向かってくる足音がした。わたしは慌てて姿勢を整える。

 ばっ、と部屋の扉が開いた。


流衣るいおねぇちゃんっ!」

「……元気なことで」


 勢いそのままに抱きつかれて、ほとんどタックルみたいな感じだったけれど、それをきちんと受け止める。慣れたものだった。

 ──桜庭さくらばつむぎ。11歳の小学6年生で、近所に住んでいて、年齢は離れているけどいわゆる幼なじみというやつ。まだ赤ん坊だった彼女の世話をしたことも、なんとなく記憶している。


 夏休みに入ってから、この子はなんだかんだで毎日わたしに会いに来てくれている。

 受験のときにあまり構ってあげられなかったから、わたしが大学生になってからは、不足分を埋めるみたいにそれまで以上にべったりになった。もちろん嬉しくないわけではないけれど、もっと友達と遊んだりしたほうがいいと思う。付き合いが悪いとか言われていないか、心配になる。


「で、今日はなにしに来たの?」

「おねぇちゃんと一緒にいるために来た」

「それはどうも。よしよーし」


 つやつやな髪の毛にゆっくり手を這わせた。こんなふうにわたしが頭を撫でると、つむぎはいつも、目を瞑って機嫌がよさそうに上半身を揺らすのだ。

 口には出さないけれど、かなりかわいい。


「わたしは本読むから、あんまり騒がないでね」

「えー! なんか遊ぼうよ!」

「一緒にいるだけでいいって言ってたじゃん、つむぎ」

「そ、そうだけどそうじゃないもんっ」


 ぷんすかしながらも、彼女は本棚にある漫画を取ってクッションに腰掛けた。言うことは聞いてくれるみたいだ。

 漫画を開きかけて、しかし思い出したように声を上げる。


「大人しくしててあげるけど、その代わり休み中にどっか連れてって! 私、おねぇちゃんとデートしたいなー」

「…………」

「したいなー?」

「……行先はこっちで決めていい?」

「うん!」


 つむぎに委ねると、こんな暑いのに屋外がメインになってしまいそうな気がした。小学生、とりわけこの子とはそういうものだ。

 大学の友達は地元に帰っていて、バイトがある以外、わたしも基本は暇だった。予定がひとつ追加されて、なんだか嬉しい。


「それじゃあ、考えとくね」


 わたしはそう言って、無造作に置かれていた本を手に取る。ベッドの枕をクッション代わりに使う。つむぎはにこにこして漫画を読んでいた。


 そこからはもう静かで、教授おすすめの新書をほどよいペースで読み進める。

 ときどき、話の展開に対して声を漏らすつむぎが確認されたけれど、わたしにとってそれは雑音ではなかった。むしろ安らぎすら与えてくれるもので、彼女が近くにいると気が楽になる感じがする。いない日常というのは、なんとも想像しづらい。

 ふと、視線を感じた。つむぎが、体育座りでわたしをじいっと見つめていた。


「どうしたの」

「んーと、ね、えっと」


 言葉を詰まらせるその様子に、わたしは少し、いやな予感がした。たぶん、ろくなことではない。

 とことこ歩いてきて、ベッドに上がって、わたしと向かい合うように正座になる。


「驚かないで聞いてほしいんだけど、ね」

「……はあ」

「流衣おねぇちゃんのおっぱい吸いたい」

「……は?」


 聞き間違いだと思った。聞き間違いであってほしかった。

 けれど、確かにつむぎは言った。わたしのおっぱいを吸いたい、って。


「な、なんで」

「こんなこと、ママには頼めないし。忙しそうで」

「忙しそうじゃなくてもふつう頼まないでしょ……」

「にへっ」


 にへっ、じゃない。〝こんなこと〟という自覚があるのなら、わたしにも頼まないでほしかった。


「だめ?」

「だめに決まってるじゃん……考えればわかるでしょ? 逆にどうして承諾してもらえると思ったの。正気……?」


 明らかに、わたしたちがしていいような行為ではなかった。そもそも母乳なんて出ないわけで、いや出るとしても出ないとしても目的がまったく見えてこない。いったい、なにを考えているんだろう。

 つむぎはうつむいて、言葉を返さない。両手でやわらかい頬に触れて、無理やり顔を上げさせると、その表情は悲しそうに歪んでいた。


 わたしは、動揺する。

 昔からこうだった。この子の泣きそうな顔を見てしまうと、精神的な余裕がなくなっていって、心臓がばくばくと音を立てる。どうすればいいのか、わからなくなる。

 姉バカと言われればそれまでだけれど、つむぎには笑っていてほしい。泣かないでほしい。目の前にあるものすべてをくっきりと映し出すきれいな瞳が、涙で濡れて、中に閉じ込められたものの形がねじ曲がっていくのを、わたしは見ていられないのだ。


 もし、そういう演技だったのだとしても──それに騙されないわたしなんて、わたしじゃないも同然だった。


「その、ほんとに、怒ってないから……その顔、やめて。お願い」

「……怒ってないの?」

「うん、強く言いすぎちゃったね」

「じゃ、やってもいいの?」


 まだ探るような声で、つむぎは問いかける。ふざけているわけではないみたいで、わたしとしてはちょっと、困ってしまう。

 なにか心に問題でも抱えているんじゃないか、なんて思う。だって、普通じゃない。あくまでも幼なじみでしかないわたしたちが、そういう行為をするのは。

 沈黙を拒絶と解釈したのか、つむぎは話をあらぬ方向へ持っていった。


「お……おねぇちゃんの好きなお菓子いっぱい買ったげるから! やろっ!?」

「……はい?」

「あ、夏だしアイスとかのがいいかなー、チョコ系苦手だったよね」

「いやだから、どういう」

「おねぇちゃん、なに食べたい!?」


 迫ってくる無垢な瞳に、気圧されて。

 とか言ってみるけれど、きっと初めから、拒否する選択肢は与えられていなかったのだ。

 ふふっ、と笑い声がこぼれて、遅れてそれが自分のものだと気づいた。おかしくなってきて、途切れ途切れの笑いが連なっていく。


「なんで笑うの」

「その……つむぎは、子どもだなぁって。あははっ」

「ばかにされてるし……」


 お菓子に釣られてくれる大学生は、残念だけどそんなに存在しない。小学生の思考は通用しない。つむぎよりはいくらか長く生きてきて、いろんなものに染まったわたしは、なんだか浄化されていくようだった。


「別にもう、いいよ。好きにして」

「やったっ!」


 声を弾ませたつむぎに、思いっきり手を掴まれた。

 どうしてそんなに喜んでくれるのか、わたしにはわからない。わかっておかなければいけないような気もする。

 けれど、そんな途方もなさそうなことをするより、目の前のものに流されてしまえと思った。わたしは、この子の笑顔を絶やさないために、ただそれだけのために、自分の乳房を差し出す。この動機はきっと、正当なはずだ。

 背を向けてブラジャーを外し、上半身だけ裸になる。さすがに恥ずかしくてTシャツを着直す。くるりと身を翻して彼女に向き合う。裾を上にめくっていって、隠すものがなにもない胸元を露わにすると、つむぎは飛びついてきた。そして、耳元でささやく。


「おねぇちゃん、もっと自分を大事にしたほうがいいよ」


 言い出しっぺはあんたでしょ、と、小さなからだに無言で圧を加えると、つむぎはようやく乳房の先端の部分を口にふくむ。湿っていて、生ぬるくて、ぞくぞくと全身が粟立っていって。

 わたしは、大学生にもなって、生まれて初めての感覚を知ってしまった。


 名は体を表すと言うけれど、ほんとうに、流れるような人生を過ごしてきた。目立った失敗はなくて、ただ無難なことを人並みにがんばれば結果もついてきたから、特に不満はなかった。

 その静かな流れがいま、何者かによって止められようとしている。何者って、もちろんつむぎのことだ。


「ほらほらぁ、はやく脱いで、おねぇちゃん?」

「表現を検めなさい表現を」


 つむぎは毎日、わたしの胸を吸いにやってくるようになった。バイトがある日は、教えてもいないのに早朝に突撃してきて、やるだけやってそそくさと帰っていく。こちらからすれば、両親にうっかり目撃されないか気が気ではない。

 聞こえが悪いからと窘めはするけれど、つむぎの言葉はどこまでも事実だった。わたしはこの子のために、服を、脱いでいるのだ。

 こころの深い部分に溜まっていく違和感から、目を逸らしながら。


「おっきいよね、なにがとは言わないけど」

「いつからこんなマセガキになったの……」

「最近の小学生は進んでるんだよ」


 この手のつけようがないエロガキが、日本にはまだまだ潜んでいるのか。おぞましい話だ。

 小学校低学年のときにつむぎは生まれて、それから今に至るまで見守り続けているわけだから、実質わたしが育てたといっても過言ではない、はず。つまりこの子はわたしの背中を見ながら成長した結果、こうなってしまったわけだ。複雑な気持ちではある。


 母親にやさしく抱かれていた幼いつむぎの姿を、消えかかった記憶から引っ張り出す。あの頃と現在の彼女は、心なしか、醸している雰囲気が似ていた。

 行為に及んでいるときのつむぎの顔は、わたしに愛情を求めているかのように、いつも不安定で。見ていると、わたしは怖くなってくる。楽しそうにされていてもそれはそれで怖いけれど、種類が違う。


「つむぎ、ひとつ訊きたいんだけど」

「んー?」

「こうすることで、つむぎにはどういう得があるの?」

「とくっ?」


 行為をやめて何度か目を瞬かせたあと、考える素振りを見せる。


「……おねぇちゃん、あったかいから」

「それ、は──」


 当たり前だ。血の通った人間だし、つむぎが目の前にいるから。

 自分を見失いそうになったとき、わたしはつむぎの存在に救われる。この子のよき姉となることで自らを保ってきたのだ。大切にしなければならない、わたしの宝物。

 だから、わたしの温もりを心地よいと感じてくれていることに安心する。安心、する、けれど。


「わたし以外にもあったかい人はいるよ。家族、とか」

「おねぇちゃんだって家族だよ」

「……っ、そうじゃなくて。わたしより、親に甘えたほうが、健全じゃない?」

「ママとパパ?」


 不思議そうな声をあげる。


「もちろん、いーっぱい甘えてるよ! でもね、足りないの」

「足りない?」

「親はとってもやさしいから大好きだけど、やっぱり私、流衣おねぇちゃんも必要みたい」


 言い終わると、つむぎはわたしの両手を取って、頭の上に持っていく。撫でろ、ということか。


「きっと、容量が大きめなの。ほかの人よりたくさん愛情を入れておかないと、満たされなくって」

「……そっか」

 

 だからって、おっぱいを吸うという奇天烈な発想に至るのは、頭のネジが外れているとしか思えないけれど。なんとなく、腑に落ちた。

 でもさ、とつむぎは続ける。


「いまさらだけど、おねぇちゃんには得あるの?」

「ほんとにいまさら」


 ない、と言い切れたらよかった。でも、黙って彼女を受け入れているのは、いい側面があるからに他ならない。


「……秘密だよ、つむぎには」

「なんで! 気になるじゃん!」

「とりあえず、わたしのそばにいてくれれば、それで十分」


 撫でるのをやめて、伸びがいい頬を引っ張る。愛おしい間抜け面。

 つむぎがつむぎでいてくれれば、無理に大人にならなくてもいいんだって思える。

 もうすぐ20歳になるのに将来のことがよくわからなくて、不安ばかりが積み重なっていくなかで、そんなわたしをこの子は肯定してくれている、ような気がする。わたしが勝手に思っているだけでも構わない。

 ただひとつだけ確かなのは、わたしたちは、この後ろめたい行為を通じて、互いに温もりを分けあっているということだった。

 

「話、長くなっちゃったね。……やる? 続き」

「やるっ」


 自ら進んで提案するだなんて、わたしは夏の暑さにやられてしまったのだろうか。

 この光景、お母さんに見られたら人生終わっちゃうなあ。そんな自嘲をしつつも、つむぎの与えてくれる快感に、身も心もおとなしく委ねた。


 つむぎが熱を出した。夏風邪だ。

 といっても、昨日そこまで辛そうではなかったから、たぶんもう治っている。それを確かめるため、わたしは今日もお見舞いに行く。

 桜庭家のチャイムを鳴らすと、すぐにドアが開けられた。つむぎのお母さんが、申し訳なさそうな様子で出てくる。


「ごめんねぇ流衣ちゃん。2日連続で」

「ううん、全然。つむぎはどう?」

「熱はすっかり下がったけど、念のため部屋から出さないようにしてる」

「そんな、監禁みたいな」


 長い付き合いなので、会話の雰囲気は軽い。年齢的にはかなり離れているけれど、ここまでつむぎを育ててきたという謎の共通意識があったりなかったりする。

 別れて部屋に向かい、控えめにノックする。


「来たよ、つむぎ」

「入って!」


 はしゃいだ声に出迎えられて、足を踏み入れた。形だけ布団をかけて横になっていたつむぎは、のそのそと身体を起こす。近くで話そうと、わたしはベッドに腰掛ける。


「もう元気そうだね」

「うん、元気もりもり! 外で遊ぶ気にはなれないけど」

「まあ暑いし、やめたほうがいいでしょ。──あ、そうだ」


 お手本のように首を傾げるつむぎ。大きな目をぱちくりさせて、続きを促してくる。


「どっか出かけようって話、あったじゃん。わたし、行きたい場所があって」


 つまらないかもしれないけど、と保険をかけて。


「ちょっと遠くでやってる美術展、ついてくる?」

「……行くっ!!」


 そう言うやいなや、布団をばさっ、と剥いでわたしの腕に手を回してきた。頭を肩に乗せると、ふにゃふにゃした声でつむぎは呟く。


「えへへぇ、たのしみ」

「そんなに喜んでくれると思わなかった……」

「おねぇちゃんと一緒ってだけで、つむぎちゃんは喜んじゃうもん」


 どうせ楽しめないだろうから、いつかちゃんとした場所にも行こうと考えていたのに、この様子だと必要なさそうだ。

 鬱陶しいほどに密着して気持ちを伝えてくれるのがかわいくて、頬がゆるんでしまう。


「つむぎ、わたしのこと好きすぎ」

「…………うん、好きだよ」


 すぐに明るい調子で返事が来ると思ったら、予想に反した。彼女らしくない、湿度の高い声で──一瞬、まじめな愛の告白と錯覚する。そんなわけはないというのに。

 少しだけ躊躇いながらも、つむぎのいるほうへ顔を向ける。

 つむぎは、ひたすらにまっすぐ、わたしの姿を捉えていた。


「おねぇちゃん。身体、こっちに向けて」

「……いいけど、どうしたの」

「昨日できなかったから、やる」


 ぎりぎり聞き取れるくらいの大きさでぼそっと口に出すと、着ているブラウスに小さな手が伸びてきた。そのままぷち、ぷち、とボタンが外されていく。

 不思議なことだけれど、わたしは抵抗するという手段の存在を忘れたかのように、されるがままだった。すべて外し終えると、袖を通しやすいように自分から腕を動かす。1枚、しっかり脱がされて、ブラジャーだけになる。

 次は、背中のホックに触れられる。特に苦戦することなく、それは簡単に外れて、ついにわたしは最後の砦までを脱がされた。


「おねぇちゃんの胸がね、すっごく恋しかった」


 両側の膨らみを掴んで内側に引き寄せて、つむぎは顔をうずめる。


「……気が済むまでやっていいから」

「うん、そのつもりだった」


 いつからわたしは、拒めなくなったんだろう。いま引き返せば間に合うかもしれないのに、引き返せない。つむぎと溺れたい。

 やるって、なにを? 自問自答する。明確な答えはわからないけれど、目を逸らしたくなる容貌をしているということはわかった。

 つむぎは右の乳房に口をつける。遅れて舌の感触があって、ぐるり、突起の周りの部分を執拗になぞってくる。いつもと違うその動きに、わたしの鼓動は警鐘を鳴らす。

 だめ。舐めるのは、だめ。おかしく、なってしまう。


「やめ、て……っ、つむぎ」

「どうして?」


 取り返しのつかないことに、なりそうだから。そう答えたとして、この子はきっと、質問に質問を重ねていく。そうして言葉に詰まったとき、続きが始まる。

 それでもいいのかな、と思うけれど、口が動いてくれない。まごついている間に、つむぎはわたしを抱き寄せる。


「好き」

「……そっか」

「大好き」

「……うん」


 そんなの一時の気の迷いだって、教えてあげられたらどんなに楽だったのだろう。少なくともわたしは、その言葉をかけられるほど無責任な人間ではなかった。


「ぜんぶ、おねぇちゃんが悪いの。生まれてから11年間、ずぅっとたっぷりの愛情を注いでくれて、そのせいで受け止める器はどんどん大きくなっちゃって。こんなことでもしなきゃ、私、乾いて死んじゃう」

「……それはたしかに、わたしが悪いね」


 上気した顔が近づいてくる。熱がぶり返したんじゃないかという具合で、でもきっと、わたしだって同じような顔色をしている。

 キスをしたがっているように見えたから、わたしは唇を重ねてあげた。どこまでも深い海みたいな景色がまぶたの裏に広がっていく。

 息が切れて唇を離すと、間髪入れずにつむぎからやってくる。今度は唾液が絡んで、お互いに舌を求め合って、無意識にその薄い肩を掴んでいたのか、押し倒したような体勢になった。


「おねぇちゃん、せっきょくてき」

「つむぎも、エロガキなだけはあるね」

「にへー」

「褒めてない」


 火照った身体を冷ましたいのか、つむぎはシャツをぱたぱたと動かす。わたしも、だんだんと冷静さを取り戻してきた。

 キス、してしまった。わたしのファーストキスは、よりにもよってつむぎだった。信じがたい事実を目の当たりにして、卒倒しそうな心持ちだ。

 

「ねぇねぇ。ここ、あいてるよ」

「そうだね、あいてる」


 いつの間にかシャツを胸の下までまくって、すべすべのお腹を丸出しにしていたつむぎ。つい、視線を注いでしまう。


「さわっていいんだよ」

「よくない」

「いい!」


 まるで意味のない口論だった。おへそに目をやると、心臓がばくばくと脈打って仕方がない。冷静さがなくなっていく。


「──ママとパパ、車で買い物行ったよ」


 それは、悪魔のささやきだ。詭弁を語っている可能性だって十分にあるのに、わたしには判断がつかない。よって、甘いほうへ流される。

 わたしのモラトリアムは、こんなにも後ろめたくていかがわしいものだったなんて。


「……それなら、少しだけ」


 小刻みに震える指で、わたしはそっと、その細いお腹に触れた。

カクヨムにふたりの詳細設定などを載せているので、ぜひ!

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