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薄暮の乙女は復讐を求めるが、聖女と勘違いされています  作者: 夜塊織夢


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懐かしい名前:ジェラール国王陛下視点

 


 十年前の冬、手足に力が入らなくなり、狩りの最中に落馬した。

 無理が効かなくなってから病床に就くまで、あっという間のことだった。

 ちょっとした不調だと思っていたのに、そこからはやせ衰える一方で、回復の兆しはなかった。


 当時、四十歳。

 まだまだ若いつもりでいた。

 だから王子たちの教育も、ゆっくりで良いと考えていた。

 王として、あってはならぬ間違いを犯してしまった。

 あらゆる未来に備えておくのが王の役目だ。


 だが、この件について【予見者】からの助言はなかった。

 それが何を意味するのかは、分からない。

 だけど、オルタンスに見捨てられたのではないと、私は信じたかった。


 それ故に、息子の、フィリップ王太子の面談を許した。


「フム、そう言えば……。まだ、大切なことを何も教えていなかったな」


 私は寝台の側に跪くフィリップを見て、ため息を吐いた。


 なんてことだ。

 (せがれ)が泣きそうな顔をしておる。

 どれどれ、ここは父親らしく助け舟を出すとしようか。


「ジェラール国王陛下……。父上、是非とも助言を頂きたい。お助け下さい」

「フィリップ王子よ。セリーヌ姫が倒れた、と聞いた」

「はい……。アルバン魔法医師団長に託しておりますが、回復魔法により命を永らえている状況で、予断を許しませぬ」

「まず、言っておく。絶対に泣くな。そんな(つら)を家臣たちに見せるでないぞ。みっともない!」

「申し訳ございません」


 フィリップが両手で顔を(こす)った。


「オルタンス伯爵夫人からオマエ宛に、親書が送られて来たらしいな」

「はい。セリーヌの危機を水晶占いで見た、とか……。最初に読んだ時は、(たち)の悪い戯言(ざれごと)と捨て置きました。しかし手紙の文面には、倒れる期日まで正確に(しる)してあり、もしやセリーヌを害した犯人の一味ではないかと……」

「バカめ。オルタンスはファビアン二世の御世より、我がパルマンティエ王家の助言者だ。決して粗略に扱うではないぞ!」

「はっ……!?ファビアン二世の御世から……」

「そこで驚くようだと、勉強が足りん。まず図書室へ行き、精霊の書を読むんだな」

「承知しました」

「他に、何が書いてあった?」


 私はフィリップに訊ねた。


「もしセリーヌが倒れたなら、ドラローシュ卿を頼れと……」

「言われた通りにしたか?」

「いえ」

「何故だ?」

「ドラローシュ卿は、弟のアルベールと懇意でありまして……」


 フィリップが困ったように言い(よど)んだ。

 まったく情けない話だ。


「オマエは王になるのだろう。だったら、全ての貴族を自在に動かして見せよ。それも出来ず、玉座に着けると思うな!」

「畏まりました」

「オルタンスの手紙に従い、己が為すべきことをせよ。よいか、そのカボチャ頭で考えるな。手紙に従い、オルタンスの指示に従え。さすれば、セリーヌ姫も助かるであろう」

「セリーヌが助かるなら、何でもしましょう」

「オルタンスは、精霊を身に宿した予見者だ。せっかくの機会だから、よく学ぶと良い」

「はい」


 フィリップは立ち上がり、一礼すると部屋を後にした。


「まったく、危なっかしくて見ていられぬ」

「それでもフィリップさまが次代の王であらせられます」


 部屋の隅に隠れていた、存在感の薄い男が姿を見せた。

 我が右腕と信じる知恵者、カントネン宰相ある。


「宰相……。フィリップのことだが、あれで国王が務まると思うか?」

「国王は家臣に頼るくらいで丁度よい。悩んで考えれば、やがて成長します。独善的でないだけ増しと思うべきでしょう」

「そうか……。考えてみれば、私もオマエに頼りっぱなしだな。何だか間諜まがいの役目までさせて、世話を掛ける。現国王として、心苦しく思う」


 カントネン宰相は学生の時分から盤上ゲームが好きで、情報戦にも長けていた。

 今は実地訓練と称し、部下たちと共に反国王派の貴族たちを(たぶら)かし、国家反逆罪の証拠を収集している。

 悲しいことに反国王派の筆頭は私の弟、ファビアン・ド・ヴァロワ公爵だった。


「わたくしは好きな仕事を好きなようにさせてもらっているだけです。平和な国家の運営など、面白くもクソもありませんからね」

「なにがしかで(むく)いてやりたいが、この身体ではな……」

「陛下は体力の回復に努めてください。まだまだ、長生きをしてもらわねば困ります。何なら、新しい薬師を探しましょうか?」


 カントネン宰相は、クリスティーナ正妃の件を持ち出したいのだろう。

 私が毒を盛られていることは、とっくに分かっている。

 犯人の目星も付いていた。


 だがそれを取りざたするのは、国王として許されない。

 今この時点でラモワン教主国と対立すれば、ナバロ神聖皇国に付け入る隙を与えてしまう。


「クリスティーナの件は捨て置け。私の嫁は、少しばかり知恵が足りん。何者かに騙されておるのだ。そうでなくとも、ラモワン教主国から嫁いできた皇族の女を牢に繋ぐことなどできん」

「左様で……」

「全ては時が解決するであろう。気長に待て」

「承知いたしました」

「予見者の言葉を信じよ」

「…………」


 カントネン宰相が(いきどお)りを抑え込もうとして、細く息を吐いた。


「して、ユストゥス教団の方は、どうか?」


 私は最も気になる勢力について、カントネン宰相に訊ねた。


「よくないですね」

「と言うと?」

「あれは単なる頭のおかしな宗教団体ではありません。非常に危険な反社会勢力です」

「困ったな」

「はい。かなり拙い状況です」


 カントネン宰相は鼻の頭を掻き、『世界の滅亡を望む宗教団体とか、初めて見ましたよ!』と、嫌悪感に満ちた口調で言い放った。






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