密室の時計
密室の時計
第一章 雨の夜の訪問者
十月の雨が激しく窓を打ちつける夜だった。古い洋館の書斎で、時計職人の河村健三は精密な懐中時計の修理に没頭していた。もうすぐ午後十時になろうとしている。
突然、玄関のチャイムが鳴り響いた。
「こんな時間に誰だろう」
健三は作業台から立ち上がり、廊下を歩いて玄関に向かった。ドアを開けると、黒いコートに身を包んだ中年の男性が立っていた。雨に濡れた髪を掻き上げながら、男は言った。
「申し訳ございません。こんな夜分に。私、古美術商の田中と申します。実は、とても大切な時計の修理をお願いしたくて」
男は慌てたような様子で、コートの内ポケットから古い懐中時計を取り出した。金色の装飾が施された美しい時計だった。
「明日の朝一番に必要なのです。どうかお願いします」
健三は時計を手に取り、その精巧な作りに感嘆した。19世紀のドイツ製らしい。
「分かりました。書斎でお待ちください。お茶でもお入れしましょう」