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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

半竜の初恋

作者: 橿原 瀬名



恋をしたのはこれで何度目だろう?



もうそれすらわからない。数えきれない。



いや、数えきれないとは言ったけど、実際は一晩中かければ出来るのだろう。



だって、私は歴代の恋人たちの名前を忘れたことは1度もない。顔だってハッキリと思い出せる。



思い出も、キスをした相手の唇の味も、肌の温もりも、逆に鉱石のように硬くひんやりした人の感触も、年老いて死んでいく彼女たちの姿も――



忘れたことなんてないんだ、忘れられたらどれ程よいかとは思うけれど。





私は、半竜でエルフの女だ。



半竜っていうのは、竜の血を引く人々のこと。そして私はエルフゆえに、その中でもさらに寿命が長い。



もう5万年は生きているはずだ。



ちなみに、普通のエルフの寿命は500年だ。


私たちエルフは、白い髪と肌を持ち、耳が尖っていて長い。目の色は青や緑、紫などの青系の色が多い。



そして半竜は、体に鱗と尻尾、それから翼と角がある。私のそれは黒色で、瞳の方は紫だ。



そんな私が最初にした恋の相手は、人間の少女だった。


あの頃はまだ私の方も12歳。彼女は1つだけ年下で、それなのに体つきは早熟で私より少し背が高かった。



名前はカレンと言う。



彼女は私の、生まれたばかりの頃からの友達だ。さすがに最初から友情を感じてたわけではないけども、家ぐるみの付き合いがあったのだ。



青い瞳で、猫のようにクリクリした、大きなツリ目が特徴の金髪の子。


あの優しげで純粋そうな印象のツリ目は、なかなか見ない造形だった。




肌は雪のように白くて、頬は薔薇色で、唇が薄かった。



「ねぇ、私ね、アナタを見てるとドキドキするのよ? 恋をしているの。女の子に恋をする女の子は珍しいから、応えて貰える可能性が低いのは分かってる。でも、黙ってなんていられなかったの」



私の言葉に、カレンはただでさえ大きくてパッチリした目を見開いて、顔を真っ赤にしていた。




それから、こう言ってくれたのよ。



「恋人ってなにをしたらなれますか?」



私はどうしようもなく嬉しくなって、言葉がでなくて、彼女を抱き締めることでしか返事が出来なかった。



「何もしなくていい。好きって言って一緒にいてくれたらいい。それ以外は何も望まないから」



それは自分自身の内側から来る、偽りのない本音だった。



「なんにも? 一緒にしてみたいこととかないの?」



「……望みと言うか、私がしてみたいだけのことなら、あるわ」



ひどく緊張していた。その願望を口にすることが、子供心に浅ましくていけないことだと思っていたから。



「なぁに?」



聞き返すカレンに、私はただ一言だけこう答えた。



「キス……」



間髪いれず、自分の頬に、柔らかい何かが触れた感触がした。


それと同時に、私は何も分からなくなる。




気がついたら、あの子の舌と私の舌が絡み合っていた。


耳年増だったが故に知っていた、『大人のキス』を、貪るようにしてしまっていたんだ。



「ごめんなさいっ……」



なぜか『彼女は戸惑っているハズだ』と思っえ後ろへ退くと、私は謝った。


今にして思うと、少し滑稽な話だ。自分を抑えられなかったことと、彼女の様子に気付かなかったことが。



彼女はただ、ボーッとした表情で、耳まで真っ赤になりながらこちらを見ていた。そして、「怖い……」と呟く。



「ごめんなさ――」



もう一度謝ろうとした私の予想に反して、彼女の言葉には続きがあった。



「離さないで……やめないで。嫌なの。ベロを舐められると、お腹がフワフワして、ワケがわからなくなって、ドキドキして、それが怖くて、なのに嬉しくて、なんでこんなの嬉しいのか分からなくて……。きっと、スゴくいけないことなんだって思うと、特別に思えて……とにかく、やめて欲しくないの」



「……それなら、その、えっと」



「なぁに……?」



眠たげにも見える感じに目を細めながらこちらを見つめる彼女に、私はこう続けた。



「いけないことほど特別なら、もっといけないこと、しない?」



我ながら下手くそで、ついでに子供が口にしてはいけない類いの誘惑の言葉だった。


と言うか、同じ子供同士だから許されるだけで、11歳の子供にしていいことでもない。




「これ以上は……無理。嫌じゃないし、きっと好きになるけど、怖い。もっとワケわかんなくされるなんて、嫌ぁ……」



そして案の定、カレンには断られてしまった。けれど、そのときには『もう恋人同士なんだし、焦ることもないか』と思っていたり



それから、彼女とはいろんなことがあった。



純朴で優しい人だったから、私のことをよく支えてくれた。


気遣いの出来る人で、私が風邪を引いた時に、一晩中寄り添ってくれたこともあった。



その時は、悪夢でも見ているのかうわごとを繰り返す私の手を握りながら、汗を拭いてくれした。



けれど、そんな彼女も、私よりずっと先に死んだ。



しわくちゃになって、老衰で死んでいったカレンは、最後にこんな言葉を残して逝った。



「ねぇ、何度でも恋をしてね。いいえ、恋に限らないわね。私より特別に思える誰かを、見つけようとし続けてちょうだい。一人になんてならないで、寂しくなんてならないで。それだけが心配よ」



しわがれた声で、一方的に交わされた約束を、私はこれまで守り続けてきたんだ。



結局、『彼女と同じくらい大事に思える人』しか、見つけられなかったけど。





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