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第4話 :真実を告げる者は誰?

それは、まるで告解室のようだった。


学院中央棟の最上階、王太子専用の応接室。

壁一面に古書と書簡が並び、香が焚かれたその空間には、ただ一人の気配がある。


「来てくれて感謝するよ、ユリア・セレスタイン嬢」


王太子レオンハルト・ユグノール。

銀の髪と琥珀色の瞳、完璧に整った姿で微笑むその人は、原作では“全ルートで正義の象徴”として描かれていた。


だが。


(その“正義”は、独善的で脆い)


彼がヒロインの言葉だけを根拠に、悪役令嬢を断罪していたのを、私は覚えている。


「貴女があの場で示した“証拠”と“論理”。実に興味深かった」


「……それだけのために呼び出したのですか?」


「ふふ。恐れを知らぬ態度、いいね。だが、それだけではない」


王太子は椅子から立ち上がり、ユリアに向かって一歩、歩み寄る。


「貴女の行動は、“学院の秩序”に影響を与えかねない。だから、私は君に訊きたい」


彼は、真っすぐに問いかけた。


「なぜ君は、“証拠”にこだわる? この世界では、立場がすべてだ。王族の言葉が正義であり、貴族の証言が事実になる」


(――それが、この世界の“常識”)


「でも、それが“間違っていたら”どうするのですか?」


「……!」


「人の言葉は嘘を含む。立場はねじ曲げられる。だから私は、証拠を集める。たとえこの世界で異端だとしても、“真実”を求めるのが、私のやり方です」


レオンハルトの目が細められる。

何かを図るように、彼はわずかに唇を歪めた。


「……いいだろう。君には“調査の自由”を与える。ただし、一つ条件がある」


「条件?」


「“誰か一人”を常に同行させること。学院の騎士候補生――クロード・ヴァレンティアを、君の護衛として任命する」


「……護衛?」


「そう。言葉巧みに“真実”を語る者には、時として“沈黙させたい誰か”が現れる。君が狙われたとき、彼が助けてくれるだろう」


それはつまり、“危険を承知で行け”という意味だ。


「わかりました。お引き受けします」


ユリアは一礼し、部屋を後にした。

扉を閉じる直前、彼の声が背中に投げかけられる。


「君のような“真実の使い手”を、見誤るつもりはない。だが、気をつけたまえ。真実は――ときに、人を傷つける」



「王太子からの直接の許可? ……ふふ、なかなかやるじゃない」


アメリアはユリアの報告を聞いて、目を細めた。


「ただ、気になるのは……」


「マリアの動きよね」


「ええ。最近、彼女が“事件の記録”を片っ端から借りて読んでいるらしいの。学院の図書室に残された“旧事件記録”までも」


ユリアは黙ったまま、窓の外を見る。


(彼女も、“気づいている”のかもしれない)


何かが狂っていること。

この学院で、誰かが“正義を装って他人を蹴落とすゲーム”をしていること。



その夜。

ユリアの部屋のドアの下に、一枚の手紙が差し込まれていた。


「貴女のやり方は危険です。どうか関わらないで。でないと、“貴女が壊されます”」

――Mより


(M? マリア?)


だが、その文字には見覚えがなかった。

むしろ、整いすぎた筆跡。意図的に“演出された恐怖”。


「……脅迫状、ね。上等よ」


ユリアは静かに笑った。


これはもう、“ただのゲーム”ではない。


真実を告げる者は誰か。

そして――誰が、“真実を語るふりをして嘘を操っているのか”。


次の事件は、もう始まっていた。



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