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第2話 : 始まりの紅茶事件と偽りの毒

アメリア・ローゼンベルクが無実を訴える声は、静まり返った大広間の中でもはっきりと響いた。


「……ありがとう、ユリア」


優雅なカーテシーと共に、彼女は小さく微笑む。

だがその目の奥には、貴族令嬢らしからぬ冷静さと、感謝以上の“評価”が宿っていた。


(この人、ただの悪役令嬢じゃない)


ユリア――つまり私――はそう直感した。


事件はひとまず“保留”となり、王太子の鶴の一声で調査が命じられる。

堂々と場を退いたアメリアと、謎の視線を私に向ける生徒たち。


中でも、ヒロイン役の平民少女・マリアの視線は、ひどく歪んでいた。


(……これ、ゲームと違う。あの子、私を睨んでた?)


――それは最初の違和感だった。



「……なるほど。あなた、ただのセレスタイン家の末娘じゃないわね」


放課後。

学院のバルコニーで、アメリアは紅茶を啜りながら言った。


「なんのことかしら?」


「……いいのよ、はぐらかしても。私にはわかる。あなた、あの場で“この事件には証拠がない”って論じた」


「ただの感想よ。あまりにも筋が通ってなかったから」


「ふふっ。あなたみたいな子、好きよ」


彼女の唇が綺麗に笑う。だがその裏に、知性が光っていた。


「セレスタイン家って、今は没落寸前の地方貴族だったかしら? 本来なら、あんな場で意見できる身分ではない。でもあなたはやった。しかも、完璧に筋を通してね」


「……私には、“冤罪で人が潰される”光景が許せないだけ」


本音だった。


ゲームの中で、私は何度もこのイベントを見た。

どのルートでもアメリアは糾弾され、罵倒され、排除される。

でも一度たりとも、彼女に「まともな弁護の機会」は与えられていなかった。


(そんなの、不公平よ)


「では、あなたにお願いしたいわ。私の“探偵”役を」


アメリアが紅茶をカップに戻す音が響く。


「毒殺未遂事件――本当に私がやってないというなら、それを証明する必要がある。でも私一人では、真相にはたどり着けないわ」


「……いいわ。わたしが“推理”してあげる。論理と、証拠でね」


こうして、ユリア・セレスタインは最初の事件に正式に関わることになった。



数日後。


紅茶事件の“現場検証”として、厨房や配膳係への聞き取りを進めていたユリアは、ふと奇妙な事実に気づく。


「……このお茶、紅茶じゃないわね」


「え?」


厨房の給仕が目を丸くする。


「アールグレイの香りに見せかけた、別の薬草が混じってる。たぶん、“アヴィスの葉”。少量なら香りを立てるけど、大量だと……」


「……毒に?」


「厳密には、胃腸を刺激して吐き気を誘発する。しかも数時間後に症状が出るから、意図的に飲まされたとは思いにくい。でも――」


「でも?」


ユリアは目を細めた。


「“あえて”少量だけ仕込んだとしたら……“体調を崩す原因”だけを与えつつ、“毒”と疑わせたかった誰かがいるってことよ」


(これは事故じゃない。“偽装された事故”)


そして、そのお茶を最後にチェックしたのは――


「……配膳前、最後に味見したのは……マリア様でございます」


「……なに?」


思わず振り向くと、使用人は震える声で続けた。


「『味が合ってるか確認する』とおっしゃって。ご自身のティーカップからは、一口だけ飲まれておりました」


(つまり、仕込んだのは――)


ユリアの中で、線が一本、確かに繋がった。


事件の裏にいるのは、悪役令嬢ではなく、“ヒロイン”の方かもしれない。

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