プロローグ:論理でフラグは折れるのか?
目の前で、少女が裁かれていた。
煌びやかな貴族学院の大広間。絢爛な衣装に身を包んだ生徒たちが見下す中、金髪碧眼の悪役令嬢――アメリア・ローゼンベルクが、無実の罪で糾弾されている。
「あなたは平民の少女を苛め、無実の薬を毒と偽って服用させ、王太子殿下を侮辱した……!」
誰かが叫ぶたびに、場に同調の空気が広がる。
だが、どれも“証拠”は曖昧で、ただの状況証拠ばかりだ。
(ああ……やっぱり無理があるよね、この展開)
わたし――結城 優莉は、ため息を飲み込んだ。
これは、乙女ゲーム『ロゼリア・クロニクル』の終盤シーン。
正ヒロインが全ルートで悪役令嬢を断罪し、攻略対象に認められる定番イベント。
でも。
(明らかに、誰かが仕組んでる)
思えばこのゲームは、ご都合主義が多かった。証拠はないのにヒロインの言い分だけが通ったり、王太子が「信じた」だけで悪役が断罪されたり。
そんな歪んだ“正義”を、見過ごすことができなかった。
「待って」
誰よりも大きな声で、わたしは言った。
「その断罪、矛盾があります」
全員が、息を呑む。
おかしい。
わたしはさっきまで、日本の高校で推理小説を読んでいて、そして――トラックに轢かれたはずだった。
でも気づけばここにいて。
制服ではなく、見覚えのあるモブ令嬢――ユリア・セレスタインのドレスを着ている。
(転生? っていうか、これゲームの中?)
戸惑いの中でも、頭は冷静だった。
この断罪イベント、黙っていればアメリアだけが処罰される。
でも、そうはさせない。
「“毒を盛った”とされるお茶ですが、その時間、アメリア様は教室で授業を受けていました。その場には教師も複数いましたよね?」
「……え?」
「しかも、被害者とされる平民の少女は、その後の調査で『自分が盛られたとは思っていなかった』と周囲に話していた記録があります。どうして、それが“毒”だと誰が断定したのか――王太子殿下、説明いただけますか?」
会場が静まり返る。
わたしは知っている。この世界には“ロジック”がない。
けれど。
(なら、わたしが論理でこの世界を上書きしてやる)
この世界には証拠も裁判もない。
ならば私が、それを持ち込めばいいだけの話。
それが、モブ令嬢ユリアの“第一の事件”だった――。