第9話:虚構世界の監獄と第四のプレイヤー
目を覚ましたとき、そこは“空白”だった。
色も匂いも音もない、ただ広がる白。
上下も重力も存在せず、身体の輪郭すら曖昧になるような空間。
「……アメリア? ハル?」
返事は、なかった。
そこにいたのは、ユリアひとり。
(ここは……どこ?)
足元に浮かび上がるように現れたのは、黒い“選択肢”の文字列。
[A] 世界の再構築を許可する
[B] 全てをなかったことにする
[C] プレイヤー権限を要求する
(……選択? これは……)
選ばせようとしている。
“この世界をどのように終わらせるか”を。
だが、ユリアはゆっくりと首を横に振った。
「……私は、そんなもの、選ばない」
その瞬間、空間が波打った。
視界が強制的に切り替わり、そこに現れたのは――
黒いローブの人物。
顔は見えない。声も、性別すらも不明。
ただ、その存在はこの世界の“根源”に直結していることがわかった。
「あなたが……“創った”の?」
「否。私は“修正する者”にすぎない。本来の物語から逸れた世界を、正しい形に戻すための存在。私は、“第四のプレイヤー”」
「プレイヤー……?」
「第一のプレイヤーは“君たち”。この世界に転生して、影響を与えた者たち。
第二のプレイヤーは“マリア”。運命に従い、物語を完成させる役目を担った存在。
第三のプレイヤーは“改竄者”。物語を裏から操り、結末を書き換えようとした者。
……そして、私は“監視者”。」
黒ローブの声が、ユリアの胸に直接響く。
「だが、君はすでに“第四の資格”を得ている。
それは、物語に抗い、論理をもって真実を創造した者だけが持つ、選択する権利」
ユリアは拳を握りしめた。
「私に言わせれば、あんたたちは“プレイヤー”でも“神”でもないわ。ただの責任放棄者よ」
「……?」
「私たちがこの世界で出会って、泣いて、迷って、傷ついて、それでも選んできた選択が、“逸脱”だというなら――そんな“正史”なんて、私はいらない」
ユリアは、まっすぐに宣言する。
「私はこの世界に生きてる。ゲームのキャラクターじゃなく、一人の人間として。
アメリアも、クロードも、ハルも、マリアすらも――誰一人、切り捨てたりしない!」
「……君は、運命を壊すつもりか」
「壊してみせる。新しい物語を、自分で選ぶために!」
その瞬間、白い空間が砕ける。
裂け目の向こうから、懐かしい声が響いた。
「ユリア!」
それは――ハルだった。
手を伸ばす彼の姿の後ろには、アメリア、クロード、そして学院の仲間たちがいた。
ユリアはためらわず、その手を取った。
「“物語”は、私たちが創るものよ!」
眩い光が走り――ユリアたちは、“新しい世界”へと飛び込んだ。