仲間
「今日はこの辺りで野営しようか」
中層へと続く道の近くで、シルは全体に向けてそう投げかけた。
リパルは初めての長期滞在で、かなり疲労していたのでホッと安堵の息を零す。
その様子を見ていたオルフィが、徐ろに魔法袋から魔導具を取り出す。
「今日は少し手の込んだ料理にしましょうか♪」
―――、
眼の前にはオルフィという一流の職人によって作られた料理が鎮座していた。
汁ダクの香ばしい匂い香る巨大肉。
様々な香辛料を使った野菜炒め。
パンの添えられたチーズと肉と野菜がたっぷりのクリームシチュー。
長時間の戦闘でエネルギーが枯渇している冒険者達にとって、それは悪魔的な魅力を放っていた。
「……んーっ! 美味しいわ!」
「モグモグッ ――頑張った皆さんにご褒美です♪」
「オルフィ、私のお嫁さんになってくれ!」
「シル様が男性になったら考えてあげます♪」
「……美味しい……美味しいっ……!」
感動してボロボロと泣くリパルに触れず、温かな目に見守る三人。
これまで少ない貯金で三食干し肉のようなヒモジイ生活を送っていたリパルにとって、迷宮内でこのような豪華な食事を食べられるのは夢でしかなかった。
荷物持ちをしながら迷宮を潜り、転移罠に引っ掛かって大穴の底に辿り着いた時、リパルは確実に死んだと思った。それが何の間違いか今は中層手前でこんな贅沢な仲間と共に、一端の冒険者として迷宮を潜っている。
全てはあの時、咄嗟に使えるよう蘇生薬をポケットに入れていたことから始まった。
「オルフィ、みんな。ありがとう…っ!」
「おいおい、泣くのは迷宮を制覇してからにしてくれ」
「全く、男なのにみっともないわね…っ こっちまで泣きたくなるからやめなさいっ!」
「ウフフ♪ どういたしまして♫」
食事を終えて、オルフィとアシュキーはテントで眠りについた。リパルとシルはテントの近くでランタンを囲んで周囲を警戒を行っていた。
組分けは前衛と後衛でそれぞれ上手く戦えるよう話し合って決めた。
「――シルさんは迷宮最下層にあると言われている願いの木に仲間の復活を願うんですよね」
「ああ、共に迷宮制覇すると誓った仲だからな」
そう語るシルの表情は何処か誇らしげで、昔の仲間だと考えていないのがよく分かる。
実際シルは蘇生されてまだ一月も経っていないので、感覚的にもまだそう昔のことではなかった。
「……僕は最強に憧れていて、でもそれは何かに叶えてもらうものではなく自分で叶えたいから、叶えて欲しい願いは無いんですよね」
「いい心掛けだな、最強は与えられるものではなく体現するものだと私は思う。――まだ時間はある、急いで考える必要はないと思うぞ」
「そうですね、まだ29層。あの百足を倒せるようになってからでも遅くないかな」
「ははっ、言うようになったな。アレの外殻は私でも破壊が難しいが、お前がデバッファーとして優秀になったら、あれくらいは斬ってみせるよ」
「言いましたね? ならさっさと強くなって90層に行きましょう」
二人してニヤリと笑い、互いの拳をぶつけ合った。
シルはリパルの雰囲気から精神的に一段階強くなったのを感じ、本当に強くなるだろうと確信した。
二人は力量差はあれど、どちらも互いを助け合った仲。
信頼なんてものではない、もっと心の深い部分での繋がりを二人は感じていた。
交代の時間になるまで、二人は朗らかに談笑を続けるのだった。