【西国の王】
西の大国シューリアン。その王宮の豪華な執務室で、男はため息を吐いていた。
「ネットがしたい」
「陛下」
「もう帰りたい。猫の動画みたい。なんで殺伐とした書類を眺めないといけないんだ」
「そんなこと言われましても……」
西の大国の国王ダルシュは、白髪が混じってきたが威厳のある整った顔立ちの君主だ。
普段はこんな人ではないのだけど、そう思いながら宰相リーガルは窘めるように言った。
「その魔法ネットがそもそもの問題ではないですか」
「そうなんだけどさ」
東の大国が発明した魔法ネットは世界に急速に発達した。
ネットが使いたいがために各国は東の大国と協定を結んでいるのだが、ちゃっかりとどさくさに紛れて和平条約まで結んだ国もある。そのため、勢力を伸ばす東の大国への危機感が国内でも問題視されている。
西の大国の強みは魔道具の技術であり、この一点だけでは東の大国をはるかにしのぐ。そしてネットの普及とともに、需要のある魔道具も人々の間に増えていく。例えば、特定の魔法が使えなくても、誰でもネットに写真や動画をあげられる魔道具などだ。
「もうネットなしの時代に戻れないねぇ……」
「そんなことになったら暴動が起こりますね」
なにもなかった時代はほんの数年前のことなのに。人間は一度便利なものを手に入れたらそう簡単には手放せないのだ。
「便利で楽しくてそして厄介なものだのぉ」
「そうですね」
「面倒なことを手放して、憂いもなくネットがやりたい」
「……そんなことが出来るのならとっくにしてますよ」
二人が話しているのは、彼らを長い間悩ませ続けているもの。
そうして魔法ネットワークの発達で、彼らが気付いてしまったもの。
「聖女、あそこだよねぇ」
「おそらくは」
国王はもう一度ため息を吐く。
「癒されたい……」