表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
幽閉された聖女は塔の上でネト充する  作者: 水流花


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/33

ネットの進化

 膨大な情報に溢れていると多少は気はまぎれる。

 それでも、ネットを切断して現実に戻ってくると、静かな部屋の中で孤独を感じた。


 ネットに夢中になると寝食を忘れがち。それに運動もしないとダメだって、割とすぐ気づいた。体力がなくなると、若くて元気な体のはずなのに、ふらふらとしてくる。だから、ご飯の時間はログアウト、運動もして、よく寝た。心と体を鍛えなければ、あっというまに崩れ落ちてしまいそうな気がする。


 静かに日々が過ぎていく。このころ、ネットの人口が爆発的に増えだしていた。


 しばらく気付いていなかったけれど、「聖女」というハンドルネームは「勇者」に並ぶ流行りのハンドルネームだったらしい。検索すると何万件も出てくる。うわぁ……。でもわかる気もする。みんな特別な何者かになりたいんだよね。なったら大変だけど……。

 私はどこにいても「聖女」をハンドルネームにしていたけど、そんなことでかなり埋もれていた。


 お問い合わせフォームの返信は、半分くらい来なかった。来ても「定型文」。少し踏み込んでみても「担当部署に伝えます」。


 それから、好奇心からなのか、個人識別ID宛に、個人メールはたくさん来ていた。

 誹謗中傷も多いけど……なんだか純粋に信じて心配している内容も混ざっている。色んな人がいるもんだ、と思う。支援したいとかほしいものリストから送りたいとか書いてあるけど、ここに通販は送れないと思う……。それとこれは詐欺だな、と明らかなのも多々あった。孤独を埋め合いましょう、的なのも。あやしげなリンクが貼ってあるのも。


 一時それらの返信に追われ、そうして私はどっと疲れてしまった。





「少し……分かったよ」


 ぽつりと呟く。

 今の私の言葉では、人を信じさせるだけの説得力がないんだろうなって。ナイフのように鋭く私の心を傷つける言葉たちが私にそれを教えてくれた。信じてくれるという人の方がおかしいんじゃないかと思えるくらい。

 そしてもう一つ。

 

「もしも私の存在が本物でも、幽閉されているなら、危険を冒してまで探し出す必要なんてないんだ」


 だって、本当に閉じ込められていたとしても、いつか死ぬのを待てばいいだけ。

 長く魔王の姿が確認されていないらしいし、恐らく、危険を冒して救い出すほどには、人間は聖女を求めていない。求めているのなら、とっくに、私の声は誰かに届いていたのだろうから。

 死を求められる声は見つけるたびに、私の心を削って行った。





 今度は慎重に、と、情報を収集していく。

 納得出来るだけの情報が無ければ誰も信じないと、学んだ。そうは言ってもネットの世界しか知らないと言うのに情報など持っているわけもない。


 誰が載せたのか、かつての聖女の肖像画というのがアップされていたのを見た。

 私に似ていた。髪の色と目の色が同じだ。そうか、と思う。私の姿かたちを見せることが出来るなら、信じてもらいやすいのかもしれない。だけど、写真など残せる手段がない。


 長い時間ネットを見つめていた。

 けれど、誰かを納得させられるような新たな情報など何も得られない。


 足掻くように、私は伝えることを止めなかった。流行りの情報サイトが出来る度に、同じ書き込みを残した。ハンドルネーム「聖女」の書き込み。


「私は聖女です。幼い頃からずっと魔族の塔の中に閉じ込められています。どうか助けてください」


 それはあの日、一番最初に書いたものと全く同じもの。

 そうしてその返信は、最初に書かれたものと、ほぼ同じもので溢れただけだった。






 私は助けを求めることを諦めた。






 趣味のワンコの写真を集め出す。世の中には同じ趣味の同志がいるものだ。リンクのまとめられているサイトにはとてもお世話になった。ああーかわいいよーー。癒されるなぁ。


「生まれ変わったら犬になりたい」


 そんなことを本当に思う。

 聖女はもう嫌だ。

 まるで、誰にも私の生を求められず、死を望まれているような気持ちになるだけ。


 可愛い動物のイラストを上げているサイトの絵師さんのファンになった。繊細で、だけど優しいタッチの筆遣いは、私の琴線におおいに触れた。きゅるんとした瞳の輝きが絶妙なのだ。心に刺さりまくる。

 心にふぁぁぁーって好きぃぃぃって気持ちが溢れかえって、あ、私ちゃんと生きてるんだな、とふと思ってしまった。


 好きとか、嫌いとか、哀しいとか、楽しいとか……。

 ひとりぼっちの生活の中で、心を感じることが少し麻痺してたみたい。違うかな。心を殺していたのかな。忘れていた感情を少しずつ思い出していく。


 知らない間に、凍るように固まってしまっていた心が、少しずつほぐされていく。

 怯えるように縮こまっていた体が、また呼吸を始める。手足を伸ばして生きられるようなその感覚は、生きてるって実感出来るもの。


 毎日ニマニマと絵師さんのイラストを見つめて癒されながら、気力が回復していくのを感じる。

 二次元の萌えはなんて素晴らしい。大事な心の栄養源だ!







「よっし、がんばるぞい!!」


 誰に望まれなくても、私という人間の記憶を思い出して、今を生きている。

 足掻けるかぎり、最後まで生きるだけ。   


 今度は、自分で脱出出来る方法を考えようと、検索方法を変えた。

 聖女の魔力に当たると、魔族は消失するらしい。偉大な魔王すら例外ではない。


「だからこそ、問題は誰も近寄ってこないってことだよねぇ……」


 私が死にそうになったら誰かがやってくるのではないかと考えてみたけれど、一月ほど高熱を出して寝込んだときにも誰も来なかった。これ、死んでいいと思われているだろ。


「なにか魔法が使えたらいいんだけどね」


 じっと手を見る。

 この手からは、虹色の魔法の輝きしか生み出せなかった。

 本当は、魔法を鍛えて、自力で塔を壊して抜け出せないかなって思ったんだけど。そもそも歴代の聖女も使える魔法が他になにもないらしい。攻撃魔法も治癒魔法も使えないそうだ。


「聖女……弱すぎ問題」


 というのも、この世界の人族は皆何種類かの属性魔法が使えるようなのだ。日常も魔法が使えることが前提に成り立っているようなのに、聖女の魔法しか使えない人間なんて、社会的弱者じゃないのか。


 役に立つ魔法なんてなんもない……幽閉なんてされていなくても、自然淘汰されそうな生き物だ。

 そうすると、筋トレやサバイバル術や健康のための豆知識くらいしか学ぶものがなく、仕方なく無駄に筋肉を付けて行く日々の中でただ途方に暮れた。







 そうしているうちに、ネットの社会はまた進化した。


 流行が移っていく。

 日記を書くためのコンテンツが生まれたり、匿名を売りにしていた思っていたネット文化なのに、あえて本名を記載して自分をアピールするコンテンツが出来たり、日記ともコミュニティとも違う短文を書きっぱなしにするコンテンツが流行ったり……。


 この頃からポイントサイトでポイ活にも精を出した。

 個人識別IDにネット通貨を貯められるのだ。今は無料のコンテンツばかりだけど、今後のことを考えると通貨は持っていたい。






 そんなある日のことだった。


 ネットの世界に、3Dアバターが流行り出した。

 個人の魔力データをネット世界で疑似的に人型にし、作り出された疑似フィールドを好きなように歩き回れるのだ。


 初めは単純なものだった。

 没入型じゃなくて、神目線で簡素な自分のアバターを見つめる感じのやつ。

 地面に木が生えているだけの簡素な疑似フィールドを歩き回り、出会った人と挨拶をしたりするだけのもの。

 でも段々その疑似フィールドは細部まで作り込まれ、神目線じゃなくて完全没入型になり、山があれば海もあり、音があり温度を感じられ匂いもする、本物かと見間違うほどの出来になっていく。

 またアバターも思うがままの姿で形作れるようになっていった。


 私はいつものように、そこで、本物の自分にそっくりな疑似アバターを作り、聖女、と名前を付けた。


「誰か私に気付いて……」


 まるで最後の希望のように。






 アバターを作ったその日、自然豊かな疑似フィールドを、思う存分走り回った。

 この世界に目覚めてから一度も見たことがない景色と、音と匂いの生々しい感覚。

 全身が震えた。なにこれ楽しい。

 地面を転げまわるようにして、思い切り笑う。


「すごい!すごい!すごい!」


 どうして心がこんなにも喜ぶのか分からない。でも。


「……生きてるって感じがする」


 気が付くと、涙が溢れて止まらない。

 疑似フィールドの疑似アバターで。それでも私は思いきり泣く。

 決して現実ではないその空間で、私はこの肉体に生を受けて初めて、五感で感じとる世界を知った気持ちになったのだ。








その頃

(幽閉聖女ちゃんを探そうpart100)


なーあれから本人来てないの?

俺たちは聖女ちゃんを信じるっ

あんま本気で探してる人いない?

本スレは世界の真実を語ろうの方だしな。こっちは過疎るよな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ