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式典

 病室に、西国からの使者と言う人がやってきた。

 聖女生還記念の式典がある、と説明を受ける。体調が良ければ出席して、可能であれば国民の前に顔を出して欲しいとも。くれぐれも無理はする必要ない、と言ってくださって、気遣ってくれているのを感じられた。だから私は快諾した。お世話になったこの国にお礼を伝えたい。





 そうして数日後、お世話になった病院の人たちにたくさんお礼を言って、今度は王宮の客室にお世話になることになった。なんと用意されていた服のサイズもぴったりだった。はて?と思ったけれど、病院での健康診断がやけに細かかったことを思い出す。あれ普通に衣装の採寸してたのか。


 当日……白い聖女の衣装というものに着替え、身支度を整えてもらった。

 まだ少しはやい時間に、陛下がお呼びです、と声を掛けられる。式典前に挨拶をするのだろうと、廊下を付いて歩くと、その先に、見慣れた姿を見つけて……ドキリと心臓が跳ねる。


 ――ああ、勇者だ!


 廊下の先に立つのは背の高い青年。黒い騎士服のようなものに身を包み、束ねていた金髪は今は切りそろえられている。大きな体躯に似合わぬ繊細で美しい顔立ちの彼は今、まっすぐに私を見つめている。


 彼のもとに駆け寄り、思わず彼の腕を掴んで言った。


「……()()()?」


 ずっと彼の身を案じていたのだ。会ったら一緒に考えようと約束した勇者。なのに私の前にいないから……一人きりにしていて大丈夫なのか、ずっと、心配していた。

 彼は一瞬目を瞠り、そうしてそっと私の手に自分の手を重ねた。


「……問題ない。お前は?」

「良かった……私は元気になったよ」


 おかげさまで、と、にへへと笑うと、勇者は困ったように眉根を下げる。


「無理はするな」

「うん」


 不思議だった。ゲームの中と何も変わらないみたい。良く知った間柄みたいに私たちは話している。姿かたちも、口調も、性格も、何もかもがほとんど同じに思えてしまう。


「陛下がお呼びです」


 そういって扉が開かれ、部屋の中に招き入れられると、そこは少し大きな応接室のような部屋だった。

 背の高い男性が私たちに笑顔を向けていた。式典用なのか金細工のたくさんついている白い装束を着ていた。年頃は私から見たら父親世代なのかな。一目で高貴な方だと分かるこの方が、きっと陛下なのだろう。


「よく来てくれたね。私はシューリアン国王のダルシュだ。どうぞ腰かけてくれ」


 ソファに向かい合わせに座ると彼はにっこり笑った。


「これは非公式の場なんだ。気にせず、なんでも言って欲しい」


 そういうと彼は側付きの人に書類のようなものを渡してもらった。その紙をテーブルの上に広げた。

 それは……私を描いた絵師さんのイラストだった。聖女のまわりに星が輝いて、聖女は幸せそうに眼を瞑っている。でも見たことないイラストだ。そういえば狂信者がイラスト見た?って聞いて来てたけど、これのこと?新作が来てたのか。


 あれ……でも待って、どういうことだろう。

 これはまるで紙に描いてあるみたい。絵の具のにじみ方が、この紙にそのままにじませたみたい。それに……この世界って印刷技術なんてあるの?この国は魔道具が発達してるからあるのかな?


「私が描いたんだよ」

「……」

「いつも感想ありがとう。聖女さん」


 驚いて顔を上げると、そこにある陛下のお顔は……大きな黒い瞳がきゅるんと潤むようで、それは初期のころから大好きな絵師さんの絵の特徴とあまりに似ていた。


「……にゃんにゃん丸さん!?」

「うん」


 ダルシュ陛下は嬉しそうに微笑んだ。


「話を聞いてくれるかい?」


 彼はそういうと、長くなるけど、と言いながら語ってくれた。






 

 子供のころから絵を描くのが好きだったこと、反対されていたけれど、大人になってからも一番の趣味として続けていたこと。


「上手く伝えられないけれど、絵を描くことは、私の中で、日常の苦しみを昇華させるような作業でね。心を綺麗にする手段と言うのは言い過ぎかもしれないけど。自分を満足させるだけのものだったけど、ネットが出来たからこっそり描き溜めたものを上げたんだ。人に見てもらえるようになって、楽しかったよ。そんな中で、一番うれしかったのは、毎日コメントをくれた君だった。何を載せても、一番に、熱量の籠った感想をくれたんだもの」


 そしてそのコメントをくれた人が、聖女を名乗っていると知ってからは、聖女の行方を捜したのだという。


「私の中には、遠い、もう名前も分からない亡くなった国の血が流れているんだ」


 亡国の王族が西国に嫁ぎ、そして、その血は薄れども、自分に繋がっているのだという。


「はるか昔の、亡国の運命を、血族として、口伝で伝えられていたんだ。今となってはどれだけ信じていいのか分からないくらいの……伝承なのだが。実際には長い歴史の中で知っていたのは王族だけではなくなっていたはずだけど」


 ダルシュ陛下は語った。


「亡国は、西国の南東、今は魔の森に取り込まれた場所にあったのだと。そしてそれは、魔王との交渉の末、魔族が人間を襲わない代わりに、人間が自ら魔族に与え渡した国なのだと。その国は一晩で魔王の魔法により人の目から隠されたのだと」


 魔王と人間が交渉していた……そんな話ネットでも見たこともない。


「魔王と交渉をしていた記録など公には残っていない。表向き存在しない歴史を……その血を引くものが口伝で残し続けた……と想像出来るけれど、実際は分からない」


 だけど、と彼は続ける。


「魔法ネットに繋がる、人間の土地で、魔族に幽閉されているのなら……そこしかないのではないか、と私は考えた。そして……その場所を探せるのはこの世界で私しかいないのではないか、と思った。だから、少しだけ、私は積極的に捜索出来るように手配させてもらった。この世界で一番の私のファンのために」


 彼は優しい笑みを浮かべて言う。


「勇者クレイグの足元にも及ばないけれど」

「……それは私のようなものにまで話すことではないかと」


 勇者が低い声でそう言った。


「大丈夫だと思う。君たちは親しいんだろう?2人にだけしか、伝えるつもりはない」

「……」

「古い……言い伝えなんだ。聖女の抱えるものを共に背負ってもらったほうがいいかと思ったんだが余計なお世話だったかな」

「……配慮感謝します」


 私はずっと、ずっと、考えている。

 難しい話も聞いていたし、勇者が少し機嫌を悪くしているのも気が付いている。

 だけど、私の心の中は一つのことでいっぱいだ。


「あの……」


 私の言葉に二人はこちらを見た。


「にゃんにゃん丸さん、本当にありがとうございました。イラストとても嬉しかったんです。可愛くて素敵で、生きてて良かったって本当に思って……!」


 思い出したら、涙が出て来た。

 溢れる気持ちをどう伝えていいのかも分からない。


「すごくすごく、嬉しかったんです……!」

「……うん」

「ずっと大好きです。世界で一番大好きな絵師さんです」

「うんうん」


 涙声で、上手くしゃべれない中、お礼を言い続けると、ダルシュ陛下は本当に嬉しそうな顔をして言った。


「また描くね。さぁ、泣かないで。忘れたの?今日は式典があるんだよ」

「あ……」


 忘れてた。私はあわてて顔を拭くと、退室して身支度を直しに連れていかれる。

 そうしてしばらくして、再び勇者と会ったときには、その横に王子も姫もいた。煌びやかな礼服に身を包んだ彼らは、本物の王子様とお姫様のようだった。本物だけど。


 その日は、西国と東国の共同で聖女救出を祝う式典が開かれた。私は式典の後に、王城から西国の国民宛に手を振る役割を担う。


 感謝を込めて手を振った。歓声の湧き上がる城下を見下ろして、本当に人間の住む場所に戻ることが出来たんだって……初めて実感したような気がする。ここには人の生み出す確かな熱気があるんだって感じることが出来たのだから。

リーガル宰相「ペットショップ行きますか?」

ダルシュ陛下「にゃんこ飼ってもいいかなぁ」

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