【とある神官】
信仰に人生を奉げて来た。
家を継がない貴族の出身のため、幼いころから神官学校で教育を受け、神の教えを疑うことなくその道に入った。教えの中で、聖女のことはもちろん知っていた。我らが神の教えの、その本質を知るもの、として経典に載っているのだから。
魔法ネット上に聖女を名乗る女が現れた――
そんな話は山のように聞くことがあったけれど、『彼女』に関しては、いつもと違う違和感を感じた。閉じ込められている塔の眼下に、咲き誇る白い花が見える、と言っているのだ。
「まさか……」
大地に咲き誇る小さな白い花。それはフィンフィラと呼ばれる雑草の花。
一般的に知られていることではないが、フィンフィラは聖女の花であると、そんな一説がある。聖女の祈りがその花を輝かせた各種の逸話も残っているのだ。
教会の教えは、本来、人はみな愛を知っている、というもの。けれどそれは生命として生まれ、生き物として過ごしているうちに変質して変わって行ってしまうのだ。
愛を忘れ、迷い苦しみ、そうして、だからこそ原点の神に教えを乞う――
彼女は聖女なのだろうか。フィンフィラを輝かせることが出来るならば、それは確定するのだが……。
少し、小細工をした。
聖女の祈りの歌の、もっとも検証されたものを渡した。そうして、実際に光輝く白い花を見た。
「聖女様……!」
私は歓喜した。
神の愛を知るものが、まだこの世界に存在するのかと。この、薄汚れた、欲にまみれ、地獄のような苦しみに溢れた、神への信仰を忘れていく世界に、まだ。
「そういえば、魔法ネットワークがそもそもそうでありましたね……」
ふと思い出す。
大地深くに眠る魔力の底と呼ばれる場所を利用しているときく。分化する前の魔力の塊の流れが活用できるように魔法式を埋め込んでいるのだとか。未分化の魔力は、地上でもっとも愛に近いと言われている。
「愛は、憎しみにも、喜びにも変わる」
それを知らぬ人はいないだろう。
皮肉なものだと思う。最も愛に近い場所からの、愛に近いものからの声を聞き、その死を望むそんな声すら溢れている。けれどそれでも。
「どうか聖女様のもとへ愛が届けられますように」
捨てたものではないと思える世界になれるように。
日々そう願い、幸せを願うことしか自分には出来ない。




