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勇者たちの不在再び

 歌ってみた動画が流行った。

 なんと私の聖女動画を見て、その歌を一般の人たちがカラオケみたいに歌ってみてくれる動画が流行ったのだ。


 最近は特別な魔法を持っていない人でも、動画が取れてネットに上げられる魔道具が普及し始めているらしい。お高いからそんなに持ってる人いないみたいなんだけど、町単位とかで購入し、市民に貸し出してるのだとか。


「ツライ……」


 私がいつものように顔を隠してソファで丸くなってると、みんなが流行ってる動画を教えてくれた。


「すごいにゃあ。みんな聖女さんが大好きなんだにゃ」

「我らの聖女ちゃんの愛され方すごいね」

「……」


 こんな時、勇者はいつもちょっと困った顔をしてる。

 私が悶えてるから、素直に動画をほめていいのか、悩んでるみたい。安定の勇者の不器用ぶりだ。


「でもさぁ、このコメントも話題なんだけど、聖女ちゃん知ってる?」

「……はい?」


 見せてもらったコメントは、『輝くフィンフィラの花に魔族が近寄って来ない』という噂。


「……え、まじっすか?」

「どうだろうねぇ。確認に行かなくちゃいけないとこ。だからまた不在になるかもしれないんだ」

「すぐに戻る。心配するな」


 待て待て。

 これは気になる。塔の眼下のフィンフィラも、夜になると光り輝いているのが分かる。

 魔族はもともと私に近寄ってこないけど、輝いてる状態だと、そもそも近寄ることも出来ないのか……?


 そうして数日後、勇者と王子、姫の三人はまた「しばらく出かけるけど、ちょっぱやで戻ってくるにゃ☆」と言って出かけて行った。







「やほー聖女ちゃん」

「今は会いたくなかった……」


 みんなが不在の間に狂信者がやってきた。


「えー?なんでー?」

「心の隙間が空きまくっているからだよ……」


 そして私はその隙間に付け込まれやすいチョロ子だ。もう十分それを理解した。黒歴史を重ねて。


「歌わないよ!?」

「えー違うよぉ。アニメの進捗見せようと思って」

「え?」


 狂信者は壁にプロジェクターみたいにして動画を流してくれた。

 それは愛らしいアニメキャラを使った、フラッシュ動画みたいな簡易的なアニメだった。


 草原に座りこみ、笑顔で歌う聖女の元に様々な動物が駆け寄り、一緒に歌を楽しんでいる。

 聖女は気持ち良さそうに動物をなで、心から楽しそうに笑っている。


「ふわぁぁぁ……!」

「結構いい出来だよね」


 うんうん、と狂信者が頷く。


「これが一番、聖女ちゃんっぽくて、僕も好きだな」


 私っぽい……なんて分かるんだろうか。

 だって、会ったことないのに。誰にも一度もだ。会ったこともない人の人柄なんて……想像出来るものなんだろうか。


「聖女ちゃんのことを、みんなに知ってもらえるといいねぇ」


 なのに狂信者は、いつもアイドルを語るときと変わらない純粋な笑顔でそんなことを言った。

 そして「今度は自分でも歌詞思いついたら書いてみてね」そういって帰って行った。









 暫くして、フィンフィラさんもやってきた。


「心に隙間の空いているときに宗教のお話はちょっと……」

「え、大丈夫ですか?どんなお話でも聞きますよ」


 心から心配そうに私を気遣ってくれる善意が辛い。


「お構いなく……今日はどのようなご用件で?」

「少し動きがございました。今みなさんもいらっしゃらないようですし、早めにお伝えした方がいいかと」

「動きですか?」


 フィンフィラさんは語りだした。


「私どもの西国支部からの情報なのですが、どうやら聖女が見つかった、と国内で話題になっているそうです」

「……え?」


 見つかったってなに!?見つけられてないよ?


「魔道具というのはご存じでしょうか?」

「はぁ……魔法で動かす機械のことですよね」


 この世界には転生者が多い。だから、前世にあった機械を再現しようとしてる魔道具が多いみたい。

 まだ生産技術が追いついてなくて、作られても高額なものばかりみたいなんだけど。


「空を飛ぶ、撮影魔道具が開発されたのですが、それを使い上空から、人が踏み入れない土地に光輝くフィンフィラが大量に咲く土地を見つけた、と」

「……フィンフィラ」

「今はその場所が、聖女伝説の亡国なのではないか、と話題にもなっています」

「……」


 本当に?それはここのことなんだろうか。


「人が踏み入れられない理由がある場所なのです」

「どうしてですか?」

「そこは魔の森と呼ばれているところです。その場所に近づくだけで魔族に遭遇したという事例が山のように出ています。決して、普段なら人が近づかない場所です……が」


 フィンフィラさんは笑顔を浮かべ、嬉しそうに言った。


「なんと素晴らしいことでしょう!道具を使えば、人のいない土地まで踏み込めたのです!しかも、本来なら飛行型の魔族に、追撃されてもおかしくなかった。だけど今は、聖女様の動画が繰り返し再生され、街中でも多く歌われている。世界中のフィンフィラが光り輝いているのです。魔族が近寄り難くなっているのではないか、と言われています。また最終的にはその飛行魔道具にも、音楽を再生してあったのではないか、そんな噂もあります」


 まじかよ。


「飛行魔道具は運良く、魔族の目を潜り抜け、魔の森に分け入り、人目のない……森の奥で、そんな場所にあるはずもないフィンフィラの輝きを見つけました」

「……」


 フィンフィラさんは私をまっすぐに見つめて言う。


「まもなく、西国からの使者が東国にやってまいります。長く緊張状態にあった国同士の、対話の時が来たのです。聖女様、おそらくこれは悪い話ではありません。西国からは、聖女救出の助力が欲しい、との意思表示がすでになされています」


 話がめくるめく進む。私の頭は付いていけない。

 なんだか震えて来て。勇者の腕につかまりたいなって思う。彼の鍛えられた腕は、いつだって私を守ろうとしてくれるのだから。


「もうすこしです。聖女様」


 信じてくれているフィンフィラさんの純粋な瞳の輝きが、眩しい。


 だけど、と私は思う。

 とても喜べない。喜びたい、でも、だめなのだ。だって私を助けるためには、魔族との戦いが始まるということなのだから……。




 ――この頃から、聖女を探しているという、各国からの公式のメールが多く届くようになった。

 とはいえ、私の方からはなにも有益な情報を返信出来なかったのだけど。

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