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聖女の祈り……の歌

「やっぱり帰るぅ……」


 パーティハウスのリビングで。

 私が泣きたい気持ちでそう言うと、逃がすまいと姫ががっちりと私の白魔導士のローブを掴んでくる。


「どうせなら一緒に観ましょうにゃ!いいですか?聖女さんが帰っても、私たちはここで鑑賞するんですよ……?何言われてるのか分からないですよ……?」

「うぅ……」


 それもまた怖い。

 両手で顔を覆ってソファの上で丸くなる。なんて辱めなんだ。


 ――今日は、狂信者が作った『聖女の祈り』の動画配信日だ。

 そう、心弱っていた私が、うっかり乗せられて歌ってしまったあの日の黒歴史……。


「見たくない……」

「僕はすごく楽しみだなぁ。可愛い聖女ちゃんのデビュー曲!」

「そうですにゃ!デビュタントよりすごいですにゃ!」

「何その例え……」


 ちらりと勇者の様子を窺う。彼は安定の無表情だ。


「勇者も、楽しみにしてたっしょ」

「……」

「だって、今日怒涛の勢いで仕事終わらせようとしてんの!残業ゼロ!」

「一体どこから見て……」


 勇者は私に気遣うように視線を移す。


「……面白がってるわけではない。ただ一緒に観たいと」


 分かってるよ。勇者はそういう性格だもんね。


「あきらめましょ。ね?」

「うぅ……」


 時間が近づいて来て、壁一面にプロジェクター画面みたいに動画配信サイトが映し出される。


 この時代の動画の流行りは、動物動画が多い。どこの世界でもそうなのか、人間の共通の癒しなのか。

 人間が配信するのもあるし、私のゲーム実況も珍しくて良く見られてたりしたけど、アイドルやタレントの概念もないし……そんなに流行ってない。


 魔法ネットワークの進化は早いのに、そう言うところが前世と全然違うのは、人の気持ちがまだこの進化に追いついてないんじゃないかなって……たまにそんなことを思う。


「あ、始まったにゃ……」


 静かな音楽が流れて来てタイトルが映る。


 聖女の祈り

 作成:聖女捜索委員会

 協力:神聖教会


「神聖教会協力しちゃってるよー!」


 王子が思わずと言ったように膝を叩いて爆笑する。姫も、うそーんと呟く。


「すごいことなんです?」

「この国……というか、大陸全土の一番古い宗教なんだ。聖女信仰があるから……協力してくれたのかな」

「どんな根回ししたんだか……気になるにゃ」


 へぇ、宗教あんまり興味なくて知らなかった。それに宗教の詳しい情報ってネットにあんまり載ってないんだよね。


 次に草原に立ち尽くす、白い衣装の少女が映る。

 風に吹かれる草原と、そして白銀の長い髪を躍らせるように立つ少女。

 少しずつアップになっていき、少女のサファイアブルーの瞳がきらりと光る。


 ――ひぇ!私だ。


「うわぁ、綺麗」

「すげぇぇぇ」

「……っ」


 もうやだ。帰りたい。そう思う私の気持ちを置いて、動画は進んでいく。


 少女は胸の前で祈るように手を組み、歌い出す。


『小さき白い花

 咲き誇れ

 望みはそれだけ


 星に空に、草に花に、水に大地に

 祈るのはそれだけ


 朝に昼に夜に

 雨に晴れに曇りに

 乳飲み子に

 老いたものに

 与えたいものはそれだけ


 消えた大地に

 忘れられる白い花

 枯れた大地に

 恵みを分ける白い花


 小さき白い花

 咲き誇れ

 望みはただそれだけ』


 詩を朗読しているようなそれは、狂信者が望んでいたようなアイドルソングとはまるで違うものだった。さすが教会の協力が取り付けられただけあるんだろう。軽妙なポップソングではなかった。


「……聖女伝説、か」


 真剣な顔で、勇者が言った。


「へぇぇ……信者くん、よく調べてるんだね。ここから歌詞を持ってくるとは」

「ううううう、綺麗だにゃああ」


 姫が感極まって号泣している。


「聖女伝説に詳しいです?」


 良く考えたら狂信者は特に何も言ってなかったなぁ。


「うん。少しは。たくさんあるんだけど、これは、はるか昔に滅びた小国の話だね。隣国に逃げ延びた人たちが、かつての自分たちの聖女の逸話を残したとされている」

「滅びた小国……ですかぁ」

「そう、小さな白い花、フィンフィラが咲き誇っていた小国。今はもうどこにあったかも定かではなくて、聖女の命と共に国が消えたとも言われている。それに、その花今は雑草なんだよ。どこにでも咲いてる」


 ……塔の眼下に咲いてる白い花はもしや……。

 そういや、フィンフィラさんって名前のメル友いたな。雑草だったんだ。


「聖女の祈りが届く場所には、その白い花が咲いてる……って伝説でね」

「なるほど……」


 伝説っておとぎ話と何が違うんだろ?ってくらいの感じのものだよね。


「もう一回!もう一回見るにゃ!」

「ひぇっ!!」


 そうして姫のリクエストでエンドレスにリピート再生されることになり、私はただもう「消えたい……」そんな気持ちでいっぱいになっていた。






 数日後、狂信者が慌てたようにやってきた。


「大変だよぉ!!神聖教会から呼び出しがかかったよ!」


 ……なんで?

(幽閉聖女ちゃんを探そうpart730)

聖女ちゃぁぁぁぁぁん

待ってたよ聖女ちゃん

我らが聖女ちゃん

聖女伝説詳しいやついない?

考察班呼んで来い

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