【西国の王2】
西の大国シューリアン。その王宮の豪華な執務室で、男はため息を吐いていた。
「猫が飼いたい」
「陛下」
「もう疲れた……」
西の大国の国王ダルシュの口から出るのは、宰相にだけに聞かせられる気やすい言葉。
「確かに頑張られましたね」
「……分かる?」
「まさかここまでやられるとは思っていませんでしたよ」
「私もそう思うよ」
だって私は、肉親を殺されても何もしなかったからな、そう続ける。
「母を毒殺されても、弟を暗殺されても、罪の追及は許されなかった。それを行っただろう、その盤石な後ろ盾の力を、私自身も必要としていたからだ。私自身の手もすでに汚れ切っている。だが……これからの新しい時代に、古臭い因縁など必要ないだろう?膿を出し切る時が来たのだ。閉塞感漂うこの国が開かれていくならば、息子たちはむしろ喜ぶだろうよ」
宰相リーガルは考える。
国王は、国内で強い政力を持っていた、保守派の力をそぎ落とした。叩けば山のように出てくる汚職や不正、罪に問える状況を作り上げれば、表舞台から消し去ることなど容易い。けれど、同時に国が荒れる。有能な人材も、資金源も失いかねない。
この王は、本来それを望む人ではなかった。和を望み、絶望的な状況でも最善を受け入れる。
「傀儡と呼ばれた王が、いまさらだろう?」
「いえ……」
「革新派には、アレは渡してあるな?」
「はい。アレを大量に」
アレとは、開発を急がせ作らせた、空飛ぶ撮影魔道具。
「ならば見つけ出すのは時間の問題であろうな……」
王は呟く。
「あともう一押しであるのにな」
続けて言う。
「もう少しで、聖女を見つけられるであろうに」