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第15話

 サイレンから逃げるように学校をあとにした俺は、念のため十六夜の自宅前までやって来ていた。


「十六夜は無事みたいだな」


 窓から室内を見つめると、サンタの帽子をかぶった十六夜が母親らしき女性とケーキを運んでいた。

 彼女が無事であることを確認した後、次は自分の安否を確かめに行くことにした。


 団地の下から4階の自室を見上げると、突然窓が開き、小6の俺が顔を出した。


「あっ!  なんで突然いなくなったんだよ!  つーか俺、告ったぞ!  ちゃんと十六夜と付き合ったんだぞ!」


 お前は本当によくやったよと、俺は微笑んだ。


「これで十六夜は大丈夫なんだよな!  おっさんも、未来の俺も幸せになれるんだよな!」

「ああ、何も心配しなくていい」


 もう田中はいない。

 すべての元凶はこの世から消滅したのだ。

 俺は小さな自分に向かって腕を伸ばした。

 サムズアップだ。


「戦樹、あんた何騒いでるの?」


 母さんの声が聞こえてきた。


「なんでもないよ!」


 俺は最後にじゃあなと手を振り、未来に向かって走り出した。



 ◆◆◆



 その後、俺はタクシーを拾い、タイムマシンを停めたコンビニへと急行した。

 タイムマシンがまだあのコンビニにあるのか不安だったが、その心配は杞憂に終わった。

 プリウスは――タイムマシンは確かにコンビニの駐車場にあった。



「方向が逆だ」


 俺は丁寧にバックで駐車していたのに、プリウスは正面から突っ込むように停まっていた。


「本当に田中が乗ったのか。……マジかよ」


 車に乗り込むと、ハンドルやサイドブレーキに血痕がついているのが分かった。それらは乾いており、かなりの時間が経っているようだ。


「ガソリンも相当減っているな」


 車から降りて、俺はボンネットを開けてタイムマシン装置を確認した。

 予想通り、タイムエネルギーは使い果たされていた。


「明護に感謝だな」


 予備のタイムエネルギーをトランクから取り出し、補充するために使用した。それからタイムマシンのメモリを2014年8月1日から2023年6月11日に再設定した。

 次に、車内のノートパソコンを使って座標を確認し、目的地をラボに変更する。


 前回のタイムトラベルでは座標や時期にかなりのずれが生じたが、それを無視するわけにはいかなかった。


 4ヶ月程度のずれなら問題はないが、年単位でずれてしまうと様々な問題が生じる可能性がある。

 こればかりは試してみるしかない。

 もし大幅なずれが起きてしまった場合は、やり直すしかないだろう。


「頼むからタイムパラドックスが起きててくれよ」


 SF映画やSF小説なら、主人公はタイムパラドックスを回避するために苦労するものだが、自分がその逆を行くことになるなんて予想だにしなかった。

 明護が知ったらきっと激怒するだろう。

 明護を救うために、俺は田中を殺し、タイムパラドックスが起こるよう手を加えた。


 すべては俺の責任だ。


「待ってろよ明護、今帰るからな」


 俺はエンジンをかけ、車を走らせた。

 タイムマシンが発動可能な速度に達するため、山道を猛スピードで駆け抜けた。

 やがて速度が100km/hに達すると、タイムマシンのボンネットの裏側から七色の光を放つ時空幻石が輝き始めた。その光が徐々に黒い塊となり、ついにブラックホールが形成された。車は瞬く間にブラックホールに飲み込まれた。


 プリウスはブラックホールの引力に逆らいながら、未知の道を切り開いて時空の果てに向かっていく。

 ブラックホールの内部を進むにつれ、俺は窓の外で起こる奇妙な現象に興味深く眉をひそめた。


「これは一体……前回はこんなの見なかったのに」


 星々が歪み、光が曲がり、時空がねじれる光景が窓の外に広がっていく。

 俺は息をのんで、この神秘的な光景にしばし見入っていた。

 やがて、鮮やかな光が俺の目に差し込んできた。それはホワイトホールの輝きだった。

 俺の心には喜びと希望が満ち、同時に不安も湧いていた。


 もし未来が変わっていなければ、俺はどうすればいいのだろう。

 そんなことばかり考えていた。


 車は徐々にホワイトホールに近づいていく。

 俺は本当に過去の苦しみから解放され、幸せな未来を手に入れることができるのだろうか。

 車はついにホワイトホールに入っていく。


 俺は過去を――未来を変えることができたのだろうか。

 この新たな世界で友人と再会することはできるのだろうか。


 数十秒の時間旅行が終わりを迎える。

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