五
また別の日のお茶の時間、ニキタはエップネン家について話してくれた。
「武門の誉れ高き家。そんな感じ。ヨウハーは次男。格式張ってて、筋の通らないことは大嫌い。だから通行税の二段目も取ってない。その点では味方だったんだけどね。いまとなっては豊かとは言えない家」
「じゃあ、仮に戦争を自動化する呪文ができたら自分たちの活躍する場がなくなるって考えなのか」
「さすがにそれは違う。ヨウハー・エップネンは本当に平和を望んでるって思う。二度目の魔王は許さないって」
クロウは眉をひそめた。そういう思想の奴は、俗な言葉で評するならば、やばい。尖鋭化する恐れがある。そう言うと、ニキタはそうかな、という顔をしたがうなずいた。
「そこは貴族だから自重できると思う。けれど、もっともでもある。所長としては注意が必要かも。警告ありがとう」
「今日が謹慎明けか、気をつけないと……」
そう言い終わらないうちに扉が激しく叩かれた。入れともいわないのに部下が青い顔をのぞかせて大声を出す。
「トリーンが!」
紙を振った。
声明は研究所の看板に貼りつけてあった。
内容は、研究の即時停止と大学からの退去を要求していた。それと、トリーンは研究所の象徴として預かった、要求が速やかに実行されれば無事に帰されるとあった。
「ほかに誰が知ってる?」
「いいえ、誰も。休憩から戻ってこれを見つけ、そのままここに来ました」
「よし。上級管理者にはわたしから伝えておく。もうなにも言うな。トリーンは急病とし、当分の実験は強化能力なしで行え」
そう指示されると、部下は青い顔のまま去っていった。
「クロウ」
「もちろん協力する。大学と警備には話した方がいい。ここも警戒がいる。さらわれるのが一人とは限らない」
「分かった。しかしそれより……」
言葉を途中でさえぎる。
「トリーンは俺が探す。ヨウハーの一味は学長通達で謹慎にされてた奴らでいいな?」
ニキタは、俺、などという言葉遣いを咎めようともしなかった。
「貴族だぞ?」
「やり方は心得てる。それに素人だ。たかが知れてる。トリーンの無事奪還を最優先に、人知れず動くよ」
「頼む。それにしても自信あるのか」
「まかせろ。これは戦争で、俺は戦争屋だった」
出て行くクロウを見送りながら、ニキタはどこかすっきりしない表情だった。声のいら立ちを抑えきれないまま、上級管理者に招集をかけた。




