六
庵も天幕もあらかた片付いていた。撤収はすぐだろう。ケストリュリュム家の大魔法使いはクロウに椅子を勧めながら自分も座った。二人の間の机には帝国公用の封筒があり、紋で封をされていた。円のなかに縦線が一本、直角に交わる横線が二本。
「ありがとうございます」
「こんなことしかできなくて済みません。わたしの立場では目立ちすぎますので」
「分かります。確認しますが、わたしはケストリュリュム家の委任を受け、魔法に関連する条約を調査する、と、言う体ですね」
「その通りです。加えて、その紹介状は閉架の資料庫も利用可能です」
クロウは頭を下げた。
「そこまでしていただくとは……。しかし、あなたの不利にはなりませんか」
「値打ちはあります。クロウさん、あなたの仮説が正しいとすれば、重大な倫理上の問題が生じます。解決のために大きな力を必要とするでしょう。そして、情報は力なのです」
大魔法使いはクロウの目を見た。黒く、周りにはしわ。暦の上では自分の子供のような年齢だが、死については塔にこもっていたわたしなどよりはるかに多く、深い経験をしている。
「お聞かせください。わたしの魔王の起源に関する仮説、どの程度正しいとお考えですか。また、おなじように考えている貴族や大魔法使いはおられないのですか」
「それは言えません。あなたに先入観を与えてしまう」
芝居がかった仕草で手を振って続ける。
「過剰な力の集中によりこの世に裂け目が出来て魔王がやって来た。これが従来の、そして皆がそう思っている起源です。しかし、あなたは異を唱えている」
「当然です。いまだにどこのだれがやったか公表されてない。規制条約作っただけ。大戦の始まりはぼけたままだ。調べなきゃ。でしょ?」
「最後にもう一度確認します。真相はぼかしておいたほうがいいとは思いませんか」
「いいえ。それに、あなたもそう考えてない」
うなずくと、小袋を取りだして机に置いた。
「さしあたりこれをどうぞ。調査に必要であれば連絡ください。追加します」
「いいえ、そこまでは。それに資金面でのつながりができるのはケストリュリュム家としてまずいのではありませんか」
「これはわたし個人からです。家には影響しません。それと、差し出がましいようですがあなたには必要です。例えばその身なりですが、大図書館にはいささかふさわしくないと存じます」
クロウは自分の服を見なおして笑った。
「ありがとうございます。そこまでは考えませんでした。ではこれは有効に利用いたします。首都警備兵や図書館員につまみ出されないように」




