四
エランデューア家の紋をつけた魔法使いは、おや、という顔で少女を見た。少女は緑の瞳でまっすぐ見返してきた。
「どうした? トリーン、応援は?」
「これはなんですか。わたしはなにを応援してるんですか」
トリーンと呼ばれた少女は答えず、質問で返した。編んだ髪が揺れる。
「通信経路を決定する呪文だよ。昨日話した通り」
「本当? 前より線が多くなってる。なにを付け加えたんですか」
またか。魔法使いは手を上げ、休憩を告げた。最近よくあるとは言え、周りの者たちは実験が始まって早々の中断にいぶかしげな様子だった。
「悪いが、君には基礎知識がない。細かい説明をしても分からないと思うよ」
「なら大まかでもいい。とにかく増えた分について教えてください」
「なぜ」
もういら立ちを隠していない。皆心配げに成り行きをうかがっていた。
「わたしは自分がなにをしているか知りたいからです」
「君は応援だけしてればいい」
魔法使いは肩を叩かれた。振り向くといつの間にか開発主任が来ていた。一礼する。
「話はわたしがする。下がっていなさい」
きらびやかな紋入りマントをつけた開発主任が代わった。椅子を指し、トリーンが座ってから腰掛ける。
「どうしたんだい? 最近質問が多いね」
「わたしはなにをさせられてるんですか」
「それは最初に話したが、もう一度言うと、通信に関する呪文の開発の手助けだよ。経路の決定、暗号化と復号処理、そして演算の効率化。トリーン、君は魔法使いを応援してそのすべての過程を助けてくれている。それじゃいけないかな」
トリーンはぐっと唇をかみ、思い切った。
「主任さんは、わたしがなにをされたか知ってますか。オウルーク・イクゥス‐ブレードに」
まわりで息をのむ気配がした。主任はうなずく。
「知っている。大変な事件だった」
「その時に見た線と、あれは似ています。それに演算荷札みたいなのもある。通信にいるんですか。そんな線」
もし部下だったら怒鳴りつけていただろう。なにが必要でなにがいらないかなどおまえに教えてもらうつもりはない、だまって仕事をしろ、と。
「とても注意深いんだね。でも呪文やその文様の線がお互いに似通うのは珍しくはないんだよ」
少女はじっと考えている。その間、目をそらさない。
「なら主任さん、約束してください。わたしが手伝う呪文に通信の処理以外は含まれないって」
開発主任はまちがいを犯した。その問いに即答できなかった。
「……もちろん。約束する。ここで開発される呪文に通信処理以外の要素はない。さあ、再開してもいいかな」
トリーンはうなずいた。しかし、その場のだれも少女の目が細められたのには気づかなかった。




