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 指差し、背中を押す。

「おじさんは?」

「言ったろう。わたしは本物じゃない。大魔法使いの頭のなかで作られたんだ。ここに来たのも片道。戻る体はない」

「その大魔法使いの頭は?」

「そこに戻ってどうなる? なにもできずただ単にそこにあるだけになっちまう。それは死んでるのとおなじだよ」

「帰れないの? どうなるの?」

 下を向く。

「答えて。もし嘘やごまかしが混じってるって思ったら行きません」

「君は知るべきじゃない」

「それはわたしが決めます!」

「知ると背負うぞ。いいのか」

 まばたきをしてトリーンは口を開く。

「教えて」

「君が抜けた呪術文様は崩壊する。当然、わたしは消える」

「じゃあ行かない」

 もう一度背中を押す。

「行くんだ。わたしの本物は外にいる」

「でも、ここで今した話は知らないんでしょう? あなただって本物よ」

「違う。わたしに現在と未来はない。過去が積み重なった埃の山に過ぎない」

「消えるの、怖くないの」

「魂がないから怖くない」


 しゃがみ込んでしまったトリーンの肩に手を置く。どうすればいいんだろう。大魔法使いが開けてくれた道を通ればすぐに自分の体に帰れるのに、この子はなにを思って動かないのだろう。


「わたし、分からなくなっちゃった」

 しゃがんだ姿勢から腰を下ろす。あきらめたような、疲れきったような顔だった。

「なにが分からない?」

「本物ってなに? いまのわたしが本物ってどうやって分かるの? もしかしたらあなたとおなじかも知れない」

「大丈夫。君はもとの体に戻れる。みんな待ってるよ。もちろんクロウも」

「あなたもクロウでしょ?」

「そうだが、そうじゃない。本物から指示を受けたときに分かった。わたしは書かれた文字、それとも自動の呪文に近いのかな」

「じゃあ、外のクロウさん、消えるの分かっててあなたを寄越したの?」

 即答できなかったが、それでなにか察したらしい。トリーンは立ち上がった。なんとか答える。

「そうだよ。外の本物はなにもかも知った上でわたしに指示し、大魔法使いは呪術文様に支線を繋いで送りこんだ。次は君の番。ここを出て体に戻るんだ」

「世界に、よね」

 こちらを見上げる。こんな小さい子が年老いた目をしていた。

 それからぎゅっと抱きついてきた。後は振り返らず走って行った。


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