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「なんだ、二人で鼻赤くして」

 ペリジーがからかい、マールは笑っている。

「まあ許せ。さ、積もうか」

 いつもの一頭立ての荷馬車と、そばに荷箱と郵袋があった。ディガンは荷札を確認して大丈夫と言うように笑ってうなずいた。積み込みを済ませ、王室派遣官と領地の役人の検査を受ける。ローテンブレード家の紋をつけた役人は書類のマダム・マリーの名を見てわずかに顔をしかめた。筋違いと分かっていても、マダム・マリー専属の隊なら家に火をつけた奴らと言えなくもない。しかし、王室派遣官もいるのでめったな振る舞いはできなかった。


「その荷馬車、待て!」

 出発しようとした時だった。事務所からもう一人王室派遣官が飛び出てきた。書類を振り回しており、あわてているのか上着の襟がはだけている。検査をした派遣官に書類を見せるとにらまれたので襟を直した。最初の派遣官が四人の方を向いた。

「クロウはいるか」

「わたくしです」

 書類が渡された。三人も覗き込む。それは通信を復元して書きとめたものだった。

「なんでいまごろ?」

 発信者はあの大魔法使いの秘書で、速やかに庵まで来ていただきたい、とあった。いただきたいとあるが事実上命令なのは軍隊経験のある者ならすぐに分かった。

「小僧、すまんがマダム・マリーに連絡頼む。途中まで一緒に行くけど抜けるって」

 ペリジーが走って行った。

「皆済まないがこれは無視できない。山で別れよう」

「大丈夫か」

 マールが心配そうな顔をしている。この命令の裏になにがあるのか想像もつかなかった。トリーンに関係あるのは確実だが、クロウ一人だけ呼びだす訳が分からない。

「通信文はこれで全部ですか」

 ディガンが襟を直した派遣官に聞いた。全部だ、との返答だったが納得していないようだった。

 そのうちにペリジーが戻ってきて、クロウの途中抜けが了承されたと伝えた。

「しょうがないってさ。エランデューア様もおなじ」

「じゃ、出発しよう。すっかり遅れた。日が暮れてもしばらく進むぞ」

 ディガンが気合を入れるように言い、荷馬車は門を出た。


「クロウ、ほんとに一人でいいのか」

 峠を越え、別れる所まで来た時、マールがもう一度聞いた。

「大丈夫。でもありがとな」

 日は落ち、月明りが頼りだった。掃除の終わった山は静かで虫と鳥の声だけがしていた。

「トリーを頼む」

 ディガンが肩を叩く。ペリジーは万事順調の手信号をした。


 クロウは一行が夜の闇に消えるまで見送り、街道をそれて庵に向かった。


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