三
四人はマダム・マリーの事務所を後にした。次の仕事まで半日ほど間がある。マールとペリジーはそれぞれ自分の用事を済ますと言って駆けて行った。ディガンがクロウの肩を叩いて杯を傾ける仕草をする。
「どうだ? 最初の一杯はおごるぞ」
「いい店あるかい」
ディガンに連れられ、表通りを一本外れた。ふつうの家の裏口にしか見えない扉を入ると狭いが落ち着いた雰囲気だった。初めに出てきたのは少し辛口だった。
「食うだろ?」
そのつもりだったのかとクロウはうなずいた。魚と根菜の皿が届く。見た目はまるっきり家庭料理だった。
「こりゃいい。こんな店あったんだな」
「探せばどこにでもある。ちゃんとした酒と食い物を出すけど、忙しくなるのが嫌で隠れてるような店さ」
店主の方を見ると、こちらにほほ笑み返す。腹を満たし、いいかなと思ったが酒をさらに辛口にした。仕事までにはなんとかなるだろう。窓から心地よい風が入ってきた。雨のおかげで埃っぽくない。
「世の中どんどん変わってくな」
「どうしたんです? 隊長。弱気じゃないすか」
「ああ、ついてくのがきつい。大砲よ、あの中継通信の話、分かったか」
「ええ、いい話だってくらいには。なんでも早く動かすのなら儲かるに決まってる」
「分かってないな……」
一口すするように飲む。鼻が色づいてきた。
「……通信が早くなって、街に居ながらにして出したり受け取ったりできる。もし大戦の頃にそんなのあったらどうだ?」
「そりゃだいぶ助かっただろう。命令とか報告があっちこっちになったり遅れたりしなくて済む」
「だろ? そういう統治ができるようになるんだ。王室は大喜び」
「貴族もじゃないのか」
だんだん話が読めてきた。クロウも一口すすった。
「朝起きたことをその日のうちに知れて、各地を直接支配できるのに、地方に貴族置いとく意味は?」
声が小さくなった。
「よしてくれ、隊長。また揉めんのかよ」
「多分な。それで全部繋がるだろ。鬼除けと称して祠の設置を急ぎ、王室直属の部隊を作り、かい……」
クロウが続きを横取りする。
「……改修を急いだ。完全に解明されてない超越能力使ってまで。隊長、これが言いたかったのか」
うなずく。
「でも、どうしようもない。この動きは止められないし、止めていいかも分からない」
またうなずいた。
「あいつ、自分たちのやってること分かってんのかな。隊長、どう思う?」
「エランデューア家か。分かってるだろうな。だからこそ数学技術者の養成をするって言ってるんだろ。領地経営で生き残るのは困難だって見通し立ててるんだ。これからはそんなふうに考えて動ける家とそうでないのとで差が出てくる」
「隊長、あんたこれからどうするんだ?」
答えるまで間が空いた。皿の残りをつついている。
「どうもしない。俺は世の中が完全に変わる前に逝っちまってるさ。それよりおまえたちだな。上手に火の粉を避けろよ」
「ご親切痛み入るよ。まったく大戦終わったから落ち着けるって思ってたのにな」
ディガンは笑ったが、心の底からではなかった。クロウは苦笑いした。




