六
支給されたのは濃緑装備の背嚢だった。四人は中身を確かめながら指揮官の作戦説明を聞いていた。他にも三隊いた。兵士も魔法使いも多い。軍の編成は交通安全部とは異なっている。
「諸君らはローテンブレード本領地と飛び領地を結ぶ街道から直角に山中に入り、奥へと進む。その途中で鬼どもを狩り出す。目的は殲滅。それだけだ」
毛布、綱、火起こしなどの小物。昔と変わらない。
「なお、別地点からも出発する。この掃除に関わる戦闘部隊は全部で七隊だ。受け持ち区画は書類にあるとおりだが見直しておけ」
乾燥食料。これも現役のころと変わっておらず、ぞっとしない塊だった。
「ただし、通常と異なる点がある。すでに説明済みだが再確認する」
血止め、痛み止めに加えて軍用の包帯。治療呪文が封じこんである。
「この作戦は街道に害をもたらす鬼の駆除であるとともに、超越能力の実験を兼ねている。よって、魔法はもちろん、とにかくなんでもいいから変わった点は記録しておくように」
背嚢の底に合図用の魔石があった。印からすると三回分。撃ち上げるととんでもない光と音を発して空に昇っていく。
「では起立! 作戦開始! 時間を無駄にするな!」
指揮官の言葉に合わせて部下の兵士が笛を吹いた。全員反射的に背筋を伸ばし、山中に入っていった。
「軍に戻ったみたいだ」
他の隊が見えなくなり、自分たちだけになるとディガンがつぶやいた。森は突き出す根や転がる岩で歩きにくく、見通しは利かない。四人は速度を落として受け持ち区域に入った。
「どうする?」
「どうするって、ふつうに歩き回るしかないだろ。大砲は気を探っててくれ」
ディガンがマールに答え、クロウに指示を出した。
「変わった鬼いるかなーっと」
ふざけた口調はペリジーだった。ひさしぶりに外に出て気が晴れたらしい。
「百足鬼とか鷲鬼なんかと出くわすかもな。山奥だし」
マールもふざけ、みんな笑った。毒持ちや飛行する奴は厄介だが、その手の目立って凶悪なのは戦後真っ先に狩られている。
「なあ、なんで見張り役がいない? このまま逃げちまうか」
クロウが小さな声で言うが、その気がないのは丸分かりだった。ディガンが首を振る。
「読まれてる。俺たちは逃げ出さない。だろ?」
「だな。トリー気になるし。ちゃんと見届けないといけないよな」
マールがつぶやき、クロウの方を見る。
「で、どうだい? 強化の具合は?」
「いまの俺は大魔法使いだよ。正面に犬鬼。一匹。強弓の三倍の距離」
「そんな遠いのに種類とか何匹とか分かんの?」
「そうさ、小僧。いまは大魔法使いだって言っただろ。俺一人で焼くよ。気楽にしててくれ」
そして、その通りになった。犬鬼は吠える時間も与えられず蒸発した。
「俺らの分も残しといてくれ」
「その気ないくせに。楽して稼げるぞ、おやじさん」
いままでとちがい、超遠距離の鬼の気を正確に探知できる。そうなってみると以前はお互いに気付かずすれ違っていたような鬼まで退治の対象になった。ほとんどが犬鬼、たまに蜘蛛鬼だったが強化されたクロウの火球の敵ではなかった。
「調子いいが、こういうときこそ気を抜くなよ」
年長者らしくディガンが注意する。隊の空気にどことなく浮ついたものを感じたからだった。いろいろあるのだろうが、いまは遂行中の任務に集中すべきだ。さもないと足元をすくわれる。歩きながらそんな話をした。
「まーた隊長の説教だよ」
しかし、ペリジーも分かっていた。どうしても心が離れていってしまう。自分の将来や、魂を抜かれた少女が気になってしまう。
「トリー、元に戻れるかな」
「そもそも戻す気あるのか」
「嫌なこと言うなって」
ペリジーがマールを睨む。その不安はクロウも感じていた。王室はずっと研究対象として呪術文様とトリーンの体を現状維持し続けるんじゃないだろうか。奴らには復旧する動機も利益もない。
じゃあ、俺たちは? 俺たちはなぜ戻したい?
クロウは立ち止った。考えるのは後。気付いたディガンも立ち止まり、みんながクロウの顔を見た。
「でかい。あの岩の向こう、斜面のくぼんだ所、いきなり現れた」
「なんだ? 分かるか」
「母茸だ」




