一
乗りこんできた交代要員は女性だった。向かいにさっと座り、天井を叩いて出発を促す。
「あなたがトリーンちゃんね。わたしはマルゴット・シュトローフェルド。よろしく」
茶色の髪を成人で未婚の型に編んでおり、大きな耳をしていた。青い目はくぼんでいる。鼻は顔の真ん中で目立っていて、薄い口はクロウさんみたいだった。歳はどのくらいだろう。ペリジーさんよりは上っぽいけど、クロウさんよりは下に見える。
「よろしくお願いします。トリーンです」
「トリストゥルムは? 使わないの?」
知ってるんだ。
「大学の人が使わない方がいいって」
「そっか。家名じゃないからかな。神話の鳥だから悪い名じゃないのにね」
トリーンは前のめりになった。
「シュトローフェルドさんは知ってるんですか。お話」
その人は腕を背もたれに添わせて伸ばし、くつろいだ姿勢になった。軍人や役人にしては砕けているなと思った。
「マルゴットでいい。親しい友人はマルゴって呼ぶけど、初対面なのにそこまでなれなれしくしちゃ、ね」
いったん黙ったが、じっと返事を待っている目に気づいて口を開いた。
「ああ、あ、知ってるよ。古代神話は学生の頃に研究してた。いまは中断してるけど、落ち着いたら再開するつもり。うん、ごめん、話それたね。わたし集中が苦手で、あっちこっちに話飛ぶけど気にしないで」
呆気にとられた。こんな人に会うのは初めてだ。早口でずっとおなじ調子。
「トリストゥルムは女神トウィスティスの胸に穴を掘って巣を作ってる鳥。大きくて翼を広げると大陸を覆っちまう。で、トウィスティスの命令に従っていたずらをして回る」
「いたずら?」
「そ。トウィスティスは均衡の女神でね。えーっと、均衡はつり合いのこと。善と悪、光と闇みたいに対立する概念、おっと、概念て分かる? 分かんないか。ええっと物事の全体をとらえた意味や内容ってことかな。かえって分からなくなった? とにかくこっちとあっちって感じに分かれた考え方とかがあるときに、どっちにも偏らせないってのを主義にしてる。あっと、主義ってのはぁ、そいつがいつも持ってる考えのことな。だから善が圧倒的に勝とうとしたらトリストゥルムを差し向けていたずらして邪魔するし、逆に悪が大勢を占めようとしたら突っついてひっくり返す。そういう役目の鳥。分かるかな」
「いたずら鳥かぁ。なんでそんな名前付けてくれたのかな」
「そりゃ名付け親に聞かなきゃ。聞いた?」
トリーンはちょっと変だと思ったが、簡単に生い立ちを語った。わたしがトリストゥルムだと知ってたのにそこは抜けてるんだ。
「そっか、じゃ分からないんだね。でも悪い名じゃないことは確かだよ。トリストゥルムが出てくる話はみんな明るくて笑いが多いからね」
「あの、お話してくれませんか。小さい子みたいで変かもですけど、聞きたいんです」
「ああ、いいよ。時間はある。仕事の合間にちょっとずつ、な」




