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 早朝、庵のそばを流れるせせらぎに沿って散歩していると、変わったものを見つけた。毛の塊のようで握りこぶしくらい。赤黒かった。ひとつ見つけるといくつか転がっているのが分かった。なんの獣かと思ってはっとする。犬鬼だ。流れてきたのだろうか。オウルーク・イクゥス‐ブレードは上流を見る。秘密基地があるがもちろん見えはしない。

 その時、そちらの方から落ち葉を踏む足音がした。

「こんな朝早くから散歩ですか」

「どうだった?」

「見てきました。あまりよくありません。雨水が入ってきてます」

 近くまで来ると、ケラトゥス・ウィングはオウルークが見つけたものに気がついた。

「前に来た時に倒した奴です。もう骨だけになってますよ。流れからは引き上げといたんですが」

「それはいい。雨水か。呪術文様は使えるか」

「いまは使えます。ただかなり悪い状態ですね。なにもしなければ夏か秋の嵐でだめになるでしょう」

「思ったより脆かったな。自然の洞窟だから仕方ないか。よし、後は庵で話そう」


 庵はこぢんまりとして、この季節は快適だった。しかし、真夏や真冬には少しばかり辛抱がいるだろう、とケラトゥスは天井のむき出しの藁を見上げて思った。

 四脚の机と椅子に飾りはない、そればかりかここの家具には装飾はない。よく言えば簡素、ブレード家先代の隠居所としてはみすぼらしいが、顔には出さない。

「ここは静かでいい。いくらでも考え事ができる」

 炉でたぎっている鉄瓶を降ろし、オウルーク自ら茶を淹れてくれた。執事や召使などいないし、立とうとしたケラトゥスは押しとどめられた。

「なにをお考えになるのですか」

 茶は道具の簡素さからは思いもつかぬ上質の品だった。

「いい葉だろ。こうなってもまだ友人はいる。少なくなったがな。手間をかけて贈ってくれるのだ。ありがたいことだよ」

 湯呑みを持ったまま小さな窓を少し開けて風を通した。そのまま窓際から話す。

「なにを考えているのか、か。無論家の興隆についてだ」

「隠居されたのに?」

「隠居したからこそだよ。イクゥスとなった以上、なにをしても累は及ばん」

「なにをしてもとは? なにをなさるおつもりですか」

「聞くな。おまえはまだウィングだ。はっきり言うが、いままでご苦労だった。しかしもういい。もうここに来てはならん」

 ケラトゥスは首を振った。

「わたしは一度謹慎になった身です。家名は残してもらえましたが、もう跡は継げません。兄弟のだれかがうまくやるでしょう。しかし、だからと言って自分の人生をあきらめはしません。家の陰でひっそりと目立たぬようにしているつもりもありません。まだなにかできるのであれば、わたしは舞台を降りません」

 茶色の目が射通すかのようだった。


 オウルークは内心あきれていた。この芝居がかりはなんだろう。自分の人生をあきらめないなどと大きなことを言っておきながら再起の計画についてはなにも考えていない。考えるのはわたしまかせにするつもりだ。だからこいつはわたしの計画は……とは言わない。


 ……にも関わらず、別のわたしはうれしさに震えている。こんなに熱い味方がいる。その喜びに負けてしまいそうだ。やはり、わたしは三流なのだろう。切り捨てるべき時に切り捨てられない。


 ならば芝居を見せてやろう。この世という舞台の観客に。

 それが大向こうを唸らせるか、腐った野菜を投げつけられるか。さて、どうなることやら。


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