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 仕事の切れ目が無くなるだろう、とのマダム・マリーの言葉は正しかった。しかし、予想外だった点もあった。人や物よりも情報の運送が大部分を占めている。荷台のほとんどは郵袋だった。戦争が終わり、人々がふだんのくらしを取り戻している時、なにがどうなっているのかという正確な情報こそ最優先でほしいものになったのだった。

 それゆえ、ほかの業者も元軍人や戦闘魔法を使える魔法使いを雇おうとしているが、マダム・マリーとニキタ・エランデューアには一歩遅れを取っている。また、クロウたちの護衛運送隊を皆が真似するようになり、いつの間にか剣士三人に魔法使い一人という四人編成がこの業界での基本単位になっていた。運送業界は元軍人の再就職先として注目を集め始めていた。


 ディガンはすれ違う荷馬車と情報交換した。自分たちがこれまで来た街道の様子などを伝えている。こればかりは安全に関わるのでだれであっても隠し事などせずに教え合った。また、元軍人がほとんどなのでいきおい手信号やしきたりは軍に準じていた。

「小僧、勉強大変だな。文字とにらめっこか」

 ペリジーは片手で馬を引き、片手で小冊子を開いている。

「そう。厳しいって言われてたけど、再入隊したみたいだよ。学校は」

 マールは大笑いし、つられて二人も笑った。

「ま、たまには目を休めろよ。ほら、あの山だぞ。越えるのはあれ以来だな」

 クロウが荷馬車の後ろから指さした。山は濃い緑に覆われ、強い日差しにいきれを吐きだしているかのようにかすんで見えた。

 仕返しでもあるんじゃないかとの恐れは時が経つに連れて薄らいだ。ブレード家の関係者は謹慎してるし、こっちはエランデューア家の息のかかった業者の専属だ。まずいことはしないだろう。

 前のマールがあくびをしながら振り返って言う。

「そういや隊長、あの山、名前は?」

「知らんな。名前なんかあるのか。地面が盛り上がってるだけだし、境界以外の意味ないからだれも名付けてないだろ。たぶん」

「もうすぐ付くかもよ。学校で噂になってる。オウルーク・ブレード、隠居してあそこに引っこむんだって。オウルーク山、かな」

 ペリジーが本から目を上げずに言った。マールが返事する。

「そうか。やっぱりな。さすがに当主じゃいられないか。隠居で許してもらうんだな。で、ケラトゥス・ウィングはどうなるか知ってるか」

「知らなーい。ついていくんじゃね? 腰巾着だし」

「きびしいな。家名がある方だぞ、ちょっとは敬え」

 マールがふざけた。今日はご機嫌のようだ。皆も背中に日を浴びて笑う。


 前とおなじく、峠を越えたところで野宿となった。夕食も変わらない。粥だ。

 三人はクロウを見る。笑って背嚢から干し肉を取り出す。いつの間にかクロウが干し肉を持ってくることが験担ぎになっていた。それぞれ粥に入れたり、短剣に刺してあぶったりする。


「来てるぞ」

 食後、ディガンがトリーンからの手紙を回した。いつもの内容だった。元気にしてる。勉強がんばってる。大学では超越能力を調べられてる。

「背が伸びたってさ」

 ペリジーが言った。

「返事、こんどは小僧の番だったな。ちょっと聞いてほしいんだが……」

 マールがディガンに手紙を返しながら言う。

「……トリストゥルムって家名、分かったかって」

「また? そんなに気になる?」

「そうさ。俺はそういう性分でね。頼んだぞ」

 その後はいつもの通り明日の予定を皆で確かめ合い、それぞれ残り火のまわりに寝転がった。


 真夜中、クロウは目を覚ました。鬼? かなり弱い、いや、遠いのか。あ、もう消えた。なら大丈夫だろう。

 空は満天の星だった。


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