六
荷馬車から外した馬に乗って行くペリジーを見送る。日の昇る前、足元がなんとか見えるほどの早朝だった。結局、先行させて探りをいれると決まった。それ次第で今後の行動を決める。要は先延ばしだった。それもやむを得ない。こんなのはだれの経験にもない。ディガンですら判断に迷っている。
「あれ、マールさん、ペリジーさんは?」
トリーンが掛け布団代わりだったマントをみんなに返したが、一枚だけ残っている。
「代わりの荷馬車を借りに行ったよ。それと、遅れるって連絡も。車軸がもういけない。ここまでこられただけでも良かった」
夜のうちに車軸に軽くひびを入れ、それを応急修理したようにしてあった。
焚き火を囲んで朝にした。麦粥と干し肉の残り。ずっとおなじだが、定時の食事は軍隊以来だなとクロウは思っていた。
トリーンは子供らしい食欲で粥をすくっている。ディガンは頼まれなくてもおかわりをよそってやった。
「ありがとう。楽しいな」
その言葉に匙を持つ小さな手を見る。よそう手はごつごつしてしわだらけだ。
「こんなの初めてだから。食べる時にお話するとおいしいね」
「なら、もっとお話しよう。きのう教えてくれたけど、石の部屋で魔法を見させられた時、大人たち、なにか話してた?」
クロウは、もっと愉快な話はないのか、と睨んでいるディガンに気づいたが、かまわず続けた。判断のための情報集めだ。情に流されてはいられない。俺は生き残りたいんだ。
「よく覚えてないけど、わたしがいると魔法が強くなる? すごくなる? そういう言い方してた」
「ほかには?」
「その……、強くする人の顔をちゃんと見なきゃいけないんだって」
クロウは顎をなでた。つまり、暗くてもいけないし、遠すぎてもいけない。犬鬼との闘いを思い出す。あれは偶然が重なっていたのか。火が焚かれてなかったら……、この子がもっと遠くまで逃げてたら……。そう考えると背筋が寒くなった。
「それで、わたしが応援しなくちゃだめなの」
「応援?」
「うん、がんばれーって。声に出しても出さなくてもいいけど」
本当に危なかったんだ。意識がはっきりしてるのも超越能力発動の条件らしい。
「おい、大砲。朝っぱらからごちゃごちゃと、もういいだろ。それより気はどうだ? 油断するな」
「そんなもん感じないよ、隊長。それに情報は金とおなじでいくらあっても困らない。いまのでちょっと安心したよ」
マールがみんなの椀に湯を注ぎ、わざとのんびりした口調で聞いた。
「ちょっと安心、とは?」
「うん、この子の超越能力は王室や貴族連中が血相変えて追いかけるほどじゃあない。少なくともいま聞いた限りじゃ実戦じゃ役に立たない。ただの研究対象だろうな」
「なぜ?」
「だって顔をきちんと見て応援するのが条件ってことは強化対象は一人に限られるだろ。それに見えるほど明るくて近くにいなきゃならないし、心は応援できるくらい混乱なく落ち着いてなくっちゃならない。そんな制限だらけなのが実戦で役に立つか?」
二人はクロウの分析をじっと考え、それから湯をすすった。そんな三人をトリーンは順に見ている。マールが幅広の口を開いた。
「なら、なぜ眠らされてたんだ。それに、依頼主は隠してた。気に入らないな。ああ、謎はまったく気に入らない」




