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Uと喧嘩をしてから数日が経過していた。
ボクはPCに向かい、曲作りに専念していた。
その背後に、彼女の姿はない。
彼女曰く、ボクが外に出なければ彼女は部屋から出る事はできないという話であったため
おそらく今も彼女はこの家のどこかに身を潜めているのだろう。
「…はあ」
何かと口を挟んでは、ボクの作業の邪魔をするアンドロイドがいない為、本来ならば曲作りが進むハズなのだが…
今日は、どうにもうまく音色が浮かばない。
苛立ちを覚えるボクの耳に、チャイムの音が聞こえた。
「こんな時に誰だよ…」
宅配なら、先ほど受け取ったばかりだ。
どうせセールスか何かだろうと、居留守を決めた矢先
物凄い勢いで、ドアを叩く音が響いた。
「なんなんだよ、もう…!」
突然のことに驚いたボクは、不用心にも来客が誰か確認することもなくドアを開けてしまった。
「えっと…どちら様ですか?」
歳はボクと同じくらいだろうか?
背の高い、体格の良い男が目の前に立っていた。
彼は扉を開けるや否や、ボクの肩に掴みかかってきた。
「痛っ…何するんだよ…!?」
体格差のせいか、ボクの抵抗は意味を無しておらず、ボクの身体は勢いよく壁に叩きつけられる。
あまりに突然の出来事に理解が追いつかないボクの耳に
「葵…くん…?」
男を呼ぶ、Uの声が聞こえた。
「優…優やっと会えた」
男はブツブツと何かを話している。
その瞳は虚ろで、視点が定まっていない。
「どうしてここが分かったの?」
「家族でさえ、ワタシがここにいる事は知らないハズなのに」
「お前みたいなやつ、Uにふさわしくない」
「優…大丈夫だからな」
「今、オレがお前を助けてやるからな」
「葵くん、こんな事をしてもワタシのためにはならないんだよ?」
Uの声が聞こえていないのか、男の力はいっそう強くなる。
その手が、ボクの喉元にかけられそうになった、その時
「やめて!!」
Uの悲痛な叫び声が室内に響き渡った。
「律くんは…彼は彼なりに前を向こうとしているの」
「それを邪魔する権利はアナタにはない!!」
彼女の声を聞いた彼はハッとした表情でボクのそばを離れる。
「違っ…オレは…そんなつもりじゃ」
「ご、ごめんなさい…っ」
そのまま男は逃げるように、ボクの部屋から出て行ってしまった。