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彼女がボクの目の前に現れてから数日たったある日の事。
「律くんは、今日も部屋にいるんですか?」
今日も、Uはボクの部屋のベッドにちょこんと座っている。
「そんなのボクの勝手だろ」
「何時間もパソコンに齧りついて、疲れませんか」
「外に出て気晴らしがしたいとは思わないんですか?」
「思わないね」
「別に今の時代、外になんか出なくたって生活はできるし」
「生活はできるかもしれませんが」
「健康には悪そうですね」
「ちょっと静かにしていてくれないかな?作業に集中できないから」
ボクがあえて厳しい言葉を選んでも
感情のないアンドロイドの彼女には、たいして効果がないようで。
彼女は、呑気に足をプラプラと宙に浮かせてくつろいでいる。
(売り言葉に買い言葉のようなUとのやりとりにも、いつのまにか慣れてしまったな)
Uがボクに気を使う事は一切ない。
悪く言えば、彼女は空気を読まずに思ったことを口にする。
それは、彼女が人間のように心…すなわち心臓を持っていないからだという。
「ずっと気になっていたんですが」
「大学を休学して、律くんは一体何をしているのでしょうか?」
「何って…」
適当な説明で、話をはぐらかそうかとも考えたが
(Uの性格を考えると、かえって面倒な事になりそうだな)
ボクは彼女からの質問に正直に答える事にした。
「曲を作っているんだよ」
「曲を…ですか」
「凄いですね」
「別に凄くなんかないよ」
「ボクよりも人気のある作曲家なんていくらでもいるし」
「律くんはあまり人気がないんですか?」
「…直球だな」
「少しは気を遣ってくれよ」
「すみません」
「ワタシには心がありませんから」
「アンドロイドなら、そのくらいの機能搭載しておいてくれよ」
「引きこもりへの気遣い機能ですね」
「善処します」
「しかし…そうですか」
「律くんは伸び悩んでいるのですね」