表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーロン  作者: ラー
五章 下

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/255

八話

アーロンの渾身の一撃によって初めてニィスへ攻撃が通る。体の前に発生した黒い膜は罅割れ、遂にはガラスのように砕く。このまま刃がニィスの身体を切り裂くかと思われたがそこは敵も古からの存在、驚愕に染めた顔を一瞬で元の微笑に戻すと足元から爆発音を出し、体をクルクルと回して射程圏からあっという間に抜け出してしまう。そのまま曲芸師のように跳び回ると一足飛びに宙へと浮遊してしまった。アーロンとの距離がしっかり空いたことでエンリータが追撃を放ちこそしたものの高い速度に掠りもせず、浮遊する頃には素手で掴み取れてしまうほどの余裕が彼には有った。

「フフフ、なかなかやるじゃないか」

そう言って笑うニィスの表情はいつも通りであるがその声色は少しばかり浮足立ったように思える。そして彼が見下ろした先、彼の腹部の布が切れていた。しかし、怪我らしきものは見えない辺り、完全に避けられてしまったとアーロンは判断するがその事はおくびにも出さずにゆったりと、此方も余裕ありげに肩にグレートソードを掛けた。

「ゾンビとはいえ流石は龍殺し、この程度は超えてくるよね。うん、それじゃもっと力を出そう」

そう言うとニィスは胸の前でパン、と音を立てて手を合わせる。それと同時に先程までアーロンを苦しめていた剣が消える。

「さっきまではいわば自己紹介、そしてこれからが前奏」

消えた剣の代わり、そう言うにはあんまりな武器がニィスの背後に現れる。それは彼の身の丈よりも大きく幅広な極大剣、とても人が振る事を想定していない見た目だった。極大剣は6振りあり、赤、青、緑、茶、白、黒と全て色が違う。それぞれが属性を司っているのか赤ならば剣自体が真っ赤に燃え、火の粉が舞っている。その熱量はそれなりに離れているにも関わらず熱気がこちらまで届いてしまいそうだ。他の剣も同様で青ならば水流が逆巻く様にして絡み付き、緑なら嵐が剣そのものを包み、茶は周囲に小型の岩石が浮遊している。黒と白は4属性に反して穏やかそうに見えるが闇を湛えた黒剣は周囲の景色が削られるようにして歪み、白は極光を泉のように溢れさせている。

アーロンに詳しい事は分からない、しかし今出て来たその全てがこちらを即死させかねない圧力を放っている事だけが分かる。勿論、大きさもさることながら纏っている魔力の質と密度が正気では無い。それが先程の剣のように動くと言うのならば現時点で活路が見出せそうにない。それこそ先までの6倍では無く60倍の戦力向上と見ても違和感が無いだろう。

(これが・・・古代の怪物!)

おもわず呆けてしまうのも無理ない事だ。むしろこれほどまでの存在が未だに広く知られていない事が信じられなかった。

「さぁ行くよ、アーロン。君の力を見せてよ!」

その言葉と共にうねりを上げて6振りの極大剣が部屋に散らばり、アーロンを目掛けて暴れ出す。

「う、ウォォォォォォォ!!」

思わず呆けてしまった自身を叱りつけたい気持ちを胸の奥底に、いや、むしろその怒りすらも原動力とするようにアーロンは意識を保てる限界まで加護の力を引き出し、グレートソードを構える。

一瞬で活性化された加護は暴走にも似た形で魔力を全身に回し、噴き出させる。相棒のグレートソードは赤黒く染まり、アーロンの全身も同色の魔力が鎧のようにして纏わりつく。最後に左目が太陽を反転させたかのような漆黒の瞳孔と血よりも濃い深紅の虹彩に変わり、そして目の周りを覆う様にして魔力の炎が噴き出した。

(これで対処できるかは分からんがやるしかない!エンリータは無事だと良いが・・・)

既に彼女では割り込めない領域に完全に入ってしまった。こうなっては戦況を見極めて安全圏、そんなものがあるかは分からないが逃げていてくれることを祈る他無かった。


そうして構えたアーロンに最速で真っ直ぐに突っ込んできたのは緑、嵐を湛えた極大剣だ。周囲を切り刻み、震わせ、砕きながら迫るその姿は小型の嵐そのものだった。

(正面からは打ち合うのは愚策か)

どう見ても重量差があり、どれほどの威力を抱えているか判断が付かない。おまけにまだ5振りも残っているのだ、受けると言う選択は取れない。アーロンが選択したのは前進、剣の下を潜り抜ける事だった。

(こちらに向かってくるそれぞれの軌道、恐らくさっきの剣よりも小回りは効かなさそうだ)

放たれた極大剣たちはその速度と圧力に目を惹かれがちだがよく見れば先程の剣と比べれば明らかに軌道が大振りだ。また、方向転換も少しばかり時間が掛かっている様に見える。とはいえ剣の攻撃範囲が広く、速度も同等なために普通に考えるならばそれらは大したデメリットには成りえないのだろう。しかし、そのお蔭でアーロンはギリギリを避けるという選択肢が取れるようになった。勿論、加護による魔力の鎧があることもその選択を後押しした。背中の空間を嵐が削りながら過ぎ去っていく。そして魔力の鎧と念のために間に挟んだグレートソードはしっかりと極大剣が纏う魔力を遮断した。

(次は・・・右か)

次に到来したのは赤の極大剣、まるで鍛冶場から直接持ちだしたのかと思うほどにその刀身から火を撒き散らしながら姿勢を低くしたアーロンを刈り取ろうと横薙ぎに迫る。

(少し遅れて左、正面奥が茶、黒と白は様子見か・・・?)

迫りくる灼熱の刀身を横目に他の剣の位置取りも把握しておく。

(兎に角、囲まれるわけにはいかない・・・強行突破してニィスを叩く!)

アーロンは地面を蹴り上げて空中と言う死地に跳びだす。まだ不確定要素が多い以上やはり受け止められない。おまけに最初の嵐の気流を受けているせいか迫るごとにその火力と熱量が増している。これでは受け止めても火によるダメージを受けたうえに万が一、足が止まってしまっては厳しい事になってしまう。それならば魔力で無理やり空中を飛んでしまった方が良いだろうと判断した。

足元を獄炎が過ぎ去っていく。同時に生まれた熱を背に受けて更に跳躍していく。狙いは当然、此方を見ながら嗤っているニィスだ。

当然、そのまま抜けて行けるはずがない。先程も確認したように今度は青色の極大剣から意志を持ったかのように逆巻く水流が幾重にもアーロンを目掛けて来る。1本1本が人間の胴体程度の直径で速度は本体よりも鋭い。

(避けられないか・・・なら!)

此処でアーロンは最初の接触を決める。その瞬間にはもうグレートソードを引き、纏わせた魔力を攻撃の通る場所へ流星のようにして放つ。普段ならばここまで繊細な事は難しく、手間であることからしない。しかし、加護をしっかりと引っ張り出した今であればそれこそ手に取る様に魔力の操作が出来る。加えて前回、龍と奮戦したこともその一因だろう。階位は同じように4、しかし熟練度は高く、暴走では無い形で成ったことでリスクも以前と比べれば格段に低い。

アーロンの放った流星と激流がぶつかり拮抗する。そしてその隙にアーロンは更に奥へと飛び去って行く。

(次は茶、土か)

茶の極大剣はアーロンを待ち構えるようにして空中で不動の姿勢をとっている。それこそ騎士が胸の前で天に剣先を向けているかのような形だ。その剣の周りを紫電で繋がれたこぶし大の岩石が舞っている。

(どう来る?)

今までの3振りは分かりやすかった。最初の2振りはあくまで剣として来ることが見て取れたし、青も纏っている物による遠距離攻撃だった。しかし土を司る剣がなにをするのか今一アーロンには思いつかなかった。

グングンと正面から近づく両者、そして最初に動いたのはやはり剣だ。最初に剣が震えて周囲に散らばっていた岩石たちへとその振動が伝わり紫電がその輝きを増した。その時点でアーロンはこの剣を先の青と同じ遠距離攻撃と判断、向かい討てるように体を覆う魔力の鎧とグレートソードへと魔力を回す。

極大剣の震えは次第に強まり、アーロンがもう少しで射程圏、という所まで飛んできた瞬間に周囲を舞っていたこぶし大の岩石が肥大化してアーロンの身長よりも直径の大きい岩石に変わり、岩石と剣の間を繋ぐようにして紫電が走る。そしてアーロンは何もしていないのに自分の身体が極大剣の方に引き寄せられるような感覚が全身を覆う。

(不味い!)

そう思い、身を翻して進行方向を必死に変えようとするが引きつける力が強いのか上手くいかない。そして遂に一番の振動と魔力の波動が放たれた瞬間、周囲を舞っていた岩石たちが極大剣を軸にアーロンを巻き込みながら回転を始める。

逃げられない、そう判断せざるを得なくなったアーロンはすぐさま回転方向に抗う形でグレートソードを盾に最初の岩石を受ける。

ドガン、とても岩石とぶつかったとは思えないほどの、それこそ鎧もあったにもかかわらず凄まじい衝撃が全身を打つ。正面から受けてしまったこともあるがそれでも過去でも中々に類を見ない威力だ。おまけにこれが初速の威力である事がアーロンの精神を焦らせる。

岩石は暫し拮抗したかと思えば削る様にして無理やり回転の流に戻り、それを埋めるようにして次々とアーロンを目掛けて、いやむしろ範囲内全てを磨り潰すかのようにして荒れ狂う。

(グッ、不味い、早く出なければ・・・!)

アーロンは必死に岩石による乱打を受けながら突破口を探す。しかし、異様なほどに速度を増す岩石たちに手が出せない。

(せめてこの引き寄せる力が無ければ!)

岩石が当たる衝撃で何とか範囲外に跳べないか試行錯誤するが出ようとすればするほど引き寄せられてしまう。そして苦戦している間に視界の端に他の極大剣たちがこちらに攻撃を加えようとしているのが映る。特に嵐を纏った緑の極大剣はこの岩石嵐に混ざろうとすらしているようだ。

「ウォォォォォォォォオォォォ!!!」

ただでさえ手一杯な状況で同等の物体が3振り、今は静観しているが白黒の2振りも参戦しようものなら間違いなくミンチになってしまう。流石に暴神の加護もミンチになったアーロンを助けられはしないだろう。一か八か、アーロンは邪龍マルヴァース戦でもしたように寿命を削り、無理やり階位を1つ、咆哮と共に上げた。

何か大切なものが変換されていく感覚を覚えながら増大された力でアーロンは自身も身体を旋回させ、力の限りグレートソードを振る。同時に纏わせた魔力を放出してアーロン自身が嵐となってこの空間を削り、喰らい、破壊して脱出せんとする。

行先は決められなかったが命を振り絞った乾坤の一擲によって岩石を砕きながら確かに攻撃の範囲から脱出する。

「ガァァァァァァ!!」

コントロールしきれない魔力の奔流はアーロンの身体をも蝕むように暴れ狂い、その痛みにアーロンは苦悶の声をあげる。そして抜け出し、宙へと放たれたアーロンを追うようにして赤、緑、青の極大剣が其々の形で追撃をかけて来る。また、アーロンが飛び出した瞬間に旋回が弱まった茶の極大剣も残った岩石を飛ばして他の3振りに続く。

アーロンはほぼ同時に迫る緑と赤、そして幾重もの激流、最後に遅れて来る岩石に対して今の自分が出せる最大値の魔力の刃を放つ。既に周りを気にする余裕は無かった。

「消し飛べ!!」

放たれたのは意外にも大きさはそこまでもない斬撃だった。しかし、その密度は今までの比にならず、どこまでも深い黒とそれを茨のように覆う赤の線が絡んでいる。

そして両者は凄まじい爆発音と衝撃を発生させながらぶつかったのだった。

良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ