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アーロン  作者: ラー
五章 下

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五話

アーロン達が扉を開けて外に出るとそこは意外にも廊下の様な場所では無く、また小さな空間が広がっていた。中央には遺跡などでよく見かけるような転移装置らしきものがはめ込まれており、その前には何かの装置のようにも見える石造りの棒らしきものが建てられている。棒の表面には様々な彩のボタンのような物がはめ込まれているが文字の様なものは見当たらず、一番大きい赤色の部分が薄く光っているようにも見える。天井からは白い光が降り注ぎ、太陽ともまた違った独特の光源があるようだ。風も上の方から流れているようだが窓の様なものは見当たらない。それ以外には特にこれと言ったものは無く、どうやらここは廊下ではないが別の部屋に繋がる転移室らしいことが想像できる。

「これは・・・行くしかないか」

奥に入り、再び部屋を軽く見て回るが目ぼしいものは見当たらない。只、壁の造りがどちらかというと鍾乳洞の壁と良く似ている事しか分からない。尤も自然に出来た訳では無く、しっかりと人の手が入っているのはまちがいなさそうだ。

「どうする?って言っても行くしかないよね」

同じように周囲を見たエンリータが問いかけて来る。出来れば転移では無く、自分の足で歩き回る方が見知らぬ場所では安全性があるのだが無いものは仕方がない。

「あぁ、1本道だからな。この装置の意味が分かれば違うかもしれないが下手に触って余計な事になっても面倒だ。まずはこのままにする。前の遺跡と同じで俺が先に行く、そうだな・・・お前は5つ数えてからでいい」

そう言うとエンリータは素直にうなずき、弓矢をいつでも放てるようにだけ構え始める。

(さて、どうなるか)

それを見ながらアーロンも背のグレートソードを構えてから覚悟を決めて転移装置に足を掛けた。


転移直後、地に足が着く感覚と共にアーロンはグレートソード盾にするようにして構えながら軽く横に跳ぶ。跳んだ直後、視界が徐々に戻り始め周囲を直ぐに確認するが元々居た場所と同じような、いやほぼ寸分変わらない部屋が視界に映る。敵の様なものも確認できず、アーロンは直ぐに姿勢を制御して着地する。それほど広くはないせいか左肩が軽く壁にぶつかってしまったが大きな音は立てずにすんだ。

それから左程時間を置かずに光が転移装置の上部で輝き、同じようにエンリータが現れて矢を軽く引いた状態になるが直ぐに状況を確認してアーロンを見つけると息を吐き、腕を下す。

「良かった、敵がいなくて」

「あぁ、もしかしたら転移室には居ないのかもな。そもそも遺産というぐらいなのだからなにかの居住区だったかもしれん」

「なるほどねぇ・・・ま、魔物に壊されるのもあれだろうし、そう言った処置位はされているのかもね」

「だが何があるかは分からん、兎に角今後も転移は俺が先にいこう」

そう言うとアーロンは扉の方へと足を向ける。


扉の先に出ると今度は広いホールのようになっている場所だった。中央には大きなガラスだろうか?兎に角大きく薄い緑色で丸い板がはめ込まれており、それが床の半分以上を埋めている。また薄く発光しており、そのお蔭で部家全体がうっすらと床の色に染め上げられてどこか幻想的な森の夜を思わせるようだ。周囲にはそれを囲むようにいくつかの転移装置が置かれ、その前にはやはり石造りの棒が建てられている。しかし、そのうちの大半は棒に嵌めこまれたボタンの様なものが発光しておらず、その足元の装置もどこか死んでいるようにも見える。合計で10本はありそうだが使えそうなのはそのうちの3本と言った所だろう。

アーロン達が入って来た場所から見て左側にはトンネルのようになった通路が在り、部屋の中の物がそれを正面にするようにして立っていることから、どうやらアーロン達がいた場所は少しばかり主要なところから外れたところだったらしい。それであっても街で言えば大通りに一気に来られたのは僥倖と言えるかもしれない。

「また転移室・・・なのかな?」

アーロンの背後から出て来たエンリータが周囲を見渡しながら呟く。

「そのようだな・・・一旦、探索だ。もし、最近らしい人の跡があれば教えてくれ」

そう言うとアーロンは足元見ながら部屋を見て回る。ここも綺麗に整形された部屋で床は石で出来ているようだが繋目の様なものは見えない。しかし長年使われていないらしく埃の様な物が溜まっている。であればもし、最近誰かが使ったのならば誇りに足跡が残っていたり、道があるかもしれない。また、それで魔物の類か人かの判別が出来れば今後、優位に働くだろうと言う算段があった。それにニィスが此処にいるのならば連れ去られた巫女の痕跡があっても可笑しくはない。

(ま、簡単に痕跡が出て来るとは思わないが)

ニィスであれば転移の類はお手の物のはずだ。であればなんの痕跡も残っていない可能性も十分あるが探さない理由にはならない。なにせここは未開の場所でなんの情報もありはしないのだから。それに外と違ってアーロンも戦闘で全力を出しにくい場所だ。慎重に行くのは当然と言えるだろう。


それから2人でいくらか見回ってみたが分かった事は少なくともここ数ヶ月なんて単位では表せない程にここは使われていないという事だった。そうなればひょっとしたら数百年という単位で使われていない可能性すら出て来た。兎に角、アーロン達が作った足跡以外に痕跡はない。また、傷の様なものも特になく、あったとしても風化したに近い跡しか見当たらない。

「なにもないか・・・いや、何も無いのが分かっただけマシか」

部屋の中央、薄く光っているガラスらしき板の上で腕を組み、首を傾げる。どうやらニィスは此処を利用していないらしい。であればこの施設のどこか遠くまで行く必要がある、という事だ。

「う~ん、どうする?」

同じように考え込んでいたエンリータが困ったような声を出す。それなりに時間を使って欲しい成果が無かったのだから表情も渋くなってしまう。

「・・・仕方ない、一度あっちのトンネルの先に行こう。転移はどこに行くか分からない。なら足でいける範囲から見る方が良いだろう。それに今の時間が分からないがもう夜になっていても可笑しくない」

朝から山を駆け上がり、ここに飛ばされてから碌に休めても居ない。それに少しずつ空腹と沸いてくる疲労感が夜を告げる。全く見知らぬ地と状況で寝泊まりをしたくはないが、いざという時に動けない方が不味い。ある意味では敵の本拠地だがそれなりに時間が経ってもアクションが無い事からもしかしたら少しだけなら猶予がある様にも思えた。

「あぁ、忘れてたけど言われてみればそうだね・・・ふわぁ・・・」

思い出したかのようにエンリータが欠伸を浮かべる。それを見たアーロンは少しばかり急いだ方が良いと判断した。

「よし、一旦足で見れる場所が見終わったら今日は休む。行くぞ」

そう言うとアーロンはトンネルの方へと速足で向かう。


薄暗くも足元に等間隔で置かれた明かりのお蔭で視界の確保には困らない。また、進む先からはここに来てから一番の明かりが漏れている。もっとも生活音の様なものは聴こえない為に誰かがいる、という事もなさそうだったがアーロン達は警戒を最大にして歩を進めていく。

そしてトンネルを抜けた先、其処は先程いた空間にも似た場所だった。ただ内装は今までと違い生活感に溢れている。天井からは太陽光にも似た黄色がかった明かりが優しく空間を照らす。周囲には帝国の市場のように物が溢れている。尤も食材らしき姿は崩れ去り、既に腐敗すら通り過ぎた姿をしている。藁や何かしらの道具たちも誇りを被り、嘗てあっただろう色を失っている。

「んん、なんか違う雰囲気だね?」

トットット、と部屋の中央に駆けて行ったエンリータが部屋をぐるりと眺めて感想を溢す。

「生活圏・・・いや、帝国で言えばここが市場、って事か?」

アーロンも周りを見ながら推測を重ねる。先程いた場所が言わば門でここが市場、であればここからどこかに繋がっている可能性が高い。

「どうする?結構行先あるみたいだけど?」

この部屋から繋がる道が4つ。それぞれ同じようにトンネルの様な道が繋がっている。

(どうしたもんか・・・全部を調べるのは難しいか?)

先程足で行ける場所は行こうと思っていたが行先が多すぎてこれでは休めなくなるか疲れで判断を誤る可能性もある。であれば絞った方が良いかとアーロンは考える。

「そうだな、兎に角動くか。左から見ていく。只、思ったよりも時間が掛かるなら途中で止める」

「了解!よっし、頑張っていこう!」

そうして2人は左のトンネルの先に向かう。


左のトンネルの先、其処はとても砂漠の底にあるとは思えない景色が広がっていた。

「なにこれ・・・すご~い!!」

そう言って子供のようにエンリータははしゃぐ。それも仕方ないだろう、目の前には一面の小麦畑が果てしなく続いている。左右に目を飛ばせばそれだけでなく様々な果物や野菜だろうか兎に角畑が広がっている。空からは外と何一つ変わらない、そう思える程に暖かな光が降り注ぐ。頬を撫でる風も気持ちが良い。

「どうなっている・・・?」

ここまで見て来てここが一切使われていないのが分かる。それにもかかわらずこれほどの食の宝庫が広がっていることに驚愕を隠せない。

「あ、水も降って来た!」

そう叫ぶエンリータの指先を見れば空中から水が降り注ぐ。

「凄まじいな・・・」

人が一切手を入れていないにも関わらずにかなりの長い時間勝手に資源が生み出されているのはもはや恐怖を覚える。もはやここのシステムはアーロンに理解できる範囲を越えてしまったらしい。

それから暫く周囲を見て回ってみたがここは結局の所ここは食糧庫の様な役目を果たしているだけらしいことが分かった。

「うーん、特に可笑しい所はないかな?まぁ、ここ自体が可笑しいといえばそうなんだけど」

そう言って笑う彼女の言葉にアーロンも素直に首を頷くほかない。

「しかし、思ったよりも時間が掛かったな・・・これだともう1つが限界か」

難しい顔をアーロンは浮かべ、エンリータも思い出したかのように疲れた顔を浮かべる。

「仕方ない、さっさと行って今日の塒を探そう」

安全を確保できない土地でのストレスも少なからず感じながらアーロン達は来た道を戻る。


広間に戻って来たアーロン達は次に食糧庫の隣のトンネルを通る。こちらは先程の道とは対照的にあまり風も明かりも感じられない。

暫く進んでいくと行き止まり、壁に嵌めこんだかのような扉が1つ所在無さげにしている。扉は風化こそしているがドアノブを優しく引いてやれば擦れるような音を出しながら開く。それと同時に溜まっていただろう埃が少しばかり廊下側に舞う。

「すこし暗いか?いや、ここもか・・・」

開けた先は薄暗く、奥まで見通すことは出来なかったが1歩踏み入れてみれば天井から十分な明かりが点き、室内を照らす。それと同時にどこからともなく微風が吹き始めて部屋の埃が吸い込まれるようにどこかへと消えていく。

「居間・・・なのかな?」

部屋の中央まで行ったエンリータが周囲を見渡しながら呟く。

「どちらかと言えば休憩所か詰所みたいだな・・・こっちは、寝る場所もあるな」

居間と言うにはあまりに武骨、もしくは生活感が無い。先程の市場の様な所から直通な事と寝るだけのスペースが4つ連なった個室、共同の竈に奥はトイレだろうか、兎に角、自室と見るよりかは休憩所の様な場所として使われていたようにも見える。

「ねぇ、今日はもうここでいいんじゃない?」

一通り眺めて来たエンリータがそう溢す。実際、今のアーロン達にとっては悪くない設備が揃った場所だ。交代で眠れば多少は安全を確保できるし、入り口も1つ。ニィスの様な存在でなければ奇襲を受けにくいのも利点だろう。

「そうだな・・・流石に疲れも溜まってきた。よし、一度捜索して何も無ければここで泊まる」

アーロンがそう言うとエンリータは勢いよく腕を振り上げ、気合を入れた様な声を出すと奥から調査を始めに行った。

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