二十四話
多少の問題こそあったものの無事に退けきったアーロン達は霊峰カエルムを下山し、借りた物を返すついでに遺跡での事を報告する。勿論、神器の事や親衛隊の事は話さなかったが向こうにとっても意味の分からない物が無くなったと言う結果があれば良いらしく、後日に再び調査隊が送られる事にはなったが感謝を告げられた。
これでアーロン達は合計で4つの神器を確保し終えた事になる。戦力の増強等には使用できないがエーベルト陣営との交渉等には利用できるかもしれない。
(とはいえ、どれほどの意味があるかは分からないが)
アーロン達の行動はいってみれば子供の癇癪に近いだろう。まだ知りえぬことではあるが大陸では大きな戦が既に始まり、いくつも終わった。結局のところ多くの血は既に流れ、今更易々と止めることは出来ない。加えて、権力等を持たないアーロン達に出来ることは本当に少なく、エーベルトはその実力からこちらを完全無視も制圧も出来なくはないだろう。それゆえに大人と子供位の差がある、というのが現実だった。
(それでも、決めたならば今は行くしかあるまい)
心の中で独り言を漏らす。実際、アーロン達が神器を集められれば今後の交渉は勿論だがそれ以上に闇の陣営に渡りにくくなると言うのは大きなメリットだ。であればやはり、この行動はけして無駄ではないだろう。
現在、アーロン達はエグレイジ大聖堂からエテルニタス帝国へと南下していた。幸い、道中は今の所可笑しなことは何も無く、大陸が騒乱に呑まれて行っていると思えないほどに穏やかだ。理由としては北側には大きな国が無く、それこそ一番大きいのが大聖堂と言っても過言ではないだけに小国だらけで帝国にとっては敵足りえない。かといって大聖堂は戦争に参戦するような団体ではないし、彼らの宗教は帝国にとっても完全に無視するとは言い切れないほどに影響力がある故にひとまず置いてあるのだろう。そのお蔭でこちら側には帝国に兵士の影が無く、荒れ地も出来てはいない。
「そう言えば今は情勢ってどうなってるんだろうね?ヘンドリーナさんも元気だと良いけど」
前をのんびり歩くエンリータが少しだけ心配そうにぼやく。
「さぁな、とはいえカロールであれだからな・・・もう大きな戦は起きたかもしれん」
放置されているが故に大聖堂の方に情報は流れてきていない。そして、流れて来るにしても人づてだと大陸の反対に情報が届く頃にはすべてが終わっていることも珍しくはない。なにせ大聖堂からアウローラに行くならば最短の山越えでも40日前後、迂回するならば60日以上だ。それから行動を開始するなら単純に倍以上の時間が経過してしまう。そうなれば情報の価値は低く、精度は当てにならない。
「そうだよねぇ・・・ま、本気で止められるとは思わないけどさ」
そういう彼女の顔は少しだけ暗い。もとより娯楽よりの楽しい事が好きな種族なだけに戦乱と言うのは本能的に嫌な感じがしてしまうのだろう。勿論、彼女自身の性質、という面もあるだろうが。
「それでも、俺たちは俺たちの道を、やるべきことを成すだけだ。そういう意味では俺たちは最善を尽くせている。気にするな、とは言わないが胸を張ってろ」
慰めてやるほど弱い人間では無い。そう思うアーロンは助言をするに留める。何より、己の心持など、結局自身でどうにかすべきことだ。余計なことはしない。
「そうだね・・・うん、ワタシが萎びてても何にもならないしね!」
そう言って直ぐに頭を彼女は切り替えた。やはり強い、そう改めて思う。
それから2人は順調に帝国領へと侵入し、やはりこれまた順調に帝国の城下町に繋がる門までたどり着く。入口付近は平時よりも慌ただしく、検問の数も増えてはいるがその流れに淀みはない。これでは密偵の類は入り放題だろうと思わなくはないがそれ以上にそんなものが来ても問題はない、そう言っているようにも思えた。
アーロン達はそのまま列に並び、平時と同じように検問を突破する。正直、ギルドカードを見せた瞬間に何かしらのアクションを起こされるかと思ったが何も無く、素通り同然だった。これには思わずアーロンも少しばかり身構えていただけに怪訝な顔をしてしまった。いや、以前もエーベルトなら気にもしないだろうとは思ったがそれでもその配下が絡みには来るかもしれないとは思っていただけに完全スルーは少しばかり予想外だ。エンリータ目をパチクリとさせていた。尤も大きなリアクションはしなかったが。
「なんか、本当に何も無いとは思わなかったね」
「あぁ、だが警戒はなくすなよ、見張られているかもしれないからな」
そう言いながら顔は動かさず周囲を探る。もっとも人が多すぎる上、戦時中なのは事実、平時より警戒されていることもあってそれが自分たちを見ているかはよく分からない。しかし、特に必要以上の警戒が来ているようには思えなかった。
「・・・兎に角一度、教会に行く」
違和感が無い程度に身を屈めて行先を告げる。万が一見張られているならば宿屋から行くのは良くないし、結果分かるのだとしても先んじて目的地が伝わってしまうのは好ましくない。そう言う意味ではエンリータとの身長差があるのは同じ背丈よりも内緒話をしている感を出さずに小声で話せるのはメリットだった。
「うん、元気だと良いなぁ」
それに対してエンリータはいたって普通の声量と声色で話す。しかし、肝心の部分は出さない。こうすればよりばれにくくなる。
それから2人は街並みを眺めながら教会の方へとどんどん足を向けていく。しかし、平時と違って教会への道のりを行く人の数が多い。普段ならば稀といった感じだが今はそれなりの数だ。
「なんか人通りが多いね?」
街中よりも見晴らしが良くなったことと、いかにもな人間がいない事が確認できたことで少しだけ雰囲気が緩む。そしてエンリータも人が多い事が気になったようだ。
「そうだな・・・恐らく、墓参りだろう」
道行く人々の多くが花を持っている事と快晴の空とは打って変わったような沈痛な顔を浮かべていることから墓参りだろうと当たりが付く。この先は教会に行かないのであれば後は墓所位のものだ。戦争があったのだろうから仕方がない事ではある。それに人の死には慣れていることもあってそこまで心が揺さぶられることはない。それはこの大陸に住む者なら大抵はそんなものである。勿論、身内なら悲しみはするが。
「あぁ、そっか。でもそれにしても多くない?」
そう言ってエンリータは首を傾げる。
この墓所は城下町に住む住民の墓所である。そして戦争に行くのは大半が貴族とその領地の人、そして奴隷だ。そしてこの城下町は住むのはスラムでないならばそれなりに裕福な人が多く、戦争に行かない家の人間が多い。特に城下町は徴兵の類をしていない、ともすれば確かに多いように思う。
(まさかと思うが何処かと戦って負けたか?それなら理解できるが)
少ないと言っても此処に根差す冒険者、志願した者、元々兵士が職業の者は戦地へと行くのだからここに来る人が増えるのはおかしくないが確かにそれにしても多い。それこそ負けて逃げ帰って来た時の様だとアーロンは思う。
「まぁ、ヘンドリーナに聞けば分かるだろう」
そう言ってアーロン達は人波を離れ、教会の方へと足を向けた。
「ふむ、よく来たな」
扉を開けて奥に入れば早速と言った雰囲気でヘンドリーナが奥から現れる。パッと見は以前見た時と変化はなく、心配するだけ無駄だったと思うようにも見える。しかし、よく見れば目元の辺りの化粧が濃く見える。とはいえ、隠しているのならばそれを指摘するのも野暮だろうとアーロンは指摘しない。
「あぁ、そっちも無事のようだな」
そう言いながらアーロン達は一旦荷物を下す。ここまで歩き通しだったからか荷物や靴の泥で少しばかり床回りが汚れてしまった。しかし、それをヘンドリーナが気にする様子はない。
「そちらこそ、無事にやり遂げたようだな」
そう言って口角を緩めた。
「良く分かったな。取りあえずこれが物だ」
そう言って袋から神器の入った箱を取り出して蓋を開ける。
「うむ、確かに頼んだものだな。感謝する」
そう言ってヘンドリーナは頭を下げる。
「いや、依頼を受けたのは俺たちだ、そこまでされる事じゃない。それより聞きたい事がある」
「ふむ、世界情勢か」
アーロンが切りだせばヘンドリーナは直ぐにこちらの意図を理解して返してくれる。
そうしてアーロンはカロールへと旅立った日から今日までの事で起こった世界での情勢をヘンドリーナに事細かく聞く。
「そうか、思ったよりも大きく動いてるな・・・」
アーロンは顎に手をやりながら渋い顔を浮かべる。つまるところ南側、アウローラとリーベタース連邦以外はほぼ制圧され、帝国側は将軍が1人敗走。やはり自分たち程度の抵抗で戦争の拡大は止められない、そう改めて自覚する。
「まぁそちらは汝らが気にすることでは無い。汝らは政治には関わりのない人間だからな。それに最高の仕事をすでにしている。そこらは私の力不足だ」
そう言って腰に手をやりながらヘンドリーナはため息をつく。彼女はそう言うが彼女自身も外部ではある上に政変もあったのだ、止められなくても無理はないだろう。
「兎に角、暫く帝都は南の戦の事で暫く騒がしくなるだろう。汝らの事はあまり注目する余裕はないはずだ。それよりも汝らは例のニィスと言う者について注意を払って欲しい」
ニィス、度々アーロンの前や表舞台に現れては掻き乱す古代からの厄介者、予測できない分こちらの方が厄介なのは確かだろう。
「分かった。こっちでも何かあればそちらに伝えよう。そうだ、俺たちは普通に宿に泊まって問題ないか?」
長く話しをしていただけに日が暮れ始めている。早々に決めなければ疲れた体を街の路上で休める羽目になってしまう。
「いや、念を入れて私が用意した家に向かってくれ。そこなら寝泊りについては問題ないはずだ。食事だけは外になるがな」
「いや、安心して眠れるだけマシだ。なら、明日またここに来る。そこで方針を改めて聞こう」
そう言ってアーロンは荷物を担ぎ、頷くヘンドリーナに背を向ける。
「ご苦労だった、ゆっくり休んでくれ」
その言葉を最後にアーロン達は教会を出て行くのだった。
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