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アーロン  作者: ラー
五章 上

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十八話

風邪引きました

全ての準備を終えて2人は改めて遺跡の前に立つ。入口は変わらず真っ暗で先を見通すことが出来ない。とはいえここも他の遺跡同様内部の明るさがある程度保たれているらしく明かりの類を用意する必要はない。

「行くぞ」

アーロンはそう言うとファルシオンを抜き、先を進む。そうして入った遺跡の内部は非常に冷たい、という表現がぴったりなほどに冷え冷えした雰囲気が漂う。温度で言えば雪山の中にあるはずなのに我慢すれば半袖でも少しの間であれば活動に支障が無い程だ。しかし、きっちりとそろえられた石を積み重ねて出来たであろう壁に床はどこか碧く、生活感の無い見た目は心細さを生む。間取りは円形のものを4等分したうちの一片の様な形で更に中央には2つの転移装置が床に取り付けられている。

「何もいないか・・・」

念の為に抜いていたファルシオンを一旦戻し、アーロンは周囲を触りながら観察する。空間の広さは左程広くなく、少し大きめの部屋程度、それこそ全力で駆けたのならば10歩も必要ないだろう。その上で改めて頭の中で見せてもらった地図を思い浮かべる。

(これと同様の部屋が後3つ、それと繋がる大広間が3つ・・・単純なのは助かるが魔物の数次第では広さがネックか)

今までそれなりに広い所が主戦場で2人のコンビネーションも基本は広い場所が基本だ。一応、経験が無いわけでは無いがそれでもある程度の広さがある方が良さが活きる組み合わせだけに戦い方を改めて考える必要があるのは確かだろう。

「うん・・・特におかしなところは無さそう。そっちはどう?」

一通り見て回って来たエンリータが近寄ってくる。

「あぁ、此方も特には見当たらない。流石に空気までは分からんからな」

そう言ってアーロンも所感をもらす。流石に普段との違い、なんていうものまでは分からない。そもそも遺跡の出入り自体が少ないのだ、地図があるだけマシと言った所だろう。

「それはそうだよね・・・どうする、取りあえず進むの?」

「そうだな、予定通り、まずは2階部分の探索を済まそう」

そう言ってアーロンはグレートソードを引きぬいて転移装置の方へと向かう。情報によれば向かって直ぐに魔物が待機している、それもそれなりの強さを持った魔物たちだ、負けることは考えられないが油断は出来ない。

「いいな、俺が行ってから5、数えてから来い」

「うん、弓で良いかな?」

「あぁ、取りあえずこじ開けてやる」

そう言ってアーロンは転移装置に足を掛けた。


視界が光に包まれ一瞬の浮遊感に包まれた後、足が地面に着いた感触がしたと共にアーロンに嫌な予感が全身を駆け抜け、すぐさまグレートソードを盾にする。直後、硬いものがぶつかる音と手に伝わる衝撃が攻撃されたことを伝えて来る。

(そこまで重くはない、押してみるか)

既に3つは過ぎているだろう。そのままここにいてはエンリータの邪魔にもなってしまう。アーロンは押され続けているグレートソードを撥ね退けて横一閃、魔力を纏わせた刃を打ち出す。それと同時に転移装置から離れておく。そしてその頃には視界も戻り、改めて周囲を見渡す。

(地図通り、形は一緒。扉は別室に繋がるはず・・・敵は)

周りには馬の様な体に筋骨隆々の男性の身体、羊の様な巻き角がこめかみのあたりに付いた頭、手にはハルバードを握りしめた魔物の姿が3体いて、少しだけ遠巻きにこちらを見ている。前方には胴体を両断され、黒煙に成りかけている同種が2体転がっている。

(ゴエティアダイモンか・・・お似合いの場所と言えばお似合いか)

ゴエティアダイモン、ランクで言えば5程度はある悪魔系の魔物だ。馬の様な4足は高い機動力をもたらし、手に持ったハルバードは巧みでけして力押しだけでは無い。また魔法も使い、威力を重視した物よりかは何かしらの状態異常を引き起こすものが多い。

アーロンが分析を終えた時、背後から光が溢れ、エンリータがこちらに来たことが分かる。それに釣られたのかは定かでないが遠巻きに見ていた敵たちが徒党を成して寄ってくる。後ろに下がる、という選択は出来ない為にその場で腰を落とし、カウンターに備えれば後方のエンリータも敵の足音と気配でも掴んだのか目が戻らないまでも弓を構える。

「ゴガァァァァア!!」

掠れ、喉が潰れた様な奇声を上げながら迫って来た敵は素直に武器のリーチを生かした距離感でハルバードを3方向から振り下ろす。加えて同時では無く、絶妙に時間をずらした3連撃はアーロンの頭、右胴体に左足と受けるには困難な軌道で迫って来た。しかし、そこは龍殺しにして限界を踏破した冒険者、アーロンはグレートソードを身体の正面で下から円を掻く様にして強引に振りまわす。するとたったそれだけでゴエティアダイモンたちの完成された3連撃は弾かれ、全員がまぬけな姿で腕をかち上げられてしまう。人間と違い、4足であるがゆえに大きな隙を晒すことはない。しかし、それでも確かに全員の胴ががら空きになってしまった。当然、その隙をアーロンは当然、エンリータも見逃すことはない。アーロンがグレートソードを振り直すまでの間にエンリータの矢が放たれ、正面の敵の眉間と首を穿ちほんの少し後退させる。それに続く様にアーロンが体勢を戻すとともに1歩踏み込み、自身の射程圏に3体をしっかりと収め、左に振り絞ったグレートソードを横薙ぎにする。正面の敵は勿論なんの抵抗も出来ず、追撃の無かった2体は辛うじて間にハルバードを挟み込んだがアーロンの魔力で強化された膂力によって枯れ木のように砕かれ、抵抗も虚しく人と馬の境目を断ち切られて宙を舞ってしまった。


部屋に静寂が戻ってくる。魔物は全て黒煙へと姿を変え、2人の息遣いだけが部屋に木霊する。

「よし、奥の部屋に行くぞ」

武器をしまうことなくアーロンが振り返り、エンリータに告げる。

「うん、それにしても結構嫌な仕掛けだね?」

やれやれとでも言いたげな表情を浮かべた彼女はアーロンを見上げながらそう言う。実際、転移直後を狙われるのは単純ながら有効な手段だ。聴覚や触覚は直ぐに戻ってくるのだが光に包まれているせいか視覚は他と比べて戻って来るのに僅かながら時間が掛かってしまう。そのため、転移装置のある遺跡などではまず、その手の迎撃が得意な人間か大盾の様なものを持った戦士が先遣を務めることが多い。

「ま、魔物も馬鹿じゃない。それに分かっていれば避けられるだけマシだろう。お前もやってみるか?」

この遺跡は必ず転移装置で別の階へと向かう。であれば毎回襲撃されるのは想像するに難しくはないだろう。

「いやーワタシは止めとくよ。ちょっと自信ないしね」

そう言ってエンリータはおどけた様に笑う。実力的には出来ても良いが彼女に求められる役割との相性が悪く、アーロンも無理強いする理由もないだけに彼女へ肩を竦めるだけに留める。

そして2人は1階での入り口にあたる扉から顔だけを出して先の部屋を見る。部屋は地図通りで先までいた部屋の10倍は軽くありそうな長方形の部屋だ。天井も高く、戦闘行為に支障は出ないだろう。窓の様なものはなく、冷たい色をした整形済みの石で造られており、家具の様なものは何一つとして見当たらない。カビや苔の様なものも生えておらず、埃っぽさもない事が逆に酷く違和感を強めるが遺跡であることを踏まえればそこまで気にするものではないだろう。そして、当然ながら部屋の中には魔物がいる。先程も出会ったゴエティアダイモンが5体、更にテラールクスという魔物が4体いるのが目に映る。

テラールクス、全身が真っ黒な肌に包まれた人間の男性体の見た目をしており、顔の部分にも凹凸がない。体は鎧の様なものを着込んでおり、パッと見は貴族がパーティで着る服と鎧を組み合わせた様な見た目をしているがこれも実際は肌で、そう言う形をとっているに過ぎない。唯一肌でない装飾として腰に巻かれた紫色の布だがこれも拾ったものとかでは無く生まれつき持っている物だ。戦闘スタイルとしては魔物らしい身体能力をフルに活かした徒手格闘でその打撃力は馬鹿に出来たものではない。ギルドで発布されるランクではゴエティアダイモンと同じランク5だ。

「意外に多いね・・・どうするの?」

下で同じように顔を出したエンリータがそう問いかけて来る。

「・・・問題ない、俺が突っ込んで殲滅しよう。今度は弓も使いやすいはずだ」

「了解!後ろが狙われないってのは楽だね」

アーロンの策とも言えない策に元気よく乗ったエンリータは早速弓矢の調子を軽く見ながら番える。それを見たアーロンはエンリータの射線を切らず、彼女に敵の視線が行かない様に直線では無く少しばかり弧を描く様にして部屋の中に駆け込む。アーロンが部屋に入ったと同時に部屋の中にいたすべての魔物の視線がアーロンに向かう。そして早速近接戦闘の専門家テラールクスたちが最短の道を異常な脚力で駆け寄り、ゴエティアダイモン達は様子見とばかりにアーロンの進行方向に回り込む個体と、魔法の準備をする個体に別れた。アーロンはひとまず魔法の準備をする個体を放置して直線で向かってくるテラールクスの相手に集中する。そしてその姿勢を見せた直後、扉の方から矢が放たれ、魔法の準備を進めていた個体に次々に矢が刺さっていくのが見える。致命傷にはまだ遠いが明確に魔法が中断され、後方にいた3体のゴエティアダイモンの視線がアーロンから外れる。その瞬間にエンリータがアーロンを互いの間に挟むようにして移動してくるのが視界の端に見える。

そして遂にアーロンに追いついた先頭のテラールクスが勢いを利用して飛び蹴りで迫ってくるのを視界の正面で捉え、迎撃のためにグレートソードを構える。衝突、その瞬間敵の足をグレートソードの腹で滑らせ、攻撃をずらす。そのまま自身はその場で回転しながら前に出る。正面を向く頃には追いついた別個体の回し蹴りが風を切りながら向かってくるがこれも姿勢を低くすることで避け切る。そしてしゃがんだところに右から踵落としが迫ってくるのが映る。アーロンは避けきれないのを察して今度はしっかりとグレートソードで受けきる。その一瞬の硬直を逃さず最後に来た個体がアーロンの胴を目掛けて右足を振り抜く。当然、体で受けてやるわけにはいかない、アーロンはグレートソードに乗った足を軽々と弾くとその勢いのままに逆側へと振り下ろす。その先には丁度迫ってくる敵の足、刃はなんの抵抗も感じさせずに足を切り落とす。苦悶の声は聴こえない。そもそも口の様な期間が無いのだから当然だろう。おまけに痛みも感じないからだろうか切られた個体はバランスを崩して床に半身を投げ出す形にはなったが直ぐに手が床に向かっており、立て直しを既に図っている。アーロンは包囲網から出来た穴に向かってステップで抜け出す。直後、立っていた場所へ追撃が降り、地面が陥没する。回避した先、其処に迫ってくるのは追い込みをかけようとしていたゴエティアダイモン達だ。先も見たハルバードでアーロンを間に挟み込むようにして振り下ろしてくる。しかし、それで焦るようなことはしない。落ち着いて受け止め、弾き、一度安全圏へと逃げる。それを支援する様にエンリータの矢が飛び、敵の足を止める。

アーロンは空いた隙間を埋めるように押し寄せる敵軍に対してグレートソードを振り絞り、魔力を刃に乗せ、横薙ぎに一閃。黒い月が牙になって軍勢にぶつかり、切り裂く。刃はまるで抵抗を感じさせないかのように進み、敵軍の大半を両断したところで消える。これで残りは後方のゴエティアダイモン3体と足が切れたおかげで近寄らなかった1体と一番遠かったおかげでギリギリ生き残ったもう1体の合計2体だ。直ぐに追撃の矢が近距離で唯一残ったテラールクスへと向かい、その命を刈り取る。それにアーロンは追従して片足になったテラールクスの処理にかかる。片足が切れていても立ち上がり、両手を構えて戦意を失っていないのは流石魔物というべきだが完全体で相手にならないのだから既に勝機はない。片足が無いとは思えないほどの綺麗なストレートが飛んで来るがアーロンは丁寧に躱し、去り際にしっかりとその胴体を両断して残りのゴエティアダイモン達に向かって行った。

良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

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