十七話
「ハァ!!エンリータ、右から来るぞ!」
「了解!」
アーロン達が山を登り始めて4日目、3人は中腹を越えて遺跡がある場所に向かうルートで最も傾斜が厳しい部分に差し掛かる辺りに居た。既に大聖堂の見える辺りは遥か遠くになり、晴れ間の時くらいにしか見ることは叶わない。幸いと言うべきか霊峰カエルムはアーロン達の様な初心者であっても登れるほどの難易度であり、標高と環境のせいで雪山に成ってはいるが準備さえ怠らなければ確かに冒険者の様な人でなくとも日数は掛かるだろうが登りきれるのだろう。
「わっ!アーロン、後ろからも来た!」
「チッ、直ぐに行く!」
現在、アーロン達は魔物の群れに追い込まれていた。グラキエース、真っ白な身体に透き通った青い幾何学模様が描かれた馬の様な見た目をした魔物だ。額の部分には身の半分ほどはありそうな長さの一本角を携えている。どんな急坂でも空を駆けるように伸び伸びと集団で走り回るらしく、機動力ではこの山随一らしい。真っ白な鬣は陽光を弾き、キラキラと宝石を散りばめた様に輝きながら棚引いている。実力的には図体がしっかり馬並みにある事と人間が出せる速度を軽く超えることもあって単独なら4、集団で5はありそうだとアーロンは思う。尤も、動き自体は直線的で慣れれば避けることは難しくはないうえ、魔法の類は使わない為に脅威度は下がる。前もって見ていた資料とクルトの話しからも大きなズレはない。ただ、強いて言うのならばクルトを絶対に巻き込まない立ち回りをしなければならない事とそれに反して異常な量の群れに突然囲まれる失態を犯した結果、面倒になった事が問題だろうか。おまけに、アーロンが全力で動くと天気がずっと晴れていた影響で大きな衝撃や音で雪崩が起きかねない為に出力をしっかり絞る必要があるのも面倒に拍車をかけていた。
前から駆けて来る数頭のグラキエースをグレートソードで力任せに切りとばし、エンリータの指示が聴こえた先を見る。現在、アーロン達は中心にクルトを置き、そのすぐ近くにエンリータが立ち、護衛と矢による援護と討伐、アーロンが最大まで離れての遊撃に別れていた。常に死角が無いように離れていても背中合わせのようにして戦う2人は敵影が見えれば山頂方面を正面として前後左右、お互いに指示を出しながら取り決めた最終防衛ラインを割らないように立ち回る。そして、アーロンは後方に向かって駆けだし、逆にエンリータは身体を少し斜め、正面を視界の端に捉えるように体を動かす。そして再び矢を放ち始める。意外な事にエンリータは自身より1つ上のランクのグラキエースと対等に渡り合えていた。理由としてはグラキエースが硬い装甲を持っていない事、集団で高速ではあるが直線的なために矢の狙いをつけやすい事、最後に集団であるがゆえに先頭が倒れると後方集団を巻き込むように倒れるために自爆に持ち込め、時間も稼げているのが主な理由だった。そのために、エンリータは常に精霊結晶によって相性の良い火を矢に付与し、一撃で倒せないまでもグラキエースの額を穿ち、勢いを殺して将棋倒しになった所に更に矢や魔術をひたすらに叩きこんで足止めと数減らしに集中する。そうすれば必ずアーロンが最後には止めを刺しに行ってくれると信じている故の戦法だった。
「ふぅ・・・こんなもんか。怪我はないか?」
最後の1頭を黒煙に変えたのち、固まっていた2人の下へと戻ってグレートソードと放置した荷物を背負い直しながらアーロンはクルトの方を見やる。
「えぇ、お蔭様でかすり傷1つありません。それにしてもあれだけの量を2人で倒せるなんて・・・」
クルトはホッとしたような顔を浮かべたのち、どこか苦笑するような顔で周囲を見渡す。
「やっぱり、この数は異常か」
アーロンは戦闘中も思っていた事をクルトに尋ねる。
「えぇ、私もそれなりに長く此処のガイドをしていますがこれほどの群れは見たことがありません。精々4、5頭の群れが基本ですから今回のように20・・・30弱の群れは見たことがありません」
4倍から6倍、確かにそれは異常だろう。これが魔獣ならたまたまという線もあるが魔物は決まった形を崩すことはそうない。4、5頭の群れが基本と決まっているならばそこから減る事はあれども増えることは珍しい。
(やはり、何かが起きているか・・・とはいえ何にせよ先ずは遺跡だ)
考えるべきことはあれども確定に至る物が無いだけに行動することは難しい。特に神器はまだアーロンにとっては未知の部分が多い代物だ。それこそ今追っている物が今回の原因である可能性もあるし、そうでない可能性もまだ十分にある。兎にも角にもまずは遺跡に辿りつかなければ何も分からないだろうとアーロンは首を振ってから遺跡のある方を睨む。
「ところで休憩は必要ですか?もし大丈夫なようでしたらもう進み始めた方が良いかもしれません」
アーロンが思考に耽っているとそれを遮るようにクルトが聞いてくる。空を見れば太陽が中天から西へ少しばかり傾き始めている。既にそれなりに高い標高な事もあって急がなければあっという間に暗くなってしまう。
「俺は問題ない。エンリータ、お前も行けるか?」
「うん、ワタシも大丈夫だよ」
放った矢の回収と手入れをしていたエンリータが立ち上がり余裕の在りそうな表情を浮かべる。
「では、行きましょうか」
それを了承と捉えたクルトが早速、足を動かし始め、その背にエンリータ、アーロンの順で再び遺跡を目指すのだった。
6日目、3人はようやくと言った雰囲気で遺跡の前に立っていた。遺跡は雪に埋まる様な形、恐らく山をくり抜いて作ったのだろう、大きな化け物が口をぽっかりと開けているような入り口だけが見える。入口は石造りで所々風化しているようにも見える。尤もダンジョンでもなければ古くない遺跡は存在しない為におんぼろな見た目なのは当たり前のことだ。只、遺跡になった瞬間から風化するようなことはない為にそこからどれくらい古いものなのかを検証するのには役立つ。
「ここが目的地です。到達おめでとうございます。それでは私はキャンプ地を作って来ます」
そう言ってクルトがそそくさとアーロン達から離れていく。彼は流石に遺跡の中にまでは着いて来られない為にアーロン達が遺跡内部にいる間は1人で過ごさなければならない。話を聞くに、この周辺は魔物の数は少ないらしいが0ではないだけに安全確保の準備に時間が掛かるらしい。また、この遺跡は左程広くはない為に不要な荷物を預かっていてもらう。そうなれば今の内にきちんと準備をしておかなければ当然危険に巻き込まれてしまう。
「さて、エンリータ。クルトの準備が終わり次第、中を見て回る。今の内に装備達の確認と中に持って行く装備を分けろ」
そう言うとアーロンも荷物を下して仕分けをはじめる。ある程度中を回ったらクルトが現在作成しているキャンプ地で休むため、荷物はそれこそ最低限の水と携帯食料に薬と武器程度だ。現在身に着けている外套たちも遺跡内部の気温ならば必要が無い為に直ぐに脱げる様にだけ準備をする。
「ウン、ええと・・・」
それに続く様にエンリータも手慣れた様子で荷物の整理をはじめる。
(・・・やはり成長が速いな)
それを横目に見たアーロンは心の中でひっそりと感心を強める。何度も思う事だがエンリータの成長は非常に速い。実際、グラキエースとの戦闘でも足止めと討伐、それに偵察とアーロンの補助がほぼない状態でもきちんとこなせていた。勿論、まだ火力不足に近距離戦闘は低いままだが中距離以上であれば目を見張る程度には対応力が上がった。それ以外にも今、している荷物の選別などもかなり手早くなった。それこそ適正の範囲ならばソロで中堅を名乗っても問題が無い程だ。
(そろそろ本当の意味で一人前になれるかの試練があってもいいのかもしれない)
アーロンはもう対等の存在としてエンリータを見てはいるがそれでも傍目には対等と言い難いものがあるのも事実だろう。加えて彼女の単独での実績が少ない為にこのままでは冒険者のランクを彼女が上げるのが遅くなってしまう。もしかしたらそんな事は気にしないかもしれないが良い評価というのは持っていて損することは少ない。
(戦況が落ち着いたら一度、何か単独でやらせてみるべきだな)
見事に殻を破り、巣立ちを目の前にする仲間にひっそりと口端をアーロンは緩めるのだった。
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