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アーロン  作者: ラー
五章 上

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十五話

アーロン達がカエルムへ向けて出発して7日程経った頃、老将軍ハダクーシス・モルター率いるエテルニタス帝国軍は当初、アウローラ王国の公爵が懸念した通りに驚異の山越えを敢行していた。出立から既に15日ほどが経過しており、逃亡兵や負傷兵も出てしまってはいたがその数は恐ろしく少なかった。その理由にハダクーシスの武勇がまず挙げられるだろう。常勝と呼ばれるほどに手堅く、狡猾に、それでいて大胆な策の数々でたとえ、劣勢に追い込まれようと何度でも立ち上がってくるその在り方は不死鳥の2つ名にふさわしいとその姿と経歴を知った者は皆、口を揃える。そして必要ならば、最前線で年老いて尚、己のハルバードを振りまわして敵を屠るその背は味方を何より鼓舞する。そして軍の正規兵たちの大よそ半数以上がハダクーシスと共に戦場を駆けた事が過去にあるのだから、危険な山越えも何一つ文句を溢すことはない。彼に付いて行けば勝てると知っているのだから当然だろう。加えて彼が長年、帝国に仕えたその忠誠心のもと積み上げてきた経験は、厳しい行軍を現実的な作戦にまで押し上げた。そしてハダクーシスが特に長年特別に鍛え、共に戦場を駆けた、もはや親兄弟と呼ぶほどに過ごしてきた副官達が目となり、耳となり、ハダクーシスの手が届かない所をしっかりと支えることで帝国軍は驚異的な速度と高い士気で山中を進む。また、ハダクーシスが不死鳥と呼ばれる前から身に着けていた真っ赤なアーマーとそれに倣った軍服に鎧の赤揃えはその進行を空から見たのならば不死鳥の業火が山々を犯しているようにも見えただろう。そして、その行軍も両国を分ける山を抜け、10万を超える大軍にしてはあまりに驚異的な速度でアウローラ王国の最初の関所へと接近していた。


「うぅ・・・少しずつ冷えて来たね。それに何か景色も寂しい・・・」

少しばかり大き目の外套を身体にしっかりと巻きつけたエンリータが身体を擦りながらポツリとつぶやく。

「あぁ、もう寒冷地帯に入っただろうからな・・・もっと行けば草木もほぼ消えるだろう」

カロールから出発し、はるか遠くに見えていた高い山脈、霊峰カエルムに少しずつ近づくにつれて吹きつける風は雪山で纏った冷気を乗せ、真正面からアーロン達を拒むように吹き付ける。目的地に近づくにつれて強くなっていく風は冷たさもどんどん増しているようで、まだ活動には何の問題も無いがもう少ししたら眠る際、凍死にもしっかりと気を配らなければならないだろう。体にもいつもよりしっかりとした外套を購入して巻き付けてはいる。しかし、この様子ではやはり麓の辺りでもっと厚手の物を購入しなければならないだろうとアーロンは思う。他にもどれほど霊峰内に滞在するかも分からない以上、テントの類や現地特有のサバイバル用品をそろえる必要がある。このままでは間違いなく神器はおろか遺跡にも辿りつけないだろう。

風景も帝国の付近と比べれば緑が少ない、というよりも色が少ない。木の類もその数を大きく減らして遠くにも森の様なものは見えず、只広い荒野にも似た景色がどこまでも広がっている。代わりにあまり見ない形の植物が増えた。彼らは全体的に背丈が低く、葉に厚みがある様な物が多い。また、足元に散らばる大小様々な石達に苔が生えているのも目につくだろうか。

「ふぅう・・・カロールもそうだけどなんでこんな所に住もうと思うかなぁ?」

純粋に疑問なのだろう、相変わらず身体をするエンリータの愚痴は続く。

「過酷だからこそ、というのもあるだろうな。それこそ人が嫌いというのもあったかもしれない。もしくは旅の終わりか、はたまた聖堂がある様に信仰ゆえか。気になるなら聖堂の周りの住民に聞いてみたらどうだ?面白い話も聞けるかもしれないぞ」

そう提案してみれば面白そうだと思ったのか渋い顔を浮かべていたエンリータの表情も少し晴れる。

「なるほどね!それは面白そう!ん~ちょっとはやる気も出てくるかな」

そう言うと身体を擦るのも止めて足取りも軽くなる。言葉1つでコロコロと調子が変わるのはミクロス族らしい。

「ほら、早く行こうよ!流石に景色には飽きちゃった!」

そう言って前を小走りに行くエンリータをアーロンは速足で追いかける。


それからちょうど3日歩き通した2人は霊峰カエルムの麓に建設されたエグレイジ大聖堂とその周辺を住処にする人々の大集落、いや、既に国家と言える程の規模の集落に辿りつく。ここは規模からも分かる通りにほぼ国家として見られても可笑しくない場所ではあるが一応中立地帯の非戦闘区域という扱いになっている。というのもこのエグレイジ大聖堂は大陸でもっとも力を持つ龍神教の総本山だ。それ故にたとえエテルニタス帝国程の大国であっても易々と手を出すことはないだろう。勿論、帝国民の半分以上が信徒であるのだからそれも当然だ。

「ふわぁ~、すっごい数の人!これが国じゃないのが信じられないくらい!これ皆、龍神教の人なんだよね?」

先程までカエルムから吹く風が雪交じりになったことでずっと凍えていたエンリータだったが雪解けを迎えた様に春の陽気さが顔に現れていた。とはいえ、それこそエテルニタス帝国の入り口でも見ないほどの人が溢れているのだからそれも仕方ないと言えるかもしれない。

「まぁ、絵で見たりするよりも直接見ないと此処の凄さは分かりにくいかもしれんな」

かなり久しぶりにここを訪れたアーロンも人混みの凄さに少しばかり押される。尤も基本的には皆、同じ信徒の集まりで聖地でもある為に秩序だっているお蔭で何とか呑み込まれないで済んでいる。

「でも、街並みはやっぱりちょっと寂しく見えるね?寒い地方ってやっぱりこうなるのかなぁ?」

そう言うエンリータの視線を追えば確かに色味がさほどなく、似た様な形の石造りの家が立ち並ぶ。流石に屋根の部分は木造が多いがそれでも色と独創性、芸術性という部分では他の平原地帯の国家群よりも温かみを筆頭に少ないかもしれない。尤もここが宗教施設の近くで信徒の為だけに存在する場所だからそう言った事は二の次なのかもしれないとアーロンは答える。

「あぁ、それもそっかぁ。屋根の木も遠くから運んだんだろうしね・・・それにそれよりも安全で暖かい事とメンテナンスが楽な方が優先だよね」

過酷な環境故の知恵というものなのだろう。そう思えばどこか無機質にも感じられる街並みも面白さが見えてくるものだ。

「さて、兎に角先に宿を探すぞ。ここに住んでいる者も多いが外から来るのも多いはずだ。宿探しで街を彷徨うのだけは勘弁だ」

そうアーロンが促せばエンリータが想像したのかうんざりしたような顔で同意を返す。勿論、街の人間に頼めば泊めてくれるかもしれないが傍目に信徒でもない冒険者、それも強面のアーロンは特に嫌がられる可能性がある。


それから過去の記憶を何とか掘り返し、周りにいる住民たちからも情報を聞き込みしながらなんとか宿を見つけたアーロン達は身体の汚れを落とし次第一旦部屋で小会議をはじめる。

「さて、人心地付いたな。取りあえずこの後の話をしよう」

アーロンがそう言えば早速ベッドで横になっていたエンリータも起き上がり、真剣な顔つきを浮かべる。

「まずは外套だ。何とかなるかと思ったがもっとまともなものに変えないと凄まじく着込む羽目になる。仕方ないがこれから金が多少かかっても戦闘に支障が出ず、カエルム山頂付近でも問題のない外套を探す。もし金が足りなければ俺の方から不足分を出そう。そうで無くとも厳しそうなら言え。幸いギルドがあるからな金はどうとでも出来る筈だ。だから金に下手な糸目をつけるな」

そう言えばここに来るだけで寒さに震えていたエンリータは微妙な顔を浮かべながらも頷く。

「なに、気になるなら働いて返せ。それと雪山の装備だな。こっちはもしかしたら大聖堂で貸し出しをしているかもしれん」

霊峰に登る信徒もいるはずだ、であればそのサポート位はしている可能性がある。多少渋られる可能性もあるがそこは金を多少積めばなんとでもなるはずだ。外套だけならまだしも雪山でしか使えない装備を態々一式無理にそろえたいとは思わない。金も任せろとは言えるものの無限ではないのだから削減できるならばしたいのが本音だ。

「そうなんだ。因みにどんな装備があるの?」

興味をそそられたのかエンリータが疑問を口にする。

「そうだな足裏に嵌める滑り止めのアイゼンを筆頭に専用の水袋、あとは発火材に台なんかだな」

「へぇ・・・でもそっか。普通の水袋は確かに駄目そうだし、木が無いとたき火も出来ないもんね」

「そういう事だ。まぁ詳しくは借りられた場合は貸し出している人間に聞くのが一番だろう。なにせ俺たちは経験が足りない。場合によってはガイドもいるな」

初見の山、それも普通の山であっても案内人と言うのは需要があるのだ。この過酷な山登りならば護衛と合わせて間違いなく高い需要を誇るはずだ。

「あぁ、それはそうだね。ワタシも想像がつかないもん」

そう言ってエンリータは頷き、強く同意を示す。実際、今までの2人旅で雇ったことはないがアーロンにナビをされていたエンリータからすればその必要性はより感じられている事だろう。

「兎に角、今日は外套だ。それさえ終えたら明日は休みで明後日を準備に充てる。いいな?」

そうアーロンが話をまとめればエンリータは心得たとばかりに頷いた。


2人がそうして無事にエグレイジ大聖堂でひとまずの休憩と準備を整えていた頃、遂にハダクーシス・モルター率いる帝国軍はアウローラ王国に向けて本格的に攻撃を開始していた。完全に虚を突かれた形になったアウローラ王国軍の防衛と予備隊は何倍もの数の帝国軍にあっという間に押し流され、この僅かな期間の間に本城が見える程の位置にまで踏み込まれてしまう。その報を聞いたアウローラの本隊は慌てて本国に取って返してきたがその足取りは乱れており、それを待ち構えていた帝国軍に各個撃破に近い形でどんどん散り散りにされて行ってしまう。なんとか総大将の公爵と古株が東西奔走することで全滅を避けることは出来たものの逃亡兵に負傷兵多数と戦局を大きく傾けた。王国の上層部では既に濃厚な敗戦ムードが漂い始め、責任のなすりつけ合いが始まっていた。また、その陰で道服を来た人影、ニィスの姿があった。それと同時に美しい高位の貴族の子女が1人、姿を消したことにはまだ誰も気付いてはいなかった。

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