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アーロン  作者: ラー
五章 上

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九話

休憩後、2人が周囲を見渡しながら山登りを続けていると山壁に今まで見たことが無いような傷跡と瓦礫が散らばっている。瓦礫の方は明らかに傷跡から零れ落ちたものだろう。

「少し確認するか。エンリータ、俺の背後を見ていてくれ」

そう言うとアーロン岩壁の傷に手を沿わせ、簡単に調査をはじめる。

(擦り減った感じはない。そんなに日が経ってはないか・・・爆発形の傷なのは間違いないがコレか?)

調査依頼の対象はいつもと違う爆発の仕方、というものだったがパッと見はそこまで炎精の爆発と差異はない。しかし、決定的に違うところがあるとすれば動きながら爆発したような形跡がある事だ。通常はアーロン達が接触した物と同じように爆発は一度きりで何度も爆発することはない。しかし、この傷は徐々に横や上に移動しながら小規模の爆発を繰り返しているようにも見えた。これが2か所で済むのならば珍しくはあるがたまたま同じ場所で同じ規模の炎精の爆発があったと考えただろうがここはパッと見だけでも5回以上は爆発をしている。そして、その痕跡を視線で追ってみれば途中で切れているが離れたところに同じような爆発を繰り返した痕跡が見えた。

「なるほどな、これは確かに異常だ」

専門家と言う訳ではないがそれでもアーロンが知っている限りの情報と照らし合わせてみても合致しそうなものはない。

「よし、良いぞ。エンリータ、次はこの傷の先を追う。幸い壁は登らなくて済みそうだ」

見張りをしてもらっていたエンリータに声を掛け、今抱いた所感を軽く話しつつ異常な痕跡を負わせる。勿論、これにはエンリータの斥候技術の向上も含まれると同時に出来るだけ多くの視点から情報を集めるためだ。彼女にとって此処は初めての場所だが素人の意見が役に立つことは意外にも多い。ある意味なによりもフラットで見聞き出来るのは初見の特権だろう。

そして、今度は道なりではあるが岩壁に付いた爆発痕を追う。どうやら風に舞う綿毛の様にフワフワと気ままに動いているようだが目的地は山頂に向かっているようで以前の調査隊に発見された回数が最も多い場所と合致する。また、爆発痕も通常の炎精のものと差があるようで、炎精の方はどちらかというと爆風による被害の方に比重が傾いているのに対して正体不明の方はまるで大槌で叩いたかのような跡が壁に残っている。それ故にもしかしたら炎精とは違い何かとの接触によって、今回であれば岩壁に接触してから爆発している可能性が浮かび上がる。

(一見、無差別、そこになんの意志も感じられないがよく見ればやはり明確に何かの意志を感じる)

壁に残る後を横目にアーロンは思考を続ける。アーロンの直感は既にこれが何らかの生き物による犯行だと告げていた。であれば接触後、戦闘になることは想像に難しくない。

「それほど強くはなさそうだが・・・相性は良くなさそうか」

予測通りであれば接触に反応して爆発するタイプだ。それは戦士であるアーロンにとっては都合が悪い。勿論、遠距離の手札自体はしっかりと持っている為に不利になることはない。問題は相手の最大火力と耐久力である。まさか、壁にこぶし大の穴と広範囲の罅を作る程度が限度という事もないだろう。その上、ソロソロ山頂だと言うのにまだ爆発痕は続いている。という事は無数に爆発しても身体に支障が出ない構造をしていて尚かつ宙に浮くことが出来る事は確定だろう。もしかしたら物理は今一受け付けないかもしれない。

そうしてこの曲がり角を行けば山頂の姿が見えるという所まで来た時、ドガンッ!という音が響く。爆発音は1回だけでは止まらず、ある程度の感覚を空けるようにして鳴り続けており、今まで見て来た跡地の傷を連想させる。

「恐らく依頼の相手だ、俺が先に行く。お前は矢の準備をしろ。属性は水で様子見だ。あぁ、炎精のほうも忘れるなよ」

そう言うとアーロンは背のグレートソードを引きぬくとエンリータを追いこして曲がり角から跳び出していく。

跳び出した先、山頂に向かって行く道の奥にはバチバチと音を立てて爆ぜる真っ赤な球体と先程の爆発の痕跡だろうかこぶし大の穴と蜘蛛の巣の様に罅割れた地面があった。赤い球体はアーロンの顔をいくらか大きくした程度はあり、不規則にユラユラと空中を彷徨っている。大きさに目を瞑れば大規模なたき火の火花の様でまた、真っ赤なだけでなく、それ自体が燃えているようだ。最近同じような事を良く感じるが確かに見たことが無い魔物?であり、興味を惹かれる。しかし、それよりも気になる者がそれの横に立っていた。修道士の様な格好をした老齢の男だ。しかしその修道服はこの大陸のメジャーな宗教では見たことが無い配色だ。黒に暗い藍色が混じったような色を基調にしており、中央には紫に黄色、赤と3色のラインが重なって入っている。通常、修道服はもっと明るい色、更に言えば白もしくはそれに準ずる色を採用することが大陸の宗教では多い為にその反対を行くような配色は目を惹く。髪は生えておらず、顔に薄っすらと入っている皺は本人が若くないことを教えてくれるがその瞳は活力に漲っており、元々そうなのかは分からないが所謂悪投顔な事と相まって良い印象を持てない。右手にはかなり大ぶりな木製の杖を持っており、手で持っている場所より先は打撃武器の様に滴型に膨らんでいる。

男は跳び出してきたアーロンの方を見て、酷薄な表情を浮かべながら横に使役しているようにも見える赤い球に何やら話しかけているようだ。

(なんだ・・・?ッチ、流石に遠くて分からんな)

唇の動きで喋っている内容が分かる様な技能までは流石に持っていない。だが遠くても分かるほどにあくどい表情は間違いなく碌な事を話していないことが分かる。何よりも男が喋り始めてから赤い球は怒ったようにバチバチと火花をより飛ばし、その身を一回り大きくした。

「あ?・・・分からんが時間を掛けるのは良くなさそうだ」

変化に一瞬目を瞬かせたが考えても分からない事は分からない。まずは仕掛けてからでも遅くないと判断したアーロンはグレートソードに魔力を纏わせると男と赤玉の両方を巻き込めるように斬撃を飛ばす。

それを見ていた男は、慌てることなく杖先で地面を1つ叩くとその体が光に包まれて消えてしまう。アーロン達が使うような魔術による転移とは少しばかり毛色が違うように見えたが間違いなく同系統のものだろう。赤玉の方は相も変わらずユラユラと浮いて、いや、少しばかりこちらに近づいていたようにも見えたが同様に大きな動きは見せず、挙句にはアーロンが放った斬撃に正面からぶつかった。そして同時に爆発を起こす。それは先程まで聞こえていた 爆発音よりも倍は大きく、その規模も馬鹿に出来ない程だ。それなりに距離があったと思ったがアーロンの頬を爆風が撫でる。

(直撃したか・・・男は逃げたのか?いや、それよりも今は赤玉か)

爆発のせいで巻き上がった砂煙のせいで先が見えない。しかし、ここ最近の戦いの中で磨かれた直感がなんの決着も付いていないことをヒシヒシと伝えて来る。そして予想通り砂煙の晴れた先、斬撃が当たる前より今度は一回り小さくなった赤玉が何も無かったかのように浮いていた。

「・・・やっぱり効いてねぇか」

肩にグレートソードを掛け、ため息を吐く。実際の所は分からないが少なくとも効果があった様に見えないのは地味に心に来るものだ。勿論、これで諦めて逃亡するようなこともないが。

「兎に角、試してみるか。エンリータ!」

思案している間にもゆっくりとこちらに近付いて来ている赤玉に対してエンリータに攻撃を出すように声を掛ける。そうすれば待っていたと言わんばかりの反応で水の魔力が宿った矢が後方から1つ放たれ、吸い込まれるように赤玉にぶつかる。すると先程よりも音も範囲も狭いが再び赤玉は爆発した。やはり何かが接触すると爆発する単純な機能が備わっているらしい。しかし今度は煙が晴れた先の赤玉は小さくなることも大きくなることもなく、そのままの姿を維持していた。

「どういう事だ?小ささには制限があるのか・・・それともこの状態を攻撃し続ける?まだ情報が足りんな」

観察を続けながらアーロンは思考を続ける。魔物であれば基本的には許容量いっぱいまで攻撃を叩きこめば死ぬ、これは絶対だ。しかし、アーロンには目の前のものが純粋な魔物とは思えなかった。明確な根拠はない為、只の直感という事にはなってしまうが何れにせよ、今は試行錯誤が必要なのは事実だった。

そうしてアーロンが次の行動に出ようとした瞬間だった。ユラユラと宙を彷徨いながらこちらに少しずつ接近していた赤玉は突然にピタリとその体を固定すると体の内部から破裂する様に発光した。それを見ていたアーロンは嫌な予感に駆られ、肩のグレートソードに再び魔力を纏わせて斬撃を放ち、疑似的な盾として使う。その直後、突然目の前に夕暮れが現れたのではないかと思うほどの赤が放たれ、遅れるようにして熱波が続く。それを肌で感じ取った直後、今度は斬撃では無く、壁の様に魔力を発生させ、同時に自身は後方に下がる。壁に塞がれなかった夕焼けはまだ収まらず、熱風は周囲の景色を歪ませた。

暫くして熱風も収まり、壁も消え、両者の間を遮るものが消える。視線の先には変わらずユラユラと浮く赤玉がいて、それを眉間に皺を寄せてアーロンは睨む。

「大丈夫?」

すぐ後ろまで寄って来ていたエンリータが背中越しに尋ねて来る。

「あぁ、この程度ならな。それにしても厄介な奴だ」

今の所、敵について分かっている事と言えば攻撃、何らかの衝撃を受けた瞬間に爆発する事。威力については大きさ次第。大きくなる原因は不明で爆発後は小さくなる。尚、一定以上は小さくならない、だ。勿論、確定というわけでは無い。

(何らかのギミックがありそうだな・・・神器の魔物と同じように自然に発生したにしては奇妙な点が目立つ)

何より、実際どうだったのかは分からないが謎の男の言葉に反応したようにも見えた。これが事実ならあれはまともな魔物ではない。

「兎に角、確かめてみるか。エンリータ、何発か当ててくれ。俺も追撃する」

アーロンが思案し、会話している間にも赤玉はゆっくりとこちらに近づきながらその身をまた一回り大きくしている。

それからアーロン達は幾度も遠距離から攻撃を重ねるが一向に状況は改善しない。アーロンが斬撃を幾重にも重ねて爆発ごと切り捨てようとも、エンリータの矢が連続して当たろうともやはり一定以上に小さくもならなければ弱ったような変化も見せはしない。埒が明かないとばかりに魔術で凍らせ、時には水の砲弾で穿っても焼き直しの様にビクともしない。こちら側が多彩な攻撃で攻略方法を見つけようとする反面、赤玉の方は何一つ変わらず、ユラユラと宙を彷徨いながら時折熱風を周囲に振り撒くだけだ。また、分かった事と言えば一定以上の時間の経過でその身を大きくするらしく、アーロン達は壁が迫ってきているような圧迫感を感じていた。また、問題は赤玉以外にもあり、明らかに奴の周囲は他の場所よりも炎精が集まりやすい。そのお蔭で突然周囲が爆発し、時には熱風に紛れて爆発が連鎖するのが非常に厄介であった。焦る様な事はないがじりじりと詰められるような感覚は確実に精神へ圧し掛かる。また、アーロン達が立っている山頂付近は岩が斜め上へ槍の様に突き出された形になっている為、周囲が崖としか言えないような形をしているのも厄介だった。

「どうする?結構打ち込んだけど全然堪えて無さそうなんだけど・・・」

苦笑いを浮かべたエンリータがアーロンの横に並ぶ。

「・・・いっそのことデカくして破裂させるか?」

逆転の発想、炎精が許容量を越えて自爆するのと同じようにあれも膨らみ続ければ自爆するのではないかという考えだ。問題はその際に起きる爆発の範囲とその大きさまでどうやって持って行くかだった。何かと衝突すれば爆発してしまう以上、取り扱いは大事にしなければならない。幸い、ここは山頂近辺で周囲は崖、ぶつかることはないだろう。

「あぁ・・・なるほどね。生きてても爆弾は爆弾。その本懐を遂げさせるって事ね。出来るかなぁ」

納得いったのか頬を掻きながらエンリータは半笑を浮かべた。

「分からんがこのまま攻撃し続けても効果がある様には見えん。それに下に行けば行くほど被害も大きくなる。試すなら今だ」

そう言うとアーロンはどうやってあれをしっかりと爆発させるかに思考を飛ばすのだった。

良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

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