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アーロン  作者: ラー
五章 上

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七話

次の日、アーロン達は武装を解かずに旅用品だけを部屋に置きっぱなしにして、まずは神殿に向かう。神殿は宿よりも更に高い位置にあり、ほぼ街の頂点にある。カロールは国と言っても元々は神殿が先であったために所謂王城と呼べるものは存在しない。その代わりが神殿と言っても差し支えが無いだろう。そう言う意味ではこれから会おうとしている新官長は実質国王と言ってもいいかもしれない。一応、街には別に街の長老がいるために他国程国王と言った印象はなく、政治的なものにも関わりが無い事にはなっているが実際どうなっているのかは部外者のアーロンには分からなかった。

「はえ~大きな神殿だね」

街の一番上層部、その半分程度を占める様にして建っている神殿は大掛かりで歴史を感じさせる造りだ。周囲が赤茶色で締められている中、真っ白ではないが灰色に近い色で構成された外装は良く映えている。門はないが太いいくつもの支柱が格子の様に建てられており、その奥で高くそびえる本殿は城言われても違和感を持つものはいないだろう。周囲には神殿を取り囲むように煌々と火が焚かれ、場所によっては火柱にもなっている物もある。恐らく何かしらの仕掛けがあるのだろうが神秘的と言える。入口の辺りには人々が忙しそうに出入りしており、神殿の人間は皆、揃いの衣装で走り回り、時には一般の人たちと談笑する姿が見える。

「ま、ここの象徴なのは間違いないからな。兎に角、入ってみるか」

そう言い、アーロン達は神殿に近づいて行く。入口の人波を掻き分けながら火柱の間を通り抜け、続く石造りの柱の間を流れていくと人波が止まり、列のようになっている。どうやら中に用事がある人間は一度ここで審査を掛けられるらしく。それで列になっている様だった。とはいっても左程時間が掛かる様なものでは無く。用事の内容によって神殿内部の案内が違う為にここで振り分ける役目も持っているようだ。

暫く待っているとアーロン達の順番が回って来て、椅子に座りながら書類作業をしている神官の前に立つ。

「ようこそ、当神殿へ。ご用は何でしょうか」

神官は手を止めて柔和な笑みを浮かべて声をかけて来る。

「あぁ、実はここに来るのは初めてでな。どうしてもここの神官長と会いたいんだが可能か?」

アーロンが取りあえず直球に頼みこんで見るが言われた神官は眉と口端を歪め、首を少し横に倒す。

「神官長様ですか・・・えっと、何か身分を証明できるものはありますか?神官長様は現在非常に多忙でして、それに今の時勢はっきりとした身分の方で予約の無い方はこちらも簡単にはお通しできませんので・・・」

そう言われ、取りあえずギルドカードを出すがアーロンは無謀を感じ取っていた。どう考えても身分はともかく予約は取っていない。おまけに用事も容易く話すわけにもいかず、逆に話したところで神官長がどのような判断をするか想像に付かない。良くない方に使おうとしているのなら当然、追い返される。仮に善行の為に保護、ないしは封印の目的で持っていたとしてもアーロンと言う龍殺しであっても1冒険者でしかない人間に渡す理由がない。いずれにせよ容易く合う事が不可能な空気を感じるのは当然と言える。

「アーロン様にエンリータ様ですね・・・少々お待ちください。予約はないとの事ですが一応、確認してみますね。あぁ、ご用件は何でしょうか?内容によっては間を飛ばすこともあり得ますが・・・」

目の前の神官は間違いなくいい人だと言葉の節々から感じる。何なら既に突っ返されても可笑しくない状況にも関らず、此方を気遣ってくれているのをヒシヒシと感じる。だがそれに応えることは難しい。実質詰みだった。

「・・・いや、内容は言えない。済まないが確認だけで構わない。あぁ、予約の取り方が分からないからそっちが知りたい」

「なるほど・・・取りあえず少々お待ちを、聞いてきますので。予約についてはその後にご説明しますね」

対応してくれた神官はそう言いながら苦笑いを浮かべつつも一旦、席を離れて神殿内部に入っていく。

「・・・無理じゃない、これ?」

一連の流れを見たエンリータがボソリと呟く。

「・・・あぁ、正規ルートはもう無理そうだ」

既に怪しい奴らとして神殿に情報が出回っているかもしれないとアーロンも遠い目をする。よく考えれば国のトップの一角に予約も伝手もなく用事も言えない奴が会えるわけもない。対応してくれた神官はよく声を荒げず、態度を崩すこともなったと褒められるべきだろう。


それから戻って来た神官に想像通りの言葉を貰い、念のため面会の予約申請だけを済ませてアーロン達は神殿を背後にした。

「上手く行って30日後かぁ・・・これ、正面は無理じゃない?」

トボトボと横を歩くエンリータがアーロンを見上げながら愚痴の様に溢す。あれから戻って来た神官は申し訳なさそうな顔で要望が通らなかった事を告げてきたが、むしろ予想通りだったために逆に申し訳なさがたった。それから念の為ではあるが予約だけはしてみたがこちらも内容が不透明過ぎて予約すらも通らない可能性が出て来た。ともかく審査されてから今いる宿に通知が来るらしいが恐らく無理だろう。

「そうだな・・・仕方ない。別の道を探す。まずはギルドにでもいってみるか」

もしかしたら裏技、ないしは神官長に関する情報を持っている可能性も無くはない。尤も線は薄いだろうが。

「そうだね、街の感じ的に地元の冒険者の方が多そうだし、何か知ってるかもね」

アーロンの意見に賛同したエンリータが顔を上げて納得したような表情を浮かべた。

カロールのギルドは神殿と同じ層にあり、大きくはないが円形のドーム状をした建物だ。屋根は低く、格子状の線が屋根に走っており、上から見ると模様の入ったパイの様に見えるのが特徴だ。

アーロンがギルドマークのついた扉を開けて中に入れば意外にも閑散としており、カウンターに見える職員も傍目にはいつも通りのようにも見える。特にごたついてもおらず、日常、といった雰囲気が流れていた。

「あ?もしかしてアーロンか?おーい!」

扉を潜った際にこちらを見た職員が一瞬目を細めた後に遠くから尋ねて来る。同時に他で作業をしていた職員と数少ない同業者たちがチラリとこちらを窺うように見て来た。

それに対して返事をすることなく、ざっと周囲を見渡したのちに無言で声をかけて来た職員に向かってアーロンは足を向ける。

「いきなり人を呼びつけるのは良い事じゃないぞ」

少しばかり不機嫌だ、そう言いたげにアーロンは自身を呼びつけた職員にギルドカードを見せるとともに声をかけた。

「ハハハ!そんなこと言うなよ!久しぶりなんだ、嫌ならもっとここに足を運べよ!」

そう言って笑う浅黒い肌をしたガタイのいい男は手を握手の形で伸ばし、アーロンもそれに応える。

「アーロン、知り合いなの?」

エンリータにとっては高いテーブルに手を掛け、顔を覗かせるようにして2人の顔を彼女はキョロキョロと見渡す。

「あ、何だ?アーロン、今は連れがいんのか?珍しい事もあったもんだ」

目を丸くした職員は目を瞬かせる。

「ハァ、兎に角説明してやるから部屋をよこせ。あぁ、エンリータ、こいつはガレス、元冒険者で今はギルド職員だ。覚えなくていいぞ」

そりゃないぜ、アーロン!とガレスと紹介された男は大げさな身振りをする。しかし、それを見るアーロンの口角が少し上がっていることからそれなりに仲が良い事が伺える。エンリータからすれば普段ぶっきらぼうで顰め面の様な表情の多いアーロンがこういった表情を素で浮かべているのは珍しく感じた。

「仲いいんだね!ガレスさん、ワタシ、エンリータ!よろしくね!」

「オウ、こいつと違って嬢ちゃんはいい子だなぁ・・・よろしくな!さて、個室でも行くか。おーい、ちょっと席空けるぞ。良し、着いてきな」

2人は上機嫌なガレスに連れられて奥の個室へ入っていった。


「へぇ、ガレスさん昔アーロンと一緒に組んでたんだ!」

意外そうな雰囲気を孕んだエンリータの声が個室に響く。ガレスは今こそ怪我で冒険者をすることが難しくなり、ギルドの職員として新人へのアドバイスやカロール近辺の環境情報を教える仕事に付いている。これは彼が冒険者としてやっていた時に同じような事を頻繁にしていた為にその腕を買われた形だ。アーロンが初めてカロールに来た時に1人で居たアーロンを気にかけて声をかけてくれたことがきっかけで2人は仲良くなったのだ。

「あの頃から子供っぽくない奴でなぁ、あんまりにも冷めた顔つきの奴がいるって気になっちまってな。で、そこから無理やりに絡んだって訳だ。ま、冒険者としては俺とは比べものにならないぐらい優秀な奴だったがな」

そういって豪快にガレスは笑う。思い返せばあの頃から数年以上の付き合いだ、冒険者時代よりもいくらかやせ衰えた感じこそあれどもその気持ちのいい笑い方は変わらない。

「さて、お前たちの要件は神官長様への面会ってことだよな?う~ん、今は時期も悪けりゃ情勢がなぁ・・・俺が言った所で神殿も通してはくれんだろうしなぁ」

そう言って腕を組み、唸るガレスの顔はさっきまでしていた昔話と打って変わって渋いものだ。

「無理を言っているのは分かっている。だが俺たちにも簡単には引けない理由がある。なにかきっかけが欲しい」

そう言ってアーロンは頭を下げる。

「やめろやめろ、お前の様な一流が簡単に頭を下げるな。ん~村長も今は街の対応で一杯だろうし、神殿も防衛で手一杯・・・あぁ一つだけもしかしたらって言う方法があるぞ」

小声でブツブツとこぼしながら百面相をしていたガレスが渋い顔を疑いに変えながら切り出す。

「このカロールを挟む火山のうちの1つ、フラルゴ山で最近奇妙な動きがあるから確認してほしいって依頼が神殿から来てんだよ。ギルドでも遠くから確認した感じ、確かに山頂に程近い所、噴火口の近くだな、そこで不自然な爆発が見つかった。これだけならそりゃ活火山でフラルゴ、なんて名前なんだから似た様な現象は多いんだが、確かに普段とは毛色が違う爆発が起こっててな。でだ、あそこはこのカロールの守りの一角を担う場所だから確認と可能なら対処し欲しいって依頼だ」

フラルゴ山、嘗てアーロンもガレスに案内される形で登ったことがある火山だ。この山は炎精の活動が非常に活発で、目には見えないがフラフラと漂う炎精達が集ってはその身の許容量を超えると爆発して散り散りになっては復活してまた集う、というサイクルを延々と繰り返す土地だ。そして、運よく爆発せずに大きくなっていけば時には自我を持った精霊にもなるし人の目にもはっきりと見ることが出来るようにもなる。勿論確率は極めて少なく、大精霊になったケースは他の属性を合わせても数えるほどもない。尤も大精霊は人間にとって友好的とは言い難く、あくまで彼らの基準、彼らの意志で活動するために人間にとっては正直面倒ごとでしかない。何なら炎の大精霊は過去に自身の周囲の温度を際限なく上げ、何もかもを火に沈めようとしたためにその時代の英雄たちに討伐された記録があるくらいだ。

「それは炎精がいつもより活発、てことでいいのか?場合によっては俺たちだけじゃ難しいぞ」

環境も合わせたら人間にとっては最悪に近い環境だ。おまけに最近の流で見ればここで突然のイレギュラー、大精霊が目の前で爆誕するかも知れないという可能性をアーロンは捨て切れない。

「いや、どうもそう言うのとも違うらしい。過去の資料に書いてある前兆ともはっきり違うからな。まぁ、どちらにせよ今のカロールにとっては憂慮しなきゃいけない。でもカロールの人出だけじゃ難しい、そこでお前ってわけさ」

柏手を打ち、口端を楽し気に歪める姿は若干腹が立つが言っていることに可笑しなところはなく、おまけに神殿からの依頼なら運さえ良ければ確かに神官長に近づくチャンスだ。

「・・・どうする?俺は行っても良い気はする。何とも言えんが、な」

そう言ってエンリータの方に顔を向ける。

「ん~どっちにしろ他にやることもないしいいんじゃない?まさか会えるまでここで待つわけにもいかないしね。戦争のゴタゴタに紛れてって言う手もあるけどあまり気が乗らないし!」

悩むような表情を一瞬浮かべたものの、次の瞬間には好奇心にあふれた顔をエンリータは浮かべ、行くことに肯定気味に返事がきた。

「よし、行き帰りでも5日程度か。ガレス、その依頼受けるぜ」

「おっしゃ!じゃぁ頼むぜ、龍殺し殿」

そう言って2人は手をガッチリと組んだ。

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