表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーロン  作者: ラー
五章 上

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/255

五話

2人が難なくイリシィオ小国の国境を抜け、カロール方面に抜け出した頃、遂にエテルニタス帝国は軍事行動を本格的に始めた。東方攻略司令官のラエル・ブリッツィは大軍では無く少数の軍で持って進軍を開始した。その情報を掴んだイリシィオ小国の王はスラム上がりの能無しとラエルの事を侮り、慢心を抱えたまま軍を展開することになる。尤も既に過去の神器の使用による代償で正確な判断を下すことも、まともな戦力が無い事も相まって戦線はあっという間に崩壊を辿り、ラエルによる常識外れの奇策と精強な帝国軍による速度を重要視した電撃作戦により最終防衛ラインをもあっけなく超えられることになった。硬く閉じられた城門もエーベルト直轄の諜報部隊のルーカ・デルラを副官として採用していたことで簡単に内部に入り込まれ、イリシィオ小国は異例の速度で落とされることになる。国王は神器の代償とその愚かさの代償をその命で持って支払わされることとなった。


ラエルはその後、国王の血を引くものすべてを処刑し、貴族の殆どもまた一切の容赦なく処刑場へと送った。戦場に立つラエルは血で全身を真っ赤に染め、彼の通った道、全てが鮮血に染まったことと、そのあまりの速さから【血濡れの戦車】と呼ばれ、その名を大陸に響かせることとなった。

生き残った国民たちは長年の鎖国と圧政によって支配されており、ラエルが一時的な統治者となる事に反発するようなこともなく、ただ、淡々とイリシィオ小国はその名を地図から消すことになる。

ラエルは故イリシィオ小国を東方作戦本部として定め、周辺地域の小勢力群制覇への足掛かりとしつつ、最終目標であるリーベタース連邦攻略の足場とした。リーベタース連邦とは海路であれば5日もあれば届く距離、両者の間での緊張感は最大まで高まった。


「ふぅ、大分暑くなってきたね・・・汗が止まらないや」

カロール領域に入り、3日目、遠くに見えていた活火山たちもその姿をはっきりと見せるようになり、山から噴き出る噴煙もうっすらと見えるようになってきた。また、当たりの景色も今までとは打って変わり木々のようなものはどんどんと無くなり、ゴロゴロとした石が地面に多く転がる。辛うじて街道は馬車が多く通る為だろうか整備されているが少し離れてしまえばあっという間に車輪が役に立たなくなるに違いない。空気もカロールに近づいて行くたびに熱くなり、独特な臭いも強くなっているように感じられた。

「この辺りはこれでもまだましだ。カロールの街は溶岩に囲まれている上に背後には火山が連なっているからな」

額から流れた汗を手の甲で拭いながらアーロンがそう返す。

「えぇ・・・話には聞いてたけど思ってたより過酷だね・・・良くこんなところ住めるなぁ」

「まぁ、こっちの方はミクロス族自体、あまり見ないからな・・・暑さに対して種族として弱いんだろうよ。エルフもまず見たことが無い」

森に住む種族であるエルフにとっては火山と溶岩に灰に埋もれるこの地方は地獄だろう。また、それに近い起源であるミクロスも同様だ。ただ、数は少ないがこの地方を好むミクロス族は存在する。

「あぁ、エルフは無理だろうねぇ・・・」

アーロンの言葉に思い当たる所があるのか苦笑を浮かべる。

「後は、前も言ったが鍛冶の聖地でもあるからな、穴倉ではないがドワーフの数がずば抜けて多い。元々、ヒューマンの国だが修行に来たドワーフの方が数は多い」

カロールの背にそびえる山々の中で特に大きい2つの山、バルログ山とグルファクシ山からは年中止むことなく溶岩が滾々と泉の様に湧き出ている。この溶岩の温度がドワーフの鍛冶で求められる温度に近いらしく、それを求める鍛冶職人が後を絶たない。また、それぞれの山頂付近には危険と引き換えだがより高温なマグマ溜まりがあり、尚且つ火の精霊にとって居心地が良い事も相まってか、修行を積んだドワーフが栄誉と至高の一品、そして鍛冶の限界の先を求めて居座る事がある。勿論、危険な土地なのだから死傷者の数も歴史の積み重ねで見ればかなりのものである。だが、それらを乗り越えた先に作られた1品には途方もない値段が付けられるうえ、その名を歴史に刻める。尤も、成功者は片手で数えられるほどだ。アーロンは詳しく知らないが純粋な鍛冶の技術以外にも多くのものが必要らしく、挑戦するだけでも困難、達成は砂漠で一粒の砂を探すに等しいらしい。

つらつらと旅の気休めとこれから行く土地の前準備としてエンリータにアーロンはカロールの知っていることを話す。

「てことは開放的なドワーフ王国って感じなのかな?ならまぁ・・・そうだ!お風呂も在るんだよね?」

思い出したのかエンリータが顔を明るくしてこちらを向く。

「あぁ、勿論だ。アウローラのものより熱く、独特な臭いもあるがな。他にも熱気の籠った場所で敢えて汗をかくサウナ、なんてのもある」

「へぇ、汗をかきに行くの?どうゆう事?」

今一理解を仕切れなかったのだろうエンリータが首を傾げる。

「説明してやってもいいがこれは体験した方が話ははやい。どうせすぐに神器の話が終わる訳がないからな楽しむ時間はあるはずだ」

実際、アーロンも嘗て入る前に受けた説明では理解しきれなかった。サウナのあの得も言われない感覚は言葉に出来ないだろう。

「そうなんだ。じゃぁ楽しみにしようっと」

そう言って笑うエンリータは少しだけ浮かれた足取りで前へと躍り出る。大陸は間違いなく混沌へとすすんでいるがイリシィオ小国が陥落したことをまだ知らない2人の足取りと思考は軽かった。


2人がカロールの入り口に辿りついたのはオーレウスの家を出てから15日経った頃だった。

「あぁ~アッツイ!ちょっと遠くが歪んで見えるよ・・・」

入り口で膝に手を当てながらエンリータが不満を叫ぶ。しかし、それを咎めるような声も視線もない。

「叫んだって状況は変わらんぞ。それよりさっさと街に入って宿に行くぞ。安心しろ、宿は涼しいし街中もそこまでじゃない」

いつもよりはるかに軽装になったアーロンが服の汗を絞りながら半目で先を見る。

アーロン達の目の前には今、岩山としか言いようのない大山が鎮座しており、周囲も土の様なものは見当たらず、溶けて固まったような場所と大き目の石が散乱するばかりだ。そして山を這う様に人工的に作られた岩の階段が蛇の通り道の様に配置され、入り口には険しい表情をした警備兵がカロールへ入る人間を検査している。そして、その入り口の回り、上にある街と山を囲むようにして溶岩の川が流れており、その流れは見ている限り留まる様子を見せない。間違いなく、アーロンの頬を撫でる熱気の発生源であり、呼吸すらも暑苦しく感じさせる。おまけに空は晴れ渡っており、照りつける日差しはこちらの身を焦がそうとしているのではないかと疑いたくなるほどだ。

「そうだけどさぁ~ていうか中は涼しいの?ワタシ、もう最後の登り階段で心が折れそうなんだけど」

余りの暑さに目から光を無くしたエンリータが疑いと希望、7対3の目でこちらを見上げて来る。

「忘れてないか、一応ヒューマンの国だぞ。このクソ環境に対応できるだけの創意工夫がある。ほら行くぞ」

そう言い捨てて、アーロンは警備兵たちがいる入口へ歩き出す。


「止まれ!」

何時になく、緊張が混じった声でアーロン達は止められる。

「通行許可証、ないしは何かしらの許可証はあるか?」

そう言われ、ひとまず万能のギルドカードを見せる。受け取った警備兵たちは専用の魔道具にカードを当てながら情報を精査し始める。

「・・・もしかしたら時間が掛かるかもな」

小声でエンリータにだけ聴こえるようにアーロンは溢す。

「そうなの?確かに物々しい気はするけど」

エンリータはまだピンとくるものが少ないのか小首を傾げる。

「あぁ、普通はそこまで入国審査は難しいものじゃない。特にカロールも鍛冶職人が多く来るうえ、過酷な環境だから貿易の為の商人たちが多く来る。他にも火山にの調査に火山特有の資源集めに来る冒険者は多いからな」

カロールは特殊な資源が多い国ではあるが他国では当たり前のようにある資源が枯渇しやすい傾向がある。それゆえ、国の重要な施設が多いエリアへの訪問でもなければ魔道具による簡単な審査と口頭の質問程度だ。それが今はそれらに加えてより詳しく調べられる大掛かりな魔道具も持ちだしており、アーロン達、冒険者が所属するギルドの腕章を付けた人間も一緒になって審査しているのは異常だ。更に、特殊な魔術師、恐らく幻術や検査の技術に長けているのであろう人間も傍に幾人も控えているのはあまりに物々しい。それこそ近場で相当の極悪人が脱走でもしない限りここまですることはないだろう。

「あぁ~なるほどね・・・じゃぁ、どうしたんだろうね?ワタシたちが旅してる間に変化があったとか?」

「恐らくな。特にギルドや国の上層部には遠くの人間と話せる、ないしは文字を送れる魔道具があるからな」

しかし、だとすれば宣戦布告がされたという事だろうか?だとすれば納得ではあるがそれにしては個人の冒険者に対してはかなり厳重な印象だ。カードを見れば直近の活動が分かる。勿論、無所属の最終依頼達成地がエテルニタス、は怪しいがまだカロール側に引きこめないか等の話をされても可笑しくはない段階だ。だが、彼らがアーロン達を見る目は明確にスパイ、ないしは内部工作をしに来たのかどうかを疑われているように見えた。

それから通常の何倍もの時間を待たされた後、最初にアーロン達を止めた兵士が寄ってくる。

「あー、一応聞くが何をしに来たんだ?」

少しばかり緊張を滲ませた声でそう尋ねて来る。しかし、馬鹿正直に目的は言えない。

「あぁ、最近大仕事を終えたからな。のんびりしようと思ったらエテルニタスでクーデターがあったらしくてな。騒ぎに巻き込まれるのが嫌で湯治と装備のメンテを兼ねてここまで来たんだ。随分と物々しいが何かあったのか?」

あくまで詳しい事は何も知らない、純粋に休みたい、と言った雰囲気を滲ませながら会話をはじめる。

「あぁ、知らないのか・・・すまん、もう一回待っててくれ」

そう言うと微妙な表情を浮かべた兵士は再び離れて行ってしまう。

「・・・やっぱり何かあったらしい。それも結構デカいぞ」

兵士の反応を見たアーロンはそうぼやく。

「はぁ、何でもいいから早く休みたいなぁ・・・」

エンリータのぼやきは熱気に乗って宙へと昇って行った。

良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ